表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/48

Ep13 Change of offense and defense~余裕かましてっとやヴぇーよ?御前~

久々の投稿です。

どうもかなり最近忙しいので次の更新は気長に待ってくださーい!

驚愕よりははやいスパンで出したいです。


遠藤真也の通うこの諌山中学は少し前に建て替えたので、綺麗であるのはもちろんのことなかなか複雑な作りになっている。

校舎は本校舎と副校舎の二つあり、それらは三階と二階部分の通路で繋がっている。

本校舎は地下一階地上五階建てだが、厳密には異なる。五階は本校舎の西側にのみにあり、通常教室の置かれている東側は二年生の教室の四階が最上階に当たる。

また副校舎は三階建てで二、三階には選科の授業で使われる教室がある。一階はというと実は学校ではなく小学生以下の子供が遊びに来るような児童館として貸し出されている。そして、おおよそ“L”の形をして繋がっている二つの校舎に囲まれるように校庭とテニスコートが置かれているのだ。



「えいっ」

「ひゃひっ!?」

遠藤真也はその副校舎にある音楽室で、眠っていた梨緒の顔に水をかけた。

「あれ?ここは?」

梨緒は目を覚まし起き上がると辺りを見回した。

学校うちの音楽室。お前が、多分、透明人間ゴーストにやられて気絶しちまったから運んできたんだよ」

透明人間ゴースト?って変なとこ触ってないでしょうね?…ってシンヤお前、顔が赤いわよ?」

「っ!?」

真也は涙の跡がぬぐいきれてなかったのかと、梨緒に背を向けあわてふためく。梨緒が「なんなのよ?」とのぞき込んでくるのも合わせてテンパって真也の大脳はオーバーヒートした。



「いやー、お前をここまで運んで来ただろ?あはぁー、お前のフトモモの感触思いだしちまってぇ、キモチ…」



真也はここまで口にしてから我に帰る。脳内の冷却機能がようやく聞いてきたようだ。後ろを向き現状を再確認。

しかし時既に遅し、脇が冷えた感覚がした。そっと手を当てると湿っている。その状態のままゆっくり首だけ梨緒の方に向き直る。例えるならシャッターを開けるくらいのスピード、真也の中にはガーガーって音が鳴り響く。

「ぬあっ」

真也の体が宙を舞う、頬がヒリヒリと痛むのを感じた。たれた、親にもたれたこと…あるけど。視線を向けるとぎらぎらと光る梨緒の右拳があった。肘の辺りに黒い煙がたっている。おそらく小爆発でも起こして、その反動でパンチに勢いを与えたのだろう。さらには真也が首を回していた時の攻撃なのでカウンターの要領でKOされるかと思ったと、気をなんとか持ちながら考える。

とは言っても、実はこの時に真也は無意識で自身の最強の力キャパシティの『戦意皆無よわゴシ』を発動していたので、カウンターでダメージ加算される真也発の攻撃力はゼロだったために、結果としては普通に梨緒の攻撃を受けることになった。しかし、それを感じさせないくらいの威力に真也はさっきとは別の涙を流したくなる。

「なに、寝てんのよ?」

だが、これで終わりとはそうは問屋が卸さなかった。梨緒のこれまたさっきとは別の意味で重みを帯びた声がした。音楽室という特殊な環境のせいか、体の芯にまで染みるように響き渡る。

「ひぃっ!」

真也は恐怖にすくみ上がった。もはや戦っている相手二人なんてどーでも良かったくらいに。にじり寄ってくるその姿から少しでも遠ざかろうと、情けなくその身をはいつくばらせる。こんなに何かを恐れたのはいつ以来だろうか?真也は小学三年生の時に野犬に追っ掛けられたのを思い出した。しかし今、この記録が塗り変えられようとしているのだ。

「へええぇ、あんた、そんなにキモチ良かったのね?ねぇ?」

梨緒の顔が引きっている、もしかしなくてもお怒りだと思えるほどその顔は不気味にゆがんでいた。おかしい、誰もいない静かで防音壁すらある音楽室なのに、どこからかゴゴゴという音が聞こえるのだが?いや、音源は分かってるんだ、だが正確には分かりたくない。理解したら、それだけで失神してしまいそうだ。

真也の冷や汗は止まらない。ココアカラーの髪が逆立っているとは到底思いたくないのが真也の心情である。みごとに怒髪天をいていた。

「イヤイヤ、ソンナコトナイデスヨ、ハハハ、マタマタゴジョウダンヲ?」

それでもなんとか声をしぼり出す。完全に棒読みだが…。

梨緒は真也が弁解(?)を終えると、にらみを効かす。と言っても、そもそもが怒りに歪んだ表情なため分かりづらい。

「へー、気持ち悪かったて言うのね?」

「しまった!そっちか!?いやいや無敵サイキョーにキモチ良かったっすよ?鬼ぱねえ!その弾力、戦場の花じゃな!」

梨緒の思わぬ反応に驚く真也。「(なーんだ、こいつ、照れ隠しかヨー、ちょーカワエエ)」とにへら笑い、意味不明すぎるが本人が思い浮かぶ限りの最上のめ言葉を連呼した。


「ふふふふふ、」


梨緒は暗く不気味に笑う。

「シンヤ?」

「はーい!何でしょうか?」

梨緒はどう考えてもさっきと様子が変わっていないが、真也は全く気付かない。

「あんたは…」

梨緒は震える声で口を開く。

楽観的でご都合主義な真也は梨緒はもう怒っていないとばかり思っていた。だから真也はこの性格を後で猛省した。だって痛いのは嫌いだから。


「あんたは、ホント死ねえ!変態!」


突如、轟音。

そしてそれに伴う凄い痛み。視界は黒煙でよく分からない。

「???」

真也はこれが爆発だと気付くのに一分を必要とし、知って後に梨緒に向かって伝家の宝刀『滑り込みスライディング土下座』をかました。


「ぶっちゃけ、爆発はやめてください、マジでやばいっす、シャレになりません」

「わっ、悪かったわね、分かったわよ」

この場合、梨緒は絶対に反発する場面なのだが、真也の懇願する目が今まで以上にすごみを持っていて、そうとうシビアだと感じたので素直に了承した。

真也が「有り難き幸せ」と再び頭を垂れているとどこからか声が。


「今の轟音、奴らきっと副校舎にいるぞ!」

男の怒声とともにタタタという足音。真也は「やべ」と立ち上がると、爆発の余波で粉砕された窓枠に向かい、梨緒にもこちらに来るように促す。

出るとそこには柵のない少しのスペースだけある。真也はここから下に降りろと催促した。

「はあ?ここ無理よ?三階じゃないの?」

梨緒は全力で首を横に振り真也のアホさ加減を罵倒する。しかしその様子に真也は首をかしげずにはいられなかった。

「…はあ?お前、爆発で勢い殺して着地とか、やっていたじよねえかよ?」

真也には、梨緒と学校で戦ったときの記憶が今でも鮮明としている。高い所から楽に飛び降りたり、あまつさえ機動力として用いていた。さっきのパンチなんていい例である。

「高過ぎんのよ!ここは!あの使い方は応用だから細かい計算が必要なのよ!爆発の力が大きければ大きいほど不安定になるのよ」

「成る程、ちっ、時間がねえ」

真也は焦り副校舎と本校舎の間の渡り廊下をチラチラと確認しながら、しかしてすぐ、何か覚悟を決めたかのように溜め息。

「くそっ、後で怒んなよ?」

「何がよ?って、えっ!?ええっ!?」

真也は梨緒の質問に答えずに、黙って梨緒を抱き寄せて、そして押し倒した。

しかし押し倒した着地地点ははるかに下。真也は押し倒す勢いそのままに三階から飛び降りたのだ。真也はそのまま器用に空中で半回転して自分が下になるようにする。真也は実は『受け』だったとかそーゆー訳では決してない、そしてもちろんエロい展開に持ち込もうって思惑があった訳では…、

「……………っ…」

………………、梨緒のささやかな胸が体に当たっているのを過剰に意識し頬を赤くして幸せそうな真也の顔を見てフォローのナレーションを入れたくなくなった。うん、こいつエロ魔神。脳内が性で清一色ちんいつであり、常に誰かを犯してやろうと日々奮闘するクソ野郎。相手のしょ――


「テキトーなこと言ってんじゃねえええ!!」


真也が中空に向かって叫んだ。そこに誰もいないのに。どうしたのだろうか?頭がおかしくなったのか心配である。いや、既に頭のおかしい可哀想な人だった気も…

「そこのナレ!何しらばっくれてやがる!そして人を変人扱いしてんじゃねえっ!!」

真也は背中や後頭部、両足で地面に着地した。両手はというと梨緒の背中にあてられている。

普通なら頭もうってるんだから即死だったろう。良くても全身打撲か骨折は否めない。しかし今の真也はどうだろうか。目を細くして溜息混じりに「無視かよ…」とぼやくほどの余裕があるくらい無事である。健康体そのものだった。

これが真也のクソ使えない最強の力キャパシティ、『戦意皆無よわゴシ』の力の応用によるものである。

戦意皆無よわゴシ』は“自分の攻撃力のみ”をゼロにするものである。今回は重力加速運動によって得られる推進力、あるいは位置エネルギーを自身の攻撃力と見立ててそれをゼロにすることにより、作用反作用の法則で跳ね返ってくる力を結果としてなしにしてしまうものである。原理的には先程の梨緒のカウンターを打ち消したものと同じだ。

「成る程ね、それであんたは傷一つ負っていないのね」

着地した場所は本校舎の入口に続く通路の脇にあり、植木などがある庭のようなものだった。

梨緒は即座に起き上がり真也が大丈夫なのを知ると、“奴らゴースト”に見つからないように、入口近くまで来ていた。真也からことの詳細を聞くと、うんうんと頷きながら腕を組んでいた。


「うん!てめーのせいで“傷一つない”ってのは嘘になったがな」

ニコニコフェイスを保ちながらも、目が笑っていない。真也は歯ぎしりしながら左拳を握りしめイライラしていた。

落下した後に梨緒は自分が怪我していないことに気付く前に、というよりは怪我の二文字なんて全く眼中になく自分にセクハラ行為を働いた暴漢野郎をとっちめにかかった。この一連の行動が敵側に気付かれなかったのが奇跡に近いくらいだ。真也が爆発の猛攻に耐え抜き、決死の覚悟でいさめにかかってようやく自分が一階にいるのを気付いたらしい。

「だっ…だって、あんたの目キモかったし」間違えた気恥ずかしさも手伝って真也から顔を反らしツンとする梨緒。

「キモくて悪かったな!」

「フトモモ言うし…」

「それは…ごめん」

「…………」

「…………」

自分の失態を思い出し強く言い出せなくなってしまった真也。互いに黙りこくって嫌な沈黙がしばらく続く。

「(やっぱり、あれはまずかったよな)」

相手はまだ中学生の女の子、それも他校で知り合ってまだ間もない。そんな急に抱きつかれたらこえぇよな。逆の立場ならどうだ?真也は自分の行動に恐れをなした。最初のは恥ずかしさをごまかすための冗談として、さっきのは咄嗟とっさの出来事を打開するための手段としての行動であり悪気はもちろんなかった。しかしそれは自分の中での理論。言い訳に過ぎない。それに下心ゼロ%なのか?と聞かれれば、即座にがえんじることは出来ないと思う。

真也はふと、突然に転校してしまった鏑木亮太のことを想起した。あの時、オレは鏑木をいじめていた周りに怒り心頭していた。しかし、オレ自身はどーなんだ?本当はオレが良かれと思ってやったことも嫌に思われたりもしたんじゃないか?真也は急に自分が恥ずかしくなり、右手で強引に髪の毛をきむしった。


「(何で私はこー早合点なのかしら?)」

思えばシンヤには会ったときから思い込みの連続だった。強引な論理でストーカー扱いしたし、弱い癖に意地張って「守ってやる」とか体中がかゆくなるようなこと言ってまで心配してくれるのに突き放したり、今みたいにムカついたらすぐに攻撃してしまうし…。

心底腹がたった、自分の性格に。本当に嫌気がさしてしまう。どーしてこう自分は素直に、そして正直になれないのか?

この性格が災いしたあの時のことを忘れたというのか?

「(それに…、)」

こんなにされてまで、まだ私の傍にいてくれる人がいるのだから。

梨緒は、おそらく必要以上に自分を責め続けているだろう少年を眺めた。川のように流れる漆黒を彼は強引にからめ捕り、いたずらに掻き回していた。黒が汚染されて“黒く”なってしまわれるように感じた。見た目とは裏腹に繊細で、許容量を超えて空気を詰め込まれた風船のよう。

恐ろしい、それは何かの拍子に跡形もなく消え去るようだった。

梨緒は寒気を感じ、それを取り払いたい衝動に駆られた。

嫌、嫌だ、嫌なのに…。



“また”なの?



「!?」

気が付くと、未だ黒たる黒が驚いたように目を見開いてこっちを見ている。

なんでそんな顔が出来るの?私に。


真也は梨緒の悲痛の訴えを理解したのか、哀れみの顔から一転して笑顔を浮かべた。


「はら、減ったな」


真也は考えていた。

確かに、自分の性格は最悪だったかも知れない。過去にさかのぼって自分の押し付けがましい正義をかえりみる必要があるかも知れない。


けど、今なのか?それをやるのは。


今の深刻な時にやるべきことなのか?悩むのは重要だ、反省するのは重要だ。だけど。この局面で考えごとして戦局に響くなら、それが原因で負けて力を失ったら…



オレは絶対に後悔する。



真也は笑顔を浮かべた。取り留めもないこと、それは行き詰まっている今に一見相応ふさわしくないことを言った。笑顔は自然に出て来たが、それでも足りないと思って強引に笑顔を作る。この先、一生笑わなくてもいいから今笑いたかった。

だって、おかしいだろ?

なんでオレの下らない悩みなんかで周りを巻き込まなきゃいけない?

目の前の可愛い女の子が悲しみにくれる顔をするなんておかしすぎるだろ?


「ぜってー、勝とうぜ?そんでお前ん家で飯食うんだ。もちろん琴音も。そして、あいつも呼ぼう。あのニヤケ面クソ委員長(♂)野郎も。生徒会の手伝いとか言っても無視だ。体中縛り上げてでも無理矢理連れていく」

「うん」少女は心の奥底から声を出す。

「んでよ、オレは驚くんだよお前ん家見てよ。多分こー言うんだ「てめぇー、どこのお嬢様だよ!」って。」

「ふふ…バカじゃないの?」少女は笑う。

「ははは…確かに」真也もつられて笑い出す。

それは、大爆笑ではない。むしろ真也が言ってることは全く面白くない。つまらないし落ちもない。平時に聞けば空気が冷めること間違いなしだろう。けど今はそれで良かった。それで充分笑えた。取り留めもない日常を“あたかも理想のように”言うことで、この戦いともう一つの闘いに希望が持てるからだ。






「くそっ…確かにこっちだと思ったんだがな」

「技術室にはいねえ、おい!そっち準備室はどうだったんだ?」

「いねえよ!散らかっていたからあらかた爆発させたが、死体すら転がってねえ」

技術室―と呼ばれる空間にはその一室だけ工業高校のような雰囲気があった。部屋を占めてる大部分は九つの四角いテーブルとそれに付随する六×九個の椅子だが、その周囲には電ノコや据置すえおき用のドリル、それにキリやドライバーや糸ノコにはんだごてなどが仕舞ってある棚が乱立している。中には使用用途のよく分からない大型の機械さえも置いてあった。

「ちっ」

技術室にいた仲川は敵が見つからない歯痒さも手伝っておもむろに机に備え付けられている万力に足を置く。

「まぁ、そう苛立つな奴らも風前の灯だ」

技術室に併設されている技術準備室、そこの連絡通路から西山がゆっくりと現れた。

「灯って…、結局よぉ、爆発能力者の方は仕留められなかったんだぞ」

暢気のんきなことを言っている西山に対し、自身の苛々を発散するように悪態づく。

「おいおい?そりゃあお前のせいだろ?」

仲川の突然の責任転嫁に対し、西山はやれやれと嘆息する。

「ぐっ…」言葉に詰まる仲川。

「まあ、なんにせよだ」しかし西山は別に意に介さず続ける「さっき準備室からたまたま廊下を見たんだけどよお、扉がしまっちゃあいるが、どうも爆発痕らしきものがあるんだよなあ?」

「っ!?そいつはマジか?」

あれだけの爆発があったのに彼らが真っ先に音楽室に駆け込まなかった理由は単純である。一つは技術室の方が近かったから。もう一つは音楽室の扉は完全にしまっていたが、技術室はあたかも中にいますよーって感じに半開きになっていたからだ。真也が気休めにとやったものだったが、巧を奏したようだ。いかにも罠臭い半開きの扉に彼らが慎重になっている間に、真也達は見事ダイブに成功したのだから。音楽室は中こそ焼け焦げていたが、廊下からは音楽室の扉の割りと高めに位置している窓から凝視しなくては気付かないレベルであったので一見のみでは全く分からなかったようだ。ちなみに、真也達が落ちたあとの梨緒の爆発攻撃に彼らが気付かなかったのは、西山が敵をあぶり出す為の『奴隷人形スレイプドール』を技術室内で爆発させ続けた音に掻き消されたか、一時的に聴力がいくぶんか落ちてしまった為だろう。

「まあ、待てって」

西山は慌てて廊下に飛び出そうとした仲川を呼び止める。急に止められてじたんだを踏む短気な性格の仲川。西山はゆっくりとした歩調で仲川に歩み寄る。

「んだよ西山っ」

「もしかして単身突っ込もうとしてたのか?バカが、てめえの力を考えろ。『変式指銃フィンガーライフル』なんてばりばり遠距離向けな最強の力キャパシティがあんな狭い中、“無策で”入っていったらそれこそ敵の思う壷じゃねえか。さっきの二の舞を踏みたいのか?」

「………っ」

仲川は過去に見た梨緒の爆発(彼らは真也のだと思っているが)の恐ろしさを思いだし身震いする。

「…ちっ」

西山は仲川の馬鹿みたいに臆病な様子に苛立った。それは仲川の情けなさをあざけているのではなく、同じ爆発能力者として嫉妬にも似た感情を抱いているのである。

「ふっ、まぁいい」しかし気持ちを切り替え「おい、仲川。まずは俺が人形を二、三個投げて煙幕がわりに爆発させるから、てめえは『ハンドガンモード』に切り替えてテレビとかの影にでも隠れて慎重に歩を進めていけ」

「ああ」

西山に先導される形で廊下に出る仲川。西山はそのまま音楽室の扉についている窓から覗き込み中を探る。

「どうだ?」

「いや、見える範囲じゃ人気はないな」

最初は音楽室にも併設されている音楽準備室から入ろうかとも考えたが、あいにく廊下側からの扉は鍵が締まっているらしく、開けられなくもないが多少面倒なので仕方なく正面から入ることにしたのだ。

「大丈夫なのか?煙幕で視界が遮られて狙いを定めにくいとか」

「案ずることはない」すると仲川は左手で筒のようなものを作りだし、それを覗き込むようにして「こいつが暗視装置になっているからな。照準は狂わないとは言っても別に防御手段ではないから煙で咳込む可能性は否めんが気にするな」

仲川は既に銃を構えていたので例の人が変わるように冷静沈着になっていた。

「……」

「…?どうかしたか?西山」黙り込む西山に対し怪訝となる仲川。

「……すまん、言い直していいか?」

「……………?」

「仲川、そんな装備で大丈夫か?」

「……、大丈夫だ、問題ない」


がらがらがらっと西山が慎重に扉を開ける。あたかも扉が重たいかのようにゆっくり開かれていく扉を完全に開けきると、西山は手元に人形を二、三個作りだし強引に投げ付ける。

ドンドンドーンと次々に発破していく人形。西山には梨緒のように爆発耐性フルレジストなんてものはないようで、衝撃にやられないように二人は扉の影に隠れる。轟音が止むと煙が晴れない内に仲川が素早く音楽室に潜り込む。

仲川の最強の力キャパシティ、『変式指銃フィンガーライフル』は腕や指の形を変えることによって様々な種類の銃やそのギミックに変更出来る。もっともオーソドックスなハンドガンを形作るのは手の平(どちらの腕でも構わない)の親指と人差し指以外を握りしめる。その手の状態のまま腕を伸ばしきり反対側の手で伸ばした腕の左肘を支えるとライフル、他にもマシンガンやグレネード、ショットガン等の銃も扱える。ちなみに弾切れがないのがこの能力の素晴らしいところだ。

今は右手にハンドガン左手に暗視スコープを持ち歩腹前進で進んでいる。影になりそうなピアノのところで動きを止めるとそこにしゃがみ込み、奥の様子を窺う。

「……………」

サイレンサー付きのハンドガンであらかた影になりそうなところを撃っていく。

しかし、全く反応がないのでテキトーにショットガンをぶっ放すと一気に歩を進めて音楽準備室に入る。

「……………」

そこでも同じようなことをしたが、やはり反応がなかったのであてが外れたとばかりに廊下に出る。仲川の姿を見ると西山は駆け寄っていった。

「どうだ?…って、その様子じゃいなかったようだな」

「ちっ…」

仲川は何も答えず、返事のかわりに舌打ちをする。

「こっちじゃなかったってことか?」

「じゃあ、あの爆発痕はなんなんだよ?」

「随分前のか、もしくは俺達が技術室を調べている間に逃げられたか…」

「くそっ…」

仲川は怒りのあまり音楽室の扉を蹴飛ばす。

「…、取り敢えず本校者に戻ろう。大丈夫、お荷物抱えてんだから向こうは」

気絶していた梨緒のことだろうか?西山はそう言うとUターンして来た道を引き返す。

「そんなん、とっくに目覚めてるだろ?」仲川が西山の背に追い縋るようにその後についていく。

「いーんだよ、」西山は先にある本校舎との連絡通路に目を遣り、「別に奴らが起きていようが、どっちにしろ―」






「「―どっちにしろ、この道を使うんだ」って思っているだろうよ今頃」

「え?」

昇降口、つまり生徒の下駄箱が置いてある校舎の入口。そこから出て数歩で校庭にたどり着くのだがそこから十一時の方角を見上げると本校舎と副校舎の連絡通路が見える。真也と梨緒はその体勢のまま一言二言会話をする。

「どうせあいつら窓から逃げたなんて思わない。さっきお前があそこで思いっきり力を使いまくったから窓が開いてんのは全然不自然に思われない。たぶん敵さんは隙を突かれて逃げられたとでも思っているだろうよ」

「ふふふ、さすがは私ね」ない胸を張り威張る梨緒。

「…お前、怪我の巧妙って知ってっか?」

「なんか言った?」

「いえ、なんにも」

上機嫌が一転ひっくり返って、これからやる作戦がおじゃんになるのも、傍若無人なあの爆発をこの身に再度刻み込むのもどちらもごめんこうむりたかったのでここは口を慎む真也。かわりに注意を促す。

「いいか、ここが正念場。お前は距離と威力を丹念に計算しとけ。集中を乱すなよ、カウントダウンはオレに任せろ」

「――――」

梨緒は顔を上げきっと一点に集中することでこれに答える。

「さぁ、行くぜ。スリー、ツー、ワン…」真也はそこで狂喜に顔を歪ませ、そして指をならし同時に爆発の合図の声をあげる。


「…アクション!」





「っ?」

一瞬目には、体に違和感を覚えた。

いや、その体すら超越するような違和感、比喩するならまるで空間が歪んだように。辺りを見回しても別に画期的に景色が変わっていることはなかった。いや、因果孤立ニアーディメンジョンの空間なのだから普通でないのは当然だ。だが、そんな定義的な差異に疑問をていしているわけではない。もっと現実的な、物理的な、危険信号が鳴り響いているような…。

「(…危険?)」

二瞬目には、静か過ぎる静かさに気付いた。

物音一つしないような長閑のどかな辺境、鄙国ひなくにのような感じとは違う、暴力的な静けさ。まるで音楽プレイヤーからイヤホンジャックが取れて突然聞こえなくなったような…。

「(…静か?)」

三瞬目には、今起きていることの全てを把握した。

なぜなら見たからだ、体を、その下半身を、足を。

なぜなら見なかったからだ、その足の下にある、床とかいうやつを。


「(……おおおぉぉぉぉおおおっ!!)」




見えたのはオレンジ

見えたのはブラック

見えたのはスカーレット

見えたのはブラウン

見えたのはグレー


そのなにもかもを無秩序に混ぜ合わせたなにか。そいつはモヤモヤ、ぶくぶくと肥えた立派な煙…のようなもの。それでいて粘土のように粘り気のある実体と幻想の間のような存在。傍には元々床だったものの名残、いくつかの塊があった。決して整合性のとれぬ食べ残し。

「(…?)」

ふと視線を感じた。ギロッと“そいつ”が見ているのだ。品定めするように、舌なめずりしながら。そしてあたかも俺を喰らわんとして、足を引っ張ってくる。吸い込まれる、こいつとの距離が縮む。そしてこいつは地獄のように煮えたぎり熱さが俺をおかしていく。しかし、現象とは裏腹に体中から氷海にかっているように寒い。自分で気付けるほどの明らかな体の震えシバー

「(なんだこれは?)」

体の心の鼓動が高まる。

「(なんなんだ!これは?)」

これとは、今にも西山を喰らわんとする化け物のことではない。自分の中から急速に膨れ上がる精神的な本能的なモノ。


感情、それは―恐怖―という名の危険信号シグナル


「(くっ…そ…がっ…!)」

その自身の自尊心を蹂躙じゅうりんされ、込み上げる怒りすら容赦なく飲み込み、その恐怖一色に染め上げる。自分が一番知っていたはずなのに知らなかったその姿、まさに恐怖の大王、破壊の権化。西山はその名前を知っていた。


―爆発―その覇王がゆっくりと共食いをする。



「があっ…!」

そして直後の衝撃。体に、主に脚に電流が走る。そしてその痛みとともに静寂が崩れ、違和感が晴れ、現状を把握した。

「西山っ!大丈夫か?」

西山が発した苦痛からくる叫びを聞き、仲川が慌てて駆け寄る。

やられたっと西山は思った。完全に油断していた。三階の連絡通路の床を敵の爆発で破壊され、二階のそれに叩きつけられたのだ。辺りにはコンクリート片が散らばり未だ爆発の余波の煙が立ち込めていた。

「痛っ…」

「どうした…?」

「あっ…足をやっちまったみてえだ…頼む、肩貸してくれないか?」

着地が悪かったのだろう。右足に激痛を感じた。

そうだこいつの言う通り、俺は勘違いしていた。つい、追う側というシチュエーションに酔っていた。しかし、本体を狙わず床を狙ったのは何故か?事情や最強の力キャパシティの使用条件上使えなかったのか。あるいは…、

「仲川!急いでこのまま本校舎へっ!」その場で怒号。

「えっ?えっ?」

「早くしろ!俺の予想が正しけりゃ二波がっ!」

西山のその声を聞き次は戸惑うのをやめ、全身の筋肉のバネをフル稼動し、連絡通路を渡りきると直後に爆発音が轟いた。






「ちぃっ…どうやら第二波は外れちまったようだな」

真也は空から降ってくる残骸に目をやりながら、事実を坦々と述べる。

「まっ…いいけどよ」言って、真也はそのまま残骸の下へと歩み寄るとその一片を拾い上げる。「り減らすから…、奴らの精神少しづつ…少しづ―」

「いたぞ!!あそこに…!」

突如の見知らぬ声。

「!?」

真也は声がした方角を仰ぎ見る。いや、正確には知っていた。放送室に来やがった奴だ。そこにはさっき落とそうとしたターゲットの中二病患者ヴィクターが二人いた。片方は床にへたりこみ、声をあげたもう一方(放送室で見かけた方)は立ち上がっていた。

「まっ…そーなるわな」真也はそんな言葉を漏らしつつも、内心「(調子乗っちまったなあ)」と深く反省して焦った。

「バカ真也っ!何見つかってんのよ!」

梨緒が大声を出し罵倒する。

「(バカはてめぇだ!そんな声出したら自分の場所言っているようなもんだろ!)」

心の中でそのようにありったけの声を出しながらも、いつ攻撃されるか分からないので、敵から目がはなせない。しかし真也の心配は杞憂だったようで、ちょうど死角にいた梨緒は敵の位置からは見えなかった。

「おい、じ―」真也は「(しめた)」と思い説得に入ろうとしたが、

「このやろっ!殺す!!」

「っ!!?」

興奮状態の敵がいきなり攻撃を仕掛けてきたので、真也はたまらず地面を蹴ってそこから跳んで転がりながら敵の攻撃をかわそうとする。

真也が知ったのは敵が銃の形を手で作りその腕を伸ばしてきたのと、転がりながら聞いた銃声にも似た音であった。

「っ…」

敵側からの追加攻撃はないらしく、どうやら逃げていってしまったようだ。

真也はこの後に、敵に見つかったことよりも今の攻撃を避けたことを後悔することになる。

「真也!」

梨緒が心配そうに駆け寄ってくる。それを見てゆっくりと立ち上がる。

「なに…、大丈夫。なんも心配はねえ。一回目の攻撃が効果的だったことが実証できただけで充分だ」

「?」梨緒が訳も分からずキョトンとする。

「相手を怯ませたのさ、だから今の攻撃だって一回だけで追っての攻撃はなかった」

「あ」

梨緒も気付く。真也は校庭の砂をジャリっと軽快に踏みながら意気揚々とする。

「さて、そろそろいーだろ?前半終了。攻守交代のお時間でーす。」

真也は言いながら校舎の方へと戻る。梨緒もそれについていく。

「こっちも充分に追い込まれた、それこそ肉体的にも精神的にも。だから…おんなじことをしようとしても、別に罰なんかはあたらねえよーな?」




因果孤立ニアーディメンジョンの異空間にも日は照る。今日に限ってはそれもさんさんと。体がポカポカとしてくる春の陽気の中、



残酷な鬼ごっこはその開始を告げようとしていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ