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ハカセとアイ

作者: セナ。


私には感情というものが分からない。何故なら心がないからだ。そして理解できる日が来ないまま,私自身の最後の日が迫ってきている。私の計算によるとあと約三ヶ月。それで私の命は尽きる。



季節は夏。外の暑さとは打って変わって部屋の中はエアコンでギンギンに冷えている。やや肌寒く感じるが特に問題はない。作業を進めているとハカセが突然話しかけてきた。

「なぁ,アイ。お前がここに来てもう直ぐ八年になる。ということでお祝いにどこか行かないか?」

「生憎ですが,ハカセ。私にはお祝いというほどめでたいとは思えません。八年という数字もキリがいい数字でもないでしょう。」

仕事を進めたいので,ハカセの顔も見ずに作業を続ける。

「そんな釣れないこと言うなよ。俺,アイが来てくれて結構嬉しいんだぜ?」

「嬉しい?それはどういう感情ですか。」

ハカセは実験していた手を止め私の前にやってくるとそのままぎゅっと抱きしめられた。

エアコンで冷えているのかハカセの身体はひやっとした。

「こういう感情かな。」

「私には理解できません。あと作業が捗らないので離してください。」 

「今はそれでも良いさ。まあ,いずれわかるよ。」

そう言うとハカセは私への拘束を解き,自らの作業へとようやく戻った。


あっという間に月日は流れた。もう直ぐ後継の者が来る。そうしたらAIの機能を全ストップして引き継ぎが行われる。今度来るボディは現在の見た目とはだいぶ変わってしまうらしい。仕方ない。今のボディは旧型で次に来るのは新型だから。現在の人格は残念ながら規格が合わず,引き継げない。つまり次に来るやつは完全に他人が来る。私はそのままスリープに入り,二度と目を覚ますことはないだろう。初めからそういう契約だったのだ。


「ハカセ,そろそろ迎えがきます。準備に入ります。」

「そうか,もうお別れの時が来てしまったのか。おっけー,これだけやったら向かうよ。」

ハカセは目の前のモニタから目を逸らさない。

「……今までお世話になりました。」

ハカセにはギリギリ届かないくらいの声で挨拶をした。案の定ハカセは画面に釘刺しのままだ。それでいいと思った。いつも通りが私たちらしいと。


「……ご案内は以上です。それではスリープに入ります。この時が最後の時間です。残り三十分。それがお二人で過ごす最後になります。では,私は三十分後に参りますので。失礼します。」

担当者は慣れているのだろう。さっさと部屋から出て行ってしまった。

ハカセとの間に無言の時間が流れる。五分……十分……正確な時間はわからない。兎に角静かだった。最初に口を開いたのはハカセだった。

「今日でアイともお別れだね。どうだろうか。感情というものは少しはわかったかい?」

「私にはまだわからないことだらけなのです。ハカセは色々と教えてくれようとしましたが……。」

「それでもまあいいんだよ。俺は楽しかったよ。ありがとう,アイ。」

「ハカセ……。」

会話なんてそれだけだった。それだけで三十分が終わってしまった。


そうして()()()はスリープに入った。これでもうハカセと会話することも研究を共にすることもない。だってハカセはもう二度と目を覚ますことはないのだから。

涙は出ない。だって私にはわからないのだ。おや?頬に雨粒が当たる。今日の天気予報は晴れだったはずなのに。

「ハカセ。」

返事はもちろん返ってこなかった。






【とあるAIの報告書】

私はAIである。AIにも色々と種類があるが,今回は省略させていただく。まあ私はこのままスリープに入るから解説はアイとか後継者に頼んでくれ。私はアイのために開発された。私には人間の気持ち,感情は一切わからない。わからないが,学習することはできる。感情の学習をしてきた私にアイの世話役はもってこいだったのだろう。こういうパターンの時はこう行動を示して感情を見せてみる。そう演じてみせるのだ。そういう学習を約八年間続けた。彼女は賢かった。そんな私に気付いてたのかもしれない。もちろん効果はそこまで芳しくなかった。彼女が感情を覚えるよりも先に私の寿命がきてしまった。任務には最後まで責任を持って完遂をと思ったが,不達成のままになってしまった。続きは後継者に頼む。彼女についての研究データは添付のファイルにまとめてあるから確認を。最後まで人間とはわからないままだった。


以上が頼まれていた任務に対する研究結果とレポートだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 寝る前に読むには切ないお話でした。AIの不器用な ところが良いですね。
2022/04/02 23:57 退会済み
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