6 . 悩める女性の味方②
「それと、はい。本日の紅茶のお供です」
今日の香の気分は抹茶のガトーショコラだ。
濃厚なチョコレートの風味を最大限引き立てつつも、抹茶とビターチョコのほろ苦さでクドさのないすっきりとした仕上がりに。
トロっと口内で溶けていく滑らかな口当たりがクセになるような、この店自慢の逸品だ。
「ん〜、やっぱ博士のガトーショコラは最高よね。ほんと毎日でも通いたいくらいだわ」
「ふふ、ありがとうございます。いつでもお待ちしてますよ」
香も自分の作ったものを美味しそうに食べるお客さんの姿を見るのは好きだ。
とくに彼女は本当に嬉しそうに楽しそうにスイーツを食べてくれる。パティシエ冥利に尽きるというものだ。
「…うん。博士、私決めたわ」
一口一口じっくり味わいを楽しんでいた彼女は、突然何か意を決したように握り拳をつくり、強い瞳をこちらに向けた。
はて、一体何を決めたというのだろうか。
「私、博士のスイーツを全力で楽しむためにも本気でダイエットするわ。体を気にしながらダラダラやったとしても仕事もスイーツも中途半端になるだけだもの。ここに来る回数は減らさないけれど私生活を見直すことにするわ」
「ふふ、やっぱり『Caprice』が一番の原因のような気もしますけど息抜きも大事ですよね」
どうやらダイエットの決意を固めたことからくる強い眼差しだったようだ。
彼女のことだから、おそらくやると決めたら徹底的にやるだろう。
食事管理や適度な運動、ハードなトレーニングに至るまで。ただでさえ忙しいのに、その上プライベート時間を削ってダイエットに充てる時間を作り出して。
そういう中途半端を許さない彼女のストイックさを心から尊敬する。
自分ときたら仕事面はまあ良しとしても、生活面はグダグダすぎて話にならないから。
「とは言ったものの何かいい方法はないかしら。ねえ、博士も甘いもの好きだけど全然太らないわよね。どうやって体型維持してるの?」
「ふふ、ちゃんと維持できてるのかはわからないですけどね」
「もー、できてるから聞いてるのよ。何かいい方法はないかしら」
「そうですね。直接的なダイエットというよりは精神面でのお話になってしまいますけど、日頃から紅茶を飲むことをお勧めしますよ」
「紅茶? そういえば私はここ以外であんまり飲まないわね」
紅茶と言われて手元のミルクティーに視線を落とした彼女は興味深そうにカップの中を眺める。
これについてはただの迷信、気持ちの問題だと思う人もいるかもしれないが、実は紅茶には嬉しい効能がたくさんある。
「紅茶にはカフェインやテアニンといった成分が多く含まれていますので、疲労回復、リラックス効果が期待できるんですよ。とくに運動前に飲むとカフェインが脂肪の燃焼をサポートしてくれるのでダイエットにも向いていると言われています」
「あれ、でもカフェインって珈琲にも入ってるわよね」
「ええ、カフェインと聞けば珈琲と仰る方も多いでしょうけど、実は紅茶にも含まれているんですよ。だったら珈琲飲めばいいんじゃないのと思われるかもしれませんが、紅茶には渋味の元であるタンニンという成分が含まれているんです。この成分が本当に優秀なコでして、老化の原因となる活性化酸素の発生を抑えてくれますし、シミやソバカスの予防にもなるんですよ。ね、優秀でしょ? どうせダイエットするならお肌の健康も守りたいじゃないですか」
「……今まで漠然と博士って呼んでたけど改めて博士って呼ぶことにするわ。ダイエットのサポートにもなって肌も守れるなんて一石二鳥じゃない。紅茶がそんなに優秀だったなんて知らなかったわ」
へえ、と感心したように再びミルクティーに口をつけ、今度は味を確かめるようにゆっくり飲み下す。
もちろんミルクティーには糖分がたくさん入っているため、ダイエット時は砂糖なしかストレートで飲むのをお勧めする。
少しでも頑張る女性のサポートになれば。
そして少しでも紅茶に興味を持つ人が増えてくれたら嬉しい。
「ここにいらした時はゆっくりしていってください。ストレスはダイエットの大敵ですからね。心身のリフレッシュのためにも影ながら応援させて頂きますね」
「ありがとう博士。頑張るわ」
ダイエットというものは世の大半の女性にとって常に隣り合わせにある存在だ。
時に煩わしく、時に大きなモチベーションに繋がるとても厄介な存在。
だから世の女性たちはそんな存在と手を取り合い、この先も上手に付き合っていくしかないのだろう。
つまり何が言いたいのかというと。
ダイエットにも適度な息抜きが必要だよね、という話。
* * *