魔女の白昼夢と青年の初恋(8)
登場人物
ローザ......アディスの魔女。恋をしたら魔力を失うとの言い伝えのため、男性への免疫が無い。
モニカ......ローザの親友。アディスを領地とする、侯爵家の末娘。金髪碧眼の派手な美少女。
オリビエ......アディスに静養に来た「侯爵家のお客様」。本人達にその気は無いが、モニカの婚約者候補。
主様......アディスの守り神で代々アディスの魔女を導いてきた。人の前に現すときはオオツノジカに姿を変える。
「オリビエ様。何かしましたか。」
「何もしていないよ。」
振り返らずに尋ねるモニカに、困惑気味に答える。
「オリビエ様。」
くるりとオリビエに振り返ったモニカは、真っ直ぐな瞳でオリビエを見つめた。
「大事な話かな。」
「ええ。いえ。私にとっては。」
少し目を逸らしてから意を決して、浅く息を吐いた。
「これからするお話しは、誰にも、父にも秘密にして欲しいお話です。オリビエ様はアディスの魔女に敬意を払って頂いている、と信じてお話しさせて頂いても宜しいですか。」
オリビエは少し目を見開いてから頷き、モニカに椅子に座るように促した。自分も座り直し「それで?」と促した。
「アディスの魔女は、宮廷魔術師よりも、恐らくは才能豊かで、知識の豊富な、そして何よりも不老長寿と言われております。ご存じですね。」
「ええ。正直なところ、モントでは眉唾ものの噂話として扱われているが、私は信じているよ。」
王都、モントでは宮廷魔術師以外、魔法や魔術を扱う者は存在しないという。不老となると、宮廷魔術師の中でも賢者と呼ばれる、最高位の魔術師のみ。さらに不死というと、一介の田舎魔女がまさか、と思うのも無理はない。ローザは魔術師と魔女は全く異なるものだと言うが、モニカからすればプロセスが異なるだけで、魔術師にしろ、魔女にしろ、求められる結果が同じなだけに、違いが良くわからないし、魔女の方が優秀に感じる。
「ただ、昨日主様の話を聞いていて不思議に思ったのだが、ローザの母君はアディスにはおられないのか。」
「ローザの母親は、ローザが5歳の時に流行り病で亡くなりました。」
「しかし、魔女は不死では無いのか。」
「ええ。本題はそこにあります。」
先程ローザに出されたお茶を一口啜り、口を湿らせる。どこの誰ともわからない人に、領主である父にすら伝えていないことを、ローザの許可無しに伝えても良いのか。しかし、今伝えなくてはローザが傷つくことになるかもしれない。少しの逡巡の後に、モニカは口を開いた。
「魔女は人間に恋をすると、魔女で無くなるのです。」