魔女の白昼夢と青年の初恋(1)
緑豊かな土地アディス。美しい水と澄んだ空気が、美しい薔薇を育てるこの地では、薔薇の香水が特産品である。他にも薔薇のジャムに薔薇のクッキー、薔薇の生花と特産品には事欠かないが、第一級の静庸地でもあり、まだ魔法が強く息づく神秘の土地でもある。
そんなアディスで、黒髪碧眼の少女ローザは、薬草をとりにちょっとした崖をよじ登っていた。
「ローザ!危ないからよして!」
親友のモニカの声に「あと少しだから!」と答えて手を伸ばす。
(この薬草があれば、原価無しで治せる人がたくさんいるもの。)
そうすれば、安価で薬を提供できる。みんなは普段より安く買えて、ローザは普段より儲かって、良いことずくめだ。
『ローザ、わざわざよじ登らなくたって箒をつかえばいいのに。』
薬草の位置を教えてくれた鳥が、ローザの横に来て囁いた。
「いいのよ、お金のために魔法を使うのは好きじゃないの。」
魔女仲間の中には魔法で生計をたてているものも大勢いるが、ローザのポリシーは魔法ではなく知識で生計をたてることだ。
『頑固ね。まあ、がんばって頂戴。これで借りは返したからね。』
一か月ほど前に怪我をしてローザに助けられた鳥は、そう言って旅立った。はぐれた仲間に追いつけるといいけど。そう思ってまた一段石をのぼる。下でハラハラしているモニカのためにも早くのぼらなくてはと思うが、焦って落ちては元も子もない。
慎重に登って崖の中腹にある穴へ辿り着く。一息ついて顔をあげるとお目当ての薬草は果たしてローザの予想を超えるほど十分に咲いていた。
「モニカ!あったわ!すぐにとっておりるから!」
「急がなくていいから!安全に!」
心配そうに見上げるモニカに微笑んで、ローザは地道に薬草を袋に入れ始めた。