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第7話 付き合いの長き面々

 真一が、ナーシャ姫のたゆやか?(作者が作った造語、豊満な胸のこと)な胸に押し潰されて意識を手放してしまう。ほんの一時前のこと。



「コーニャ」


召喚の大部屋、両開きの扉の前で、ターニャ王妃は魔女コーニャを抱きしめる。彼女の名前は、コーニャ・ダリアフラウ・ルクサーヌ。ターニャ王妃のお抱えの魔女で大親友で、そして姉とも妹とも言い慕っている。


 魔女コーニャのミドルネーム、’ダリアフラウ’は、ターニャ王妃が贈ったものだ。ターニャ王妃……。いや、ターニャがまだ、タルマ王の婚約者だった頃、タルマ王子がプロポーズと共に贈ったのが、’ダリア’というミドルネーム。

その喜びを姉、コーニャにも分かち、純白のダリアとしてコーニャには咲いて欲しい。そして、『私は赤いダリアとして共に咲きたい』という願いを込めて、当時のターニャはコーニャにミドルネームを贈った。

贈られた魔女コーニャは、ミドルネームの由来の花、ダリアの品種フラウの愛らしくもあり大胆でもあるような花弁の付きと、純白の色に魅了されたという。それゆえに魔女コーニャは、『我が生涯、ターニャと共に咲く』と、誓ったのだいう。


 魔女コーニャは、マジックヒューマンである。

彼らは長寿だ。千年を超す長寿の者も数えるくらいには居るが、平均寿命は五百歳~八百歳。大幅な振りの平均寿命だが、彼らは、百五十歳を越えた辺りから個人差が激しくなって行く、それ故に一括りでは表せない。年齢の感覚は、ヒューマンと同じで時の経過で数える。


一方、ターニャ王妃は、ハイヒューマンである。

彼らの年齢の感覚は、時間年齢、肉体年齢、精神年齢と、三種類ある。

時間年齢は、時の経過で数える。

肉体年齢は、肉体の背格好や状態から数える。

精神年齢は、精神の成長によって数える。


ハイヒューマンのそのような年齢の感覚から、女性ならば、時には姉であり時には妹でもある。男性ならば、時には兄であり時には弟である。そう互いが呼び合って親しみを込める。


まあ、ハイヒューマンの話しはこの辺にして。また別の機会に話そう。



「コーニャ」

「ターニャ」


二人は抱きしめ合う。

そして暫くするとスッと離れ、手を繋ぎ互いの額を付け話しをする。


「会いたかったコーニャ」

「会いたかったターニャ」

「元気だった?」

「ええ、ターニャも元気だった?」

「ええ」


互いを見詰め、にっこりと微笑む二人は名の通り、美しいダリアの花のようだ。


美しい花のようなターニャ王妃と魔女コーニャは、やがて繋ぐ手を解き、瞳には互いに熱いものを宿らせた。


「さて、ターニャ。ここに向かう途中に、フランツ医師とルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、シャルレタと合流したの。早速取り掛かりましょう」

「ええ、コーニャ」

「皆との打ち合わせはね、ここへ来るまでにほぼほぼ済ませてあります。この件が終わったら、お茶の時間までね」


魔女コーニャがウィンクをすると、フランツ医師、ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、シャルレタ。皆が相槌あいづちを打つ。


「助かるわ、コーニャ」

「では参りましょう! あ、その前に。ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、お願いがあるのだけれど」


「王妃なんなりと」


二人の術師が左手を胸に敬意を払う。


「どちらの手でも良いのです、術式を授けてもよい手の平を出して貰いたいの」

「と言いますと?」


年老いた魔術師、ルーブルが聞く。


「ルーブル、今から説明をします。皆が大部屋に入ったら一端、この両開きの扉は施錠をします。その後、私とコーニャが南の塔(召喚の部屋)に入った後の話です。その施錠を解いて欲しいの。そして、万が一の時には再び扉の施錠を行って欲しいのです。この召喚の大部屋の各扉は王族しか、開閉、施錠とも出来ない構造になっています、ですが、’王族の印’と開閉の術式を授ければ誰でも扉の開閉が出来ます。頼まれてくれますか?」

「フォホホホ、承知しましたぞ」


ルーブル魔術師は返事をすると、ルートベルト呪術師と、二言三言、会話を交わした。そして、


「ターニャ、では私が施錠を致しましょう。そして若い肉体を持つ機敏なルートベルトに、万が一の策として動いて貰いましょう」


「ええ、ありがとう。ルーブル、ルートベルト」


二人に礼を述べ、


「では、手を」


ターニャ王妃が言うと、ルーブル魔術師は左の手の平を、ルートベルト呪術師は右の手の平を出した。


「我は紡ぐ’王族の印’、ここに扉の鍵をたくさん」


ターニャ王妃は、両の手の平を上に向けて詠唱を紡ぐ。すると、手の平の上に乗るくらいの赤い魔法陣が現れた。陣が現れ、次に鍵の形をしたものが陣の中心よりでて、


「お渡しします、よろしく頼みます」


そういうとターニャ王妃は手の平を返して、ルーブル魔術師の左手の平に、ルートベルト呪術師の右手の平にと、自分の手をかざす。すると、赤い鍵がポトリと二人の手の平に落ち、手の平に模様のように張り付いた。


「御意」


ルーブル魔術師とルートベルト呪術師はターニャ王妃に敬意を払う。


三人のやり取りが終わったことを確認した魔女コーニャが、


「ねえ、ターニャ?」

「何かしら? コーニャ」

「これ」


魔女コーニャはベールの下から紙のようなものを出す。ビラ~ンと札束(この世界に紙幣があるのか、疑問だが)のように出したそれは、


「’魔女コーニャの召喚符’」


魔女コーニャは、満面の笑みで話しを続ける。


「これは、この紙を使えばコーニャがあらあら不思議。召喚されてしまうのよ。といっても私擬きが出て来て、一度だけ補助が出来るというものだけれどね。まあ、使える魔法は一通り、威力はそこそこという感じかしら。ルーブルとルートベルトには、MP(魔力)の補給として使うことも出来るわ。とんだチートアイテムよ」

「チートアイテム?」

「ええ」

「それはね、ウフフッ。今は内緒にしておくわ、話しが長くなってしまうもの。気になるならターニャ。勇瑠たける・シャルロト王子か、花琉はる・ローズ姫にお聞きなさいな」

「んもぉ~、あら、私たら」


ターニャ王妃が顔を真っ赤にして俯く。


「フォホホホ、これは美しい赤いダリアが咲きましたな」


ルーブル魔術師がいうと、皆が微笑む。


「ルーブル! もうぉ、冷やかさないで下さいませ」

「フォホホホ、これはこれは失礼しました。緊張はほぐれましたかな? 皆はターニャのお陰でほぐれましたぞ。緊張は時にはよろしくない方向へと事を運ぶやもしれませんからな。ここに居る者は皆、長い付き合いの者たちですしな。どうですかな? 美しきダリヤの君、ターニャ」

「ルーブル」


ターニャ王妃の顔が、ぱぁ~と明るくなる。


「ありがとう! ありがとうですの! 私は恩を返しきれませんの、『美しきダリヤの君』と、コーニャと私のことを呼んで下さいました。偉大な魔術師ルーブルが愛称で呼ぶことで、私はこの国の六の字を持つ王妃として認められ、コーニャにはこの国で魔女としての数々の道を付けて貰いました。近年やっと、魔術師でもなく呪術師でもない専門職として魔女が登録されました。私はなんとして恩を返せば……、それから……」

「ターニャ、良いのですよ」

「いえ、最後にこれだけは! 私たちを愛称で呼んで下さったことで、この国の皆は身分という垣根を越えました。国の皆が呼んでくれるのです、コーニャと私のことを『美しきダリヤの君』と! 時代が進めばコーニャの種族、マジックヒューマンのように身分という概念が無くなるかも知れません。偉大な功績なのですの、ルーブル!」

「フォホホホ、ターニャ王妃、ありがたき幸せに存じます」


ルーブル魔術師がターニャ王妃に向かい左手を胸に当て敬意を払う。

熱弁を終えたターニャ王妃は、満足そうにほんのり赤色を頬に染めて微笑み、美しいダリアの君となって咲いた。


「もう、ナーシャは! 隙あらば、ルーブルに皆にその話しをする」

「コーニャぁ、許して下さいませ」

「フフッ、でもこの話を聞く皆の顔はねぇ?」

「そうですね、懐かしそうに笑顔をこぼしますね」

「分かっているわね、ルートベルト」

「ええ、有名なお話しですしね」

「もう、もうぉ」


魔女コーニャに突かれて、ルートベルト呪術師にも言われて、いたたまれなくなったターニャ王妃は、


「そういえば、フランツは?」

「え?」


と、一同が声を上げる。


「ターニャ? 扉の開閉とともに一目散で、降り立ちの間に向かったフランツのこと、気付かなかったの?」

「え、ええ」


真顔で言うターニャ王妃に、


「プッ」

「フォホホホ」

「わっははは」

「クスクス」


それぞれが笑いを堪えきれずに笑い出す。


「ターニャ、話しの流れから行くと、私たちをリラックスさせるために、『美しきダリヤの君』の話しをしたのではないの?」

「いえ、私は本気でルーブルに感謝を伝えたくて」

「本気で?」

「勿論です」


ぶっはははは!!!


「皆様! ここは、笑うところではないのですの!!!

んもぉ、シャルレタまで、ですの」


ターニャ王妃が憤慨ふんがいするが、


「姫、ターニャ、口調が子供の頃に戻っていますよ」

「ああ、恥ずかしいですの」

「クスクス」

「んもぉ、シャルレタ」

「はいはい、見た目はターニャよりもずっと若いですが、中身はおっさんですからね僕は。クスクスと笑ってしまったのは申し訳ない。でも……、今でも僕にしてみれば、可愛らしい姫君ですよ」

「むぅ」


ふくれっ面を見せるターニャ王妃。

ターニャ王妃は、幼い頃、敬語が上手く使えずにいた。その時に付いた口癖が、たまに今でも出てしまう(まあ、その口癖は、ナーシャ姫に受け継がれているわけだが……)。


「フォホホ、まあでも皆これで、リラックスすることが出来ましたな。ことに良い状態で取り掛かれるでしょう」

「そうですね、ルーブル」

「ええ、ルートベルト」


魔術師、呪術師の二人が意欲をたぎらせる。


「じゃぁ、皆にコーニャのチートアイテム、コーニャ召喚符を渡しておくわ。ああ、そうそう。こっちは薬に関する召喚符。これはまとめてシャルレタに渡しておくわね」

「ありがとうございます、コーニャ」

「フフッ」


魔女コーニャが微笑むと、皆が互いに目を合わせ、頷く。


「では参りましょう」

「御意」


ターニャ王妃の言葉に。ルーブル魔術師、ルートベルト呪術師、シャルレタ、魔女コーニャが敬意を払う。そして、


「あ、扉の施錠を忘れましたの」


クッ。


皆がプルプルして拳を作り、その場を絶える。たまに発動してしまう、ターニャ王妃のお約束である。


そして一同は、降り立ちの間へと向かった。


勿論、ターニャ王妃は、召喚の大部屋の両開きの扉に施錠を施して。

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