表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/56

第32話 真一と竹千代王、血の縁7―出逢い―

 「俺からさ、話すよ」


酷く項垂れるようにして俯く竹千代王に、真一は告げるように言った。


「ああ」


とだけ言う竹千代王。

感情がぶつかり合う人との深い話しは、このように疲れるものだったのであろうかと、項垂れる自分を立て直そうともせずに、只、ただ、先を待つというような具合だ。


「俺がさ、九歳の時にふらりと親父が帰って来た。

藤宮の屋敷に親父が帰って来た日。俺はさ、親父の『真一!』と、叫び屋敷の中を闊歩する親父に出くわしたんだ。丁度、台所の前の廊下を通り、俺の居場所の物置に行く途中だった。俺を見付けた親父はさ、『真一!』と、叫ぶと俺に向かって足を進め、俺を抱きしめた。そして、真一真一と呼びながら、『ごめんな』ごめんなと繰り返す。俺の名前を呼んではごめんなと繰り返していたんだ。そこへさ、義母が現れて、俺の頭を脳天からぐうで殴った。俺は暫くして大声で泣き出して、顔を上げた親父が義母の方を見ているんだろうことは分かった。その後、義母は俺を親父から引き離そうと俺の背中や脚を蹴り出して……、仕舞いには親父は俺に覆い被さって俺を庇った。その内に、音が聞こえたんだ……、ビュて言うような音が聞こえた。そして、祖父の声が聞こえた。親父を罵倒するその声は、心底、恐ろしかったよ。その祖父が親父を棒のような物で殴っていたんだと思う。その内に親父は、俺の上にぐったりと重くのし掛かった。その後は、親父が俺から引き剥がされ、俺は物置に押し込められたよ……。

数日間、俺は自分からは物置から出られずに、朝になるとお手伝いさんが物置から出して学校に向かわせたのだけは覚えているよ。

しかしさ、不思議だったのがさ、人間、ショックなことが起こると、腹が減らないんだな。もともと俺はさ、食事は、一日一回、生卵一つご飯一膳を夜に貰って、何故か祖母の前で睨まれながら食って終わりだった。それすらもさ、俺は数日、喉を通らなかった。だがな、不思議なのは、学校の給食だ。友達を前にするとさ、これが食えたんだよな……」


そこまで言うと、一息吐く真一。そして話しは続き、


「俺は、その人が俺の実父だと知るのに……、否、わかるまでかな……、結構、時間が掛かったんだよ。

あれから(尚武が藤宮家に帰って来て真一を抱きしめたあの日から)二、三週間経った頃からだと思う。親父はさ、たまに屋敷の中で俺を見掛けては、疲れた顔で笑うんだ。でもさ、最初は俺……、俺の顔を見て笑いかける知らないおじさんの顔見ては不思議で堪らなかった。けれど、その場を逃げだそうとは思わなかったし、暴力を振るわれるような感じがした訳でもないんだ。只、ただ、不思議と懐かしさがあったものだから……、その知らないおじさんが俺に笑いかける度に呆然と見ていた。『真一!』と呼んで俺を抱きしめていた親父と気が付くのに時間が掛かったんだよ。けれど、なんだろうな、微笑まれるのに慣れた頃には、俺もそのおじさんを見かける度に笑っていた。まあな、滅多に会ってはいないんだ。俺は、藤宮の屋敷に帰れば、即効、物置に押し込められたからさ……」


黙って聞いている竹千代王。さっきまで俯いていた顔は上げ、真一を見て話しを聞いている。話しを続ける真一。


「そんな日々を俺が送っていたある日、どうも隣の大きな屋敷に誰か越して来たらしくてさ。その屋敷は白が基調の建物で白百合邸という名前が付いていた。

竹千代、近所で評判だったんだぜ。綺麗な外国人の家族が引っ越して来たって。日本語も上手くてさ、小さな天使みたいな女の子と、王子様みたいな男の子が居るてな。

それでさ、俺が学校から帰って来たある日、たまたま藤宮の屋敷の前で隣の白百合邸に引っ越して来た家族と出くわしたんだ。その時に、父親らしい男性に抱えられた小さな女の子が、『磨嶋真一』、磨嶋真一、と言って、指をさすんだよ。俺はさ、少し歩み寄ってその女の子に向かってさ、藤宮真一、『俺は藤宮真一だよ』と、言ったんだ。でもさ、その子は俺を指さしたまま磨嶋真一磨嶋真一磨嶋真一……、と言い続けるものだから、俺も向きになって、藤宮真一藤宮真一藤宮真一……と腹の底から叫ぶように言った。すると、ピタリと磨嶋真一と言わなくなったと思ったら、大声でその子は泣き出してしまったんだよ。そうしたら、その子を抱き上げていた男性がオロオロし始めて、俺に微笑んでさ、『すまないね、娘が泣き出してしまった。ここではなんだから、中でお茶でもどうだい?』て、流暢りゅうちょうな日本語で話しかけてきたんだ。けれど、俺は怖くなってきて家に帰ろうとしたんだけれど、その子が泣きながら、真一、真一真一と言うんだ。俺、困ってしまって……。すると、白百合邸の玄関の扉が、門から見て開かれるのが見えて。中から真っ赤な髪の綺麗な女性が現れたんだ。その女性は門まで来ると、『プリンは如何いかが? 日本のプリンというお菓子は美味しいのよ』なんて言うんだ。俺さ、その、『プリン』て言葉に……釣られて……、いいや! げんたんを思い出したんだと思う。兎に角、俺は頷いて、彼らに付いて白百合邸にお邪魔したんだ。

これが、タルマ家族との初めての出会いだと思う。

不思議だったのがさ、俺が白百合邸にお邪魔してタルマとプリンを進めてくれた女性とで俺を藤宮の屋敷に送ってくれた時のことだ。俺は当然あとで物置から引きずり出されて叱られると思っていたんだけれど……、それがなかった。

それどころか、数日後、タルマが迎えに来て、再び白百合邸にお邪魔……、あ、いや。その日から、あの磨嶋真一と言って譲らなかった小さな女の子の遊び相手として、毎日、学校から帰ると通うようになっていたんだ」


話しを聞いていた、竹千代王が口を挟む。


「真一、それはな。タルマが口添えをしたのじゃ。タルマの話しでは、日本に来て間もない私たちの娘には、遊び相手も居ない。だが、人見知りをして泣くばかりの娘が、真一くんには懐いているようだから、真一くんを家の娘の遊び相手として我が家(白百合邸)に寄越してくれないか。と頼んだそうじゃ。まあ、ただで済むはずも無かろうと思ったタルマはな、藤宮総合病院に寄附を申し出たのじゃよ。最初に一千万円だったかのう……、それから半期に一度、数百万円の寄附をしておったはずじゃ……」

「また、金か!」


驚いたように大きな声を出す真一。竹千代王は、


「まあまあ、真一。現在日本は少なからず、金の世の中であろう? 仕方のないことだ」

「そうだけど……」


納得の行かないというような真一の口振りは、子供のようだった。それを苦笑いをして見ていた竹千代王は、


「ぬっ、心配せずともよい。腐っても王族じゃ。というよりはな、我らはゲートを通り現在日本に行くのじゃが、その紙幣を手に入れるためにの、こちらから金を持ち込み日本で換金するのじゃ。まあ、勇瑠と花琉が手配してくれるのじゃがな。その金もな、別のゲートとの取引で安定した価格を我らの世界では保っておる。それにの、現在日本よりこの世界の金の価格は少しばかり安い。だから、金(現金、紙幣)の心配はせんでもよい。

それに……、もう、過去の話じゃよ」

「そうだけど……。そうだけど……、というかだな! ゲートて幾つあるんだよ……」

「ふむ、ゲートは安定して開いておるのが、六つじゃの。そして、現在日本を入れて七つじゃ」

「え……」


固まる真一に、竹千代王は、


「まあまあ、ゲートの話しは折を見て話そうぞ」

「う、うん」


ポカァ~ンとする真一だが。しかし、気を取り直し、話しを続ける真一……、大人になったのか? というよりは流石に三十路である。と言った方が語弊がないかもしれない。否、子供ぽい仕草も多々ある真一だが、今はそういうことにしておこう。


「週五日、大体、月曜日から金曜日。俺は、白百合邸に通った。

小さな女の子のナーシャは、俺からしてみれば、驚くべき才能の持ち主なんじゃないかと、子供心に思ったよ。何せ、絵本を読むことを強請られて、色々と読んで聞かせたけれど。すぐに内容は覚えるし、暗記をしているように、絵本のお話しを俺に話して聞かせてくれるんだ。字を覚えだした時には流石に驚いたよ」

「そうであったか……、絵本とな。ナーシャは、今でも絵本が好きじゃよ。色々なところから集めて来よる。絵本の図書館でも始めるつもりかもしれぬ。と、今では皆で噂をしているよ。

そうかそうか、当時の話なんじゃがな。上手いこと何かが噛み合ったのかのお~、真一がナーシャの遊び相手として屋敷に来てくれるようになってから、磨嶋真一という名前(言葉)以外にも言葉を喋るようになったそうでの、タルマ、ターニャ、ルベルトと、初めて意思の疎通が出来るようになったそうじゃよ。今でも、嬉しそうに話すタルマの顔が浮かんできよる」

「え?」


と驚く真一。さも当時の様子を知っているように話す竹千代王に聞く。


「竹千代、どうして当時のことがそんなにわかるんだ? まるで手に取るように……、そんな感じがしてならないんだが……」


『フフッ』と、微笑んだ竹千代王は、


「先ほど、予言の話しをしたじゃろ?」

「ああ」

「其方が生まれてから、現在日本には、隆之介だけではなく、勇瑠と花琉、そして源雷らが、頻繁に通い情報を集めておったのじゃよ。まあ、この世界からそちらに向かった人間はまだまだ居るがの。それも追々説明するとしよう。

そして、週に一度は、誰かしらが情報を持って帰って来おったからな、ここ三十年は」

「え?」


再び、口をポカリと開ける真一。


「源雷さん? また、知らない名前が出て来たぞ! 俺の頭の中はパンクしそうだ! なんだか、金や生い立ちや、そんな諸々に干渉的になっている暇なんてない気がしてきたぞ? そうなのか? 俺の辛いと思った過去てそんなもんだったのか? なあ、教えてくれ! 竹千代」


真一が混乱を口にすると、苦笑いをしながら竹千代王は、


「まあ、この機会だ。真一、其方も全て吐き出してしまえ。どうせ、我らはこれから長きに渡る付き合いになる。それにのぉ~、一週間後には勇者のお披露目もあるしのお~」

「なんだって?」

「ふむ。勇者とはな。勿論、真実の勇者、その名を真一と言う! のだがな。わっはははは!!! 

ああ、いかんいかんのお、我の口が滑っりよった~」


パイプ椅子から立ち上がり、腰に手を当てて高らかにというような笑い声を上げて言う竹千代王。言い終わるやいなやニヤリと不適な笑いを浮かべる。

再び、否、何度目なのか! 真一は、金魚が餌を喰らうようにパクパクと口を開け、固まっている。



さて、話しの行方は……、真一の過去の話は続くのか?

それとも、勇者のお披露目の話しへと転ぶのか?


話しの先は見えぬが……、カーテンの向こうに人影あり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ