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第3話 ナーシャ姫の召喚

 レジェンド王国。


「我が名は、ナーシャ・七・グラン・レジェンド。

七の字を持つ者として字を持つ者に連なりし者っ……」


詠唱を唱える者あり。


「きゃあアあぁ」


扉の塔にて。

此処ここは、レジェンド王国の王族のみが使うことの出来る召喚の部屋。数在る召喚の部屋の内、南に位置する。

そこに悲鳴が一つ、響く。薄絹を幾重にも重ねた薄色のロングドレスに藍色のロングベール。ドレスの裾を踏んづけて、


「痛っぁいぃ~んもぉ」


発動した魔法陣の上に派手に転ぶ(大丈夫なのか?)。


「いえ! こんなことをしている場合ではないのです。早々に勇者様を召喚しなければっ!」


何やら意気込む?


「ナァ~シャアァアアア、ふぁいとぉお!」


勢いよく立ち上がった七の字を持つ者、ナーシャ姫。豊満な胸がたゆんと揺れる。


扉の塔の一室でナーシャ姫は一人、勇者の召喚を行おうとしていた。


「嫌な予感がするのですわ。昨日から眠れず、嫌な予感がするのです。わたくし、わたくし、ナーシャはそんなに寝付きの悪い方ではなく、むしろ普段からよく眠れる方ですのに……ですわ!」


何やら不穏をつぶやくナーシャ姫。


「勇者様。私の勇者様、シンイチ・マシマ……、そう! 真一・レジェンド様!

幼い頃、私が見付けた真一様、ハイヒューマンであり、勇者であり。この国を救う、いえ、この世界を救うのですわ! 真一・レジェンド様はっ! あなたがこの世界には必要ですの! そして私の王子様ですの! そしてそして、未来の七の字を持つ王、レジェンド王国の七の字の王なのですわ! つまりは……、わ、わたくしの、伴侶。旦那様、ダーリン、ハズバンドですのっ!」


一気に捲し立てる。


「やだ、私ってば、恥ずかしいぃ。ヤダヤダ、はしたないですのぉ、ですわよ!」


クネクネと動き。


「きゃぁきゃぁ」


歓喜の声が出て、


「嗚呼っ!」


何やら気付く?


そして、暫しの沈黙が召喚の部屋に鎮座した。


「わたくしったら……、もう、なにをやっていますの! 急ぎませんといけませんのに……。この胸のモヤモヤとしたもの、うつとして頭をげるもの……。嫌な予感がしますの、するのですわ。急ぎませんと……」


口をつぐむ。



 この召喚の部屋は、石造りで形状は円状に出来ており円周には13本の石造りの柱が建っている。その柱は12本が乳白色、1本が半透明な素材で出来ていた。ナーシャ姫は半透明な素材で出来た柱を背にして数歩進んだところで魔法陣を敷いていた。部屋の中心、今は魔法陣の中心から上の部分は建物三階分ほどある吹き抜けとなっているが、天井からは注ぐ光もない。13本の柱にはあかりをともせる設備もあるのだが、真夜中だというのにナーシャ姫は13本の柱には灯りもともさずに、召喚の部屋の壁にあるわずかな灯りのみをらしていた。


「魔法陣よ、陣よ。我の言葉は届いているか?」


床は大理石だろうか? 地の色は乳白色で白く時折ときおり色が変わる宝石は、そう、オパールのような宝石を散りばめていた。その床のすべらかな面のその上に装飾のように魔法陣が敷かれていた。


そして、魔法陣はナーシャ姫の問いに答えるかのように陣全体の輝きを強め刻まれた字を輝かせた。輝いた字は言葉を話すように順に光を強め、やがて、魔法陣は静かに収まる。


「ありがとう、陣よ。では、続けましょう」


ナーシャ姫はそういうと、続いて羽織るロングベールを両側共もに払いのけ、空中を両手で押すような仕草をする、そして両肘が軽く伸びたところで体の動きを止めた。


「我、ナーシャ・七・グラン・レジェンド。

我が求むは勇者なり、勇者の召喚なり。

この国を救う者なり、否! 世界を救う者なり。

求む勇者は、その名をマシマシンイチ(磨嶋真一)。その者なり。

いま此処に召喚せよ!」


『……召喚せよ!』と、詠唱とともにナーシャ姫は両腕を伸ばしきり宙を押す。伸ばした両の手の平は、魔法陣の圧を感じてか、何かを受け止める形に指は自然と形を成した。魔法陣は白い光をまとう。暫くすると、ナーシャ姫の左手薬指の’思いの指輪’と’縁の指輪’が砕けた。


「魔法陣よ! 陣よ、嗚呼、わたくしの思いが、真一様との思い出の縁が……」


左手薬指の第三関節と第二関節にまっていた指輪は、ハラハラという具合に落ち、床に付くすんでのところで塵となり落ちた。


「嗚呼」


グスン。


ポロポロと涙を零すナーシャ姫。けれど、その涙には気付かぬ振りをして。


再び、


「陣よ!」


ナーシャ姫の呼びかけに、魔法陣は輝きを増して行く。輝きが増すごとに変化を見せる魔法陣は、最初、白い光を放った。白い光は次に色を付け七色となり宙を舞う。宙を舞う七色の光の色が収まった頃、文字の輝きが増し、一文字一文字が役を持つように床から浮かび上がる。それを見ていたナーシャ姫は、不意に両膝を折りひざまずく。そして、


「陣よ陣……、色々詠唱を端折はしょりました。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。でも、でもね、わたくしごとの、事情があるのです。どうか、どうか……」


魔法陣から浮かび上がった文字が、意志を沈めたように陣に降りる。


「どうかどうか」


ナーシャ姫はひざまずき、魔法陣のふちに触れるか触れないかの場所に両手をつく。うつむくナーシャ姫。その間に魔法陣に刻まれた文字は、一文字が光り、そして、更に次の一文字が光りと、順に白い光を放ちながら全ての文字を輝かせた。


「早く!」


そして、白い輝きを放った文字は進むべき道を辿たどるかのように、今度は順々に一文字を輝かせ魔法陣を一周した。


魔法陣は、地の形と文字を光り輝せ、その輝きを強めて行く。どんどんと光を強め、眩しく思えるほどの輝きを放つ。その時、


刹那せつな!!!


ガラガラガラ、ピッシャーーーン!!!


突然、雷鳴のような音が召喚の部屋の中にひびく。


「キャァアアア」


ドド、ドーン!!!


続けざまに音はナーシャ姫をおそうかのように部屋に響き……、


「イヤァアアアア」


悲鳴を上げさせた。


怯えて縮こまり、魔法陣の縁に付いていた両手は、我が身を抱きかかえ込んで、震える。


「ら、雷鳴? このような場所に? いえ、あり得ないのです! ここは部屋の中! 一室なのですわ」


恐怖はナーシャ姫に言葉をしゃべらせる。


「そ……、それ、よりも。それよりも召喚にて、このような……。このようなことは、わたくし……。わたくし、ナーシャは」


ゴトッ。


「キャアアアア」


音に敏感に反応したナーシャ姫は、咄嗟とっさにつむった目を更に固くつむり、我が身を抱きしめる腕を強めた。


ナーシャ姫の悲鳴が召喚の部屋に響いた後、何事も無かったかのように辺りは静まり返っていた。


暫くしてナーシャ姫は、瞑ったままのまぶたに、あの魔法陣の輝きの光を皮膚が感じないことを感じ取り、音無く静まり返る雰囲気を抱きかかえたままの体が感じ取った。


ナーシャ姫は恐る恐るといった具合に、目をゆっくりと開ける。うつむいたままの顔を上げて、


きゃ、きゃぁアアアア。


「あ、あ、あ……」


ナーシャ姫、言葉にならず……、


「真一・レジェンド様ぁあああ」




磨嶋真一ましましんいち、異世界召喚である。

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