第2話 秘密
少年の名前を聞いた鬼姫は驚愕の表情を浮かべたまま訪ねた。
「まさか、貴方生き残りなのかしら?」
さっきまでとは違う鬼姫の雰囲気にこの場の誰もが息を呑む。
「うん、そうだよ。」
そんな中、少年ーー糸織は動じず答えた。
「僕以外、殺されたんだよ。」
少年は、その頃を思い出したのか顔に怒りが宿って見えた。
「そうなの、ごめんなさいねぇ。嫌なこと思い出させてしまって。」
鬼姫は申し訳なさそうに眉を下げた。
「大丈夫だよ。こうして生きているし。」
少年は諦め、悲しみ寂しさを顔に滲ませながらそう言った。
「ねぇ!ねぇ!糸織はどうやってあの男たちを倒したの?」
脱兎が思い空気をものともせず糸織に疑問をぶつけた。
「あぁ、これだよ。」
そう言って、手のひらに乗せてあるものを見せた。
「なーにぃ?これ。糸?」
脱兎にはよく分からなかったらしく後ろで覗き見ていた影夜と鬼姫が口を挟んだ。
「これって、ワイヤーですか?」
「そうねぇ、ワイヤーに見えるわねぇ。」
そう言い、糸織に答えを促す。
「これは特別な糸なんだよ。」
そう言って指輪のようなものを両手の指に1つずつ嵌めた。
「こうやって、っと!」
思い切り腕を振り近くの壁に向かって糸を降った。すると、壁にくっつき暫くすると壁に糸が見えなくなった。
「え!?すごぉーい!」
脱兎は目をキラキラ輝かせ大喜び。
「確かにすごいわねぇ。」
「えぇ、確かに。」
と鬼姫と影夜が言う。
「ですが、扱いが相当難しそうですね。」
影夜だけが、この糸の扱いずらさに気づいていた。普段隠密任務をしているだけあって利便性のある武器や道具に目がないのだ。
「そう。よく分かったね影夜さん。」
糸織が素直に認める。
「随分あっさり認めますね。」
影夜は少し驚いた。
元は名家であった縫合家の産物を誤魔化しもせずに言ったからだ。
「まぁ、扱いずらさが取り柄ってわけじゃないからね。」
糸織はなんでもないように話す。
「そうですねぇ、糸織君には色々聞きたいことがあるので私達と同行してくれないかしらぁ?」
糸織と影夜の会話を聞いていた鬼姫はそう提案した。
「そーだね!脱兎もしりたぁーい!」
脱兎も聞く気満々のようだ。
「うん、わかったよ。どうせ逃げられないし。」
糸織は諦めたように鬼姫に答えた。
「うふふ、ではいきましょうかぁ。」
ーパンッ
鬼姫が手を叩くと門が開いた。
「さぁ、ここを通って行きますよぉ。」
糸織は唖然としていた。
「ほらぁ、いくよー!」
脱兎に押し込まれるように糸織ほ門の向こうへ吸い込まれていった。
ーブゥン
門が開きさっきとは別のところへ到着した。
「はい、着きましたよぉ。」
鬼姫はニコニコと糸織をみる。
「なに、おかしいことでもあった?」
糸織は少し不貞腐れている。
「いいえ、年相応の反応をしてくれたのが嬉しいだけよぉ。」
鬼姫は微笑ましい笑みを絶やさない。
それもそのはず、門を通っている途中で糸織は終始驚いていてそれを脱兎に弄られていたのだ。
「まーまー!そんなに気にしないでよぉー。」
脱兎が糸織に絡む。
糸織は鬱陶しそうに脱兎を退かした。
「では、ボスのところへいきましょう。」
影夜がそう言い、先導する。
「あれ、影夜さんいつの間にそこにいたの?」
脱兎にコソコソと聞く糸織。
「影ちゃんはいつもあんな感じだよぉー。」
答えになってない答えが返ってきたため少し落ち込む糸織。
「さぁ、もう少しで着きます。」
影夜の声に意識を前へ向けただならぬ雰囲気を感じた。
「糸織さんそんなに固くならずに大丈夫です。」
影夜に内心を見抜かれたのかと焦る。
「そうだよー。ボスは優しいからぁー!」
脱兎が楽しそうに糸織の方を叩く。
「いったいなー!叩くなよ。」
そのやり取りのおかげで少し強ばった表情が解れたことを確認し、影夜が扉の向こうの人物へ声を掛ける。
「ボス、只今戻りました。」
扉の向こうに耳を傾ける。
「うむ、入って良いぞ。」
凛とした声色を耳にして、糸織は心を奪われた感覚になった。
扉の向こうはどのような人物なのか。
糸織達4人は扉の先へ進むのであった。