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『英雄』を狩る者  作者: オーエン
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一話(2)




 ……翌日。

 刺激的で騒々しかった入学式の次の日ということもあってか、志音のクラスも至るところで生徒達が落ち着きなくソワソワしている。

 このクラスだけではない。

 学園中の生徒が様々な理由で、新しく出来た後輩との邂逅を今か今かと待ち望んでいたのだ。

 今日の午前中は全学年合同の対面式となっているため、いつも以上に気合いを入れている者や、身嗜みを気にする者もちらほら。

 かくゆう志音の隣でも、手鏡とドヤ顔でにらめっこしている自称イケメンがいるわけで……。


「ん〜……。やっぱりこのアングルが一番、オレのカッコよさをアピールできるベストアングルだと思うんだよな〜。志音もそう思わないか?」


 志音が視線を送っていたことに気付いていたのか、急に意味のわからない質問を投げてきた。

 この男の名は、兎月とつき 健吾けんご

 この男もまた志音の数少ない友人の一人であり、志音がこの学園に入学して以来、何かと行動を共にしている悪友である。

 ワックスでガッチガチに固まったオールバックの頭。見た目体つきは細身ながらも筋肉はそれなりについている。

 本人曰く、モテる為だけに死ぬ気で細マッチョを目指した結果だそうだ。

 ちなみにルックスは可もなく不可もなく、本人が言うほどカッコよくはない。


「…………知らん」


 志音は健吾の言葉を全力で無視し、自分の席でダラリと突っ伏す。

 志音の席は一番後ろの窓際。夏場は暑くてうんざりする日差しも、春真っ盛りなこの時期は至福の灯火である。

 お日様に温められた机にベッタリと体を預け、日向ぼっこを満喫するには最適なのだ。


「ったく。相変わらずダラダラしてんな〜。そんなんじゃ、俺みたいにモテないぜ!」

「……あぁ〜、別にいいよぉ……それで」

「そんなんじゃ駄目だぜ親友! 俺達の青春は待ってくれないんだ! 右も左もわからない新入生達(主に美少女)が困っているところに颯爽と登場するオ・レっ!! この甘いイケメンボイスで「どうしたんだい? 何か困っているようならいつでも力になるよ……(キランッ)」それだけで女子達はオレに一目惚れ間違いなし!! あとはトントン拍子に彼女ゲットで青春を謳歌しちゃったりなんかして!!」


 途中からはただの欲望と妄想だったが、少なからず新たな出会いに胸を膨らませている者は健吾だけではない筈だ。

 たが、欲望を丸出しにしてしまう愚か者が今、志音の目の前でご都合主義な一人芝居を人目も憚らずに行っている。


 案の定、健吾がモテたことは今の今まで一度としてない。当然である。


「一緒に童貞……卒業しようぜ!」

「一人で勝手にやってろ……。てか、発情期なのはわかったから朝っぱらから騒ぐな。……一緒にいるコッチまで同類扱いされるのは御免だ」

「なぁに言ってんだよぉ♪ 照れんなって♪」

「呆れてるだけだ」

「オレと比較されるからって自分を卑下する必要はないんだぜ? 志音には志音の良いところがあるって! ソコをわかってくれる子を探せばいいんだよ!」

「……オレの良いところ……ねぇ」


 また一人で語り始めた健吾をまた無視し、志音は少し考えた。

 自分に『良いところ』と胸を張って自慢できる事などあるのだろうか、と。


「…………ない、な」


 誰にも聞こえないような小さな言葉で呟く。

 とそこで、朝礼の開始を告げるように、鐘の音が校内に響き渡った。




     ◇◇◇




 昼休み。


「……なぁ、学食行きたいんだが……」

「シャラップ! 朝に言っただろ! あの計画を今から実行するんだよ。志音も付き合え」


 対面式が終わり学食へと向かっていた志音だったのだが、途中でエンカウントした健吾に捕まってしまった。

 そのまま引きずられるまま一年校舎へと連れてこられ、現在に至る。

 流石に昼休みともなれば、廊下でも生徒数は多い。志音としてはすぐにでもその場を離れたい程なのだが、志音のネクタイを掴む健吾(バカ)の手が志音の逃走を許さない。


「計画って……なんの話だよ?」

「はぁ!? その年で認知症でも患ってんのかお前。優しく話し掛ける作戦――もとい『イケボでコロリ作戦』だよ!」

「あぁ、アレって計画だったのか……」

「志音にもオレのおこぼれをくれてやるっていう、親友からの心配りだよ。遠慮すんな♪」

「余計なお世話だ……」


 だが、どうやら標的を見つけたのだろう。志音の言葉など無視して健吾は歩くスピードを早める。

 志音は諦めて着いて行く。

 ただでさえ、上級生が下級生の校舎に乗り込むというだけでかなり目立つというのに……、今の現状を端から見た光景は「鼻息を荒げている変態と、リード代わりにネクタイを引っ張られているペット」だ。悪い方にばかり目立っているわけだ。

 志音は心底うんざりしていた。


「うしっ、んじゃちょっくら彼女作ってくるから、お前はソコで黙って見てな♪ 華麗なるオレ様の美技(テク)を見せてやるぜ」

「あぁ〜、はいはい。やるならさっさと行け」


 意気揚々と女子生徒に近付いていく健吾を見送り、志音は少し辺りを見渡した。

 相変わらず目立ってはいるが、今は気にしないことにする。

 つい数ヵ月前までは、志音もこの一年校舎を利用していた。別に深い思い入れがあるわけではないが、志音が使っていた席を誰が使っているのか……少しだけ興味があった。


 といっても、用も無いのに教室内を覗く勇気など志音にはあるはずもないので、その興味もすぐに消え失せる。

 そうこうしている内に、呆気なく撃沈したらしい健吾が顔面に青あざを残して戻ってきた。


「……一応、戦果を聞こうか……」

「さ、さっきの子はシャイだったんだ! オレの魅力にあてられすぎて、つい手が出ちまったんだよ! ツンデレだったんだな!」

「……そうか」


 ちなみにその生徒はというと、嫌悪感全開でコチラを睨んでいた。

 服装は動きやすく改良されたチャイナ服。健吾の怪我から察するに顔面をもろに蹴り飛ばされたのだろう。自業自得である。


「つ、次、行くぞ!」

()りろよ……」

「いいや! まだ可愛い子はいるだろうし大丈夫だ。こういうのは早めにやるに越したことはないっていうし♪」

「……それならせめて相手くらいはちゃんと選べ。さっきのやつは服装からして明らかに『戦闘特化組』の生徒だろう……。痛い目を見たくなかったら、せめて非戦闘系のヤツを狙えよ」


 志音の言った『戦闘特化組』というのは、剣術や武術など近接戦闘に特化した生徒の事である。そういった体を激しく動かす戦闘を得意とする者は、大抵が制服を着用しない。

 動きやすさを重視するがゆえに、自分の戦闘にあった服装を常時着用している者がほとんどなのだ。勿論、全員に当てはまる事ではないが、『後方支援組』や『長距離戦闘組』などよりは、制服率は格段に低い。


「おぉ……、おぉおぅっ!!! やっと協力する気になってくれたのか相棒! 待ってたぜ親友!」

「勘違いすんな。これ以上変に目立ちたくないだけだ」

「このこの〜、ツンデレめ〜。野郎のツンデレは気持ち悪いぞ〜」

「……ホントうぜぇなお前……」

「おっ! 可愛い子発見! 制服だし、今度は大丈夫なんだな!?」

「少なくとも断られた時の肉体的ダメージが比較的少ないってだけだ」

「んじゃ行ってくる!」

「……人の話を聞けよ……」


 志音も暇なので、事の一部始終を観察することにした。

 健吾が次に目を付けたのは、先程とはうってかわり、少々気弱そうな制服姿の女子生徒だった。

 周りに取り巻きや友人などは見当たらないので、たぶん一人なのだろう。

 そこへ、鼻息を荒くした健吾が話し掛ける。


「……はぁはぁ、お、お嬢さん。今一人? も、ももももし困ったことがあったら、オレが何でも力になってあげるよ!」

「えっ? あ、あの……何ですか。すいませんが、急いでますので……」

「いやいや、そう言わずに〜。オレ、何でもするよ? あっ、友達待たせてるなら紹介してよ♪ 一緒に昼飯でも……」

「い、いや! 近付かないでください!」

「そう言わずにそう言わずに〜……へへへ……」


 志音の目から見ても、明らかに不審者であった。


 ――と、そこで……。

 女子生徒に伸ばそうとしていた健吾の腕が、横から何者かの手に掴まれた。

 瞬間、まるで警察が犯人を取り押さえるように、巧みに組み伏せられ、腕を後ろに回された状態で床に押さえつけられる。

 志音の見た限りでも、その一連の動作に無駄も隙も無かった。

 ……そしてそれで終わりではない。


 ――ガィンッ!!


 大きな刃物が床に突き刺さったような鈍い音が廊下に反響する。

 どこからともなく現れた銀色の槍が健吾の頭のすぐ横に、深々と突き刺さったのだ。


「学園内での不純異性交遊、及び、脅迫行為は禁止されているの……もちろん知ってますよねぇ♪ 二年C組、兎月 健吾くん?」

「い、いででっ!! 痛いっ! 痛いっす! 腕、千切れるぅ!!」


 志音は呆れながらその場に近付く。

 因みに、健吾を一瞬で取り抑えたこの女性は、当学園の風紀委員長様である。

 名前はアリシア・ユーフィリア。

 学年は志音や健吾と同じく二年生。藍色の透き通るような髪を頭の右側で束ねた……いわゆるライトテールで。おっとりとした声音や雰囲気は整った容姿と相まって、一部の熱狂的なファンからは天使や女神と呼ばれるほどだ。

 凹凸のメリハリがとれた体型もさることながら、何よりも目を惹くのは、その優しさに満ち溢れた笑顔だろう。

 誰に対しても平等に優しく、その笑顔に見とれてしまう男子生徒は後を断たないという。

 だが、ソレでも風紀委員長である。風紀委員の『長』。その肩書きは生徒会長と肩を並べるほどの身分だ。

 生徒を率いるのが生徒会長ならば、生徒を正すのが風紀委員長。弱くては務まらない役職である。


 実質、アリシアはソレに見合うだけの実力の持ち主なのだ。

 それは今現在、健吾を数秒で無力化している事からもわかる筈だ。優しさの中に確かな強さがある。


 志音も一目置く実力者の一人だ。


「えーっと〜、兎月 健吾くんと……アナタは確か、夕凪 志音くんですねぇ♪」


 アリシアのおっとりした瞳が志音を捉えた。

 志音もまさか話し掛けられる事はないだろうと油断していたので、少々身構えてしまう。


「…………違うって言ったら信じてくれるのか……?」

「勿論、信じませんよ~♪ アナタ方の顔と名前はしっかり記憶しておりますので、間違えるなんて失礼なことはいたしません♪ 安心してください♪」

「……安心していいのか、ソレ?」

「二人ともブラックリストに入っていますもの♪」


 極上の笑顔でサラッと衝撃発言を残すアリシア。


「……『二人とも』……か」

「はい♪ 兎月くんは言うまでもないかも知れませんが、不埒な言動や行動が目立ちますね〜。今回もそうですが、あんまり酷いと退学になっちゃうレベルなので気を付けてください。ね♪」

「いぎゃぁああああっ!! 腕がっ、腕がぁああ!」

「夕凪くんは……そうですね〜……」

「……オレ、何かやらかしたか? ソコの変質者に比べれば大人しい方だと自負しているつもりなんだが……」

「ん〜……、何と言いますか〜、努力不足?」

「あぁ〜、ソレが理由でブラックリストなんですか……」

「違くてですね~……。君のお姉さんが「彼は不真面目だからブラックリストに入れておきなさい」って言ってたから、……仕方なくですかね~?」

「アイツの仕業か……」


 どうやら志音の預かり知らぬ所で、結歌の横暴がまた炸裂していたらしい。


「だから君も一応、要注意人物なのです♪ それで質問なのですがぁ、二年生の二人が〜、どうして一年校舎にいるのでしょうか〜? まさか、まだ一年生気分が抜けないのでしょうか? それとも校舎内で迷子になっちゃったのですか〜?」


 アリシアは笑顔だ。だが、その目はまっすぐに志音を捉えている。

 見た目も雰囲気も優しさの塊なのに、志音は今……ピンと張り詰めたような緊張感の中にいた。

 そんな中で、志音は不適に笑う。


「いや、対面式の時に可愛い子がいるな〜って思った『オレ』が、健吾を無理矢理連れてきてナンパしようとしていたんですよ♪ でも、オレが自分から話し掛ける勇気がなかったんで、健吾にキッカケを作って貰おうとしていた……」


 志音は自然な動作でアリシアに近付いていく。

 目的はアリシアではないが……


「それと……」


 足を止める。

 志音とアリシアは一メートル前後という距離まで近付いた。そして志音は、そのまま右足を上げ――


 健吾の頭を思いきり踏みつけた。


「仕置きが目的なら、この位やらなきゃ……ダメだろう?」

「……お友達に随分と酷いことするんですね〜♪ 周りの後輩ちゃん達も引いちゃってますよ〜?」

「まぁ、そんな事より……事の成り行きは理解できたか?」

「つまりは〜、問題の元凶は夕凪くんだと〜、そういう事でいいんですか?」

「理解力があって助かるよ」

「ふぅ〜ん……」


 健吾を拘束していた手を放し、その場に立ち上がったアリシアはあっちから、こっちからと、志音の周りをぐるぐると回って観察する。

 最後に、また志音の眼前に戻り、志音の瞳をじっと見据える。

 そしてまた満面の笑顔に戻る。


「そうですかぁ〜。夕凪くんは『そういう事』にしたいんですね〜」

「……へぇ、アンタにはそう見えんの?」

「うふふ♪ 今更、悪人顔しても遅いですよ〜。まぁ、今回は注意だけさせて貰いますが、次を見かけたら生徒指導室行きですので~、気を付けてくださいねぇ♪」

「…………」

「それと、嘘つきは泥棒さんの始まりですよ〜? それじゃあ、私はもう行きますのでぇ♪」


 そのまま一年の人混みの中に消えていったアリシアの背中を、志音は釈然としない顔で見送る。

 志音としても駆け引きと言うほど、緊張していた訳ではなかった。

 自分を犠牲にする嘘は、これまで幾度となく吐き続けたのでバレない自信はあった。

 別に健吾を庇いたかったわけではない。ただ、昔からの癖だ。


 だがおそらく、アリシアのあの目はすべてを見透かしていた。

 他人の言葉ではなく、自分の目で見た事実のみを信じる人間が、志音は苦手だ。


「……おい、そろそろ……足どかせよぉ……」


 志音の足の下から呻き声が聞こえてきたが、その言葉を無視して足をグリグリと押し付ける。


「てめっ! グリグリすんなぁー!!」

「うるせえ元凶」

「痛い。ハゲる! ハゲるって! せっかく二時間かけてセットした髪がぁああ」

「……たく、不愉快だ。さっさと学食行って飯食うぞ……」

「いや! まだ昼休みには余裕が――」

「……この惨状を見て、まだモテるなんて妄言を吐く気か? このクズは」


 やっとの思いで志音の靴裏を脱出した健吾が辺りを見渡すと、志音の言う通り……もはやナンパを出来るような雰囲気ではなかった。

 例外なく、そこにいる全員が二人から二メートル以上の距離を取っているのだ。

 先程から至るところで陰口が量産されている。その目は汚物を見るようなもので……。


 健吾の計画がアッサリと崩れさった事を自覚させるには十分すぎた。


「……」

「行くぞ……変態」

「…………はい」




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