プロローグ【『英雄』】
ど素人の書いた作品ですので、面白くないかもしれませんが……最後まで読んでいただけるとうれしいです!!
どの時代にも『英雄』と呼ばれる人種は存在する。
やさしく、強く、誰からも愛され、敬われ、羨望される。名を知らぬものはこの世に存在せず、人から人へ語り継がれる……伝説のような一人。
『正義』をその身で体現したような、『最強』を謳われる一人。
「……はぁ、……はぁ」
少年はその伝説と対峙していた。
全身を駆け巡る激痛に耐え、今にも消えてしまいそうな空前の灯火と化した意識を無理矢理に繋ぎとめ……、少年はただ、その一人を殺気を孕んだ瞳で睨み続けた。
全身は傷だらけだ。
切り傷、刺し傷、打ち身、骨折、火傷、凍傷、目に見えるものや感覚で感じ取れるものだけでもそれだけ。
だが、それでもまだ……相手を考えるならば軽いものである。
なにせ、今……少年の目の前に悠然とたたずむ一人は、『英雄』の名を語る愚か者ではなく……正真正銘、間違えようのない《本物》なのだ。
武装した数十万の軍勢をたった一人で【誰一人として殺めることなく、武力のみで退けた】という伝説を残す、化け物ような存在。
交渉なしの武力のみ、聞くだけならば野蛮に聞こえるかもしれないが、『英雄』は殺さずに……むしろ『生かすため』に戦い、味方や民のみでなく……敵さえも守りぬいて、数千年もの間続いた無駄な《大戦》を一人で終結させたのだ。
それを考えれば……五体満足な状態で対峙できていること自体、もはや奇跡のようなものである。
「……はぁ、はぁ、……ふざけるな」
少年は吠える。
「ふざけるなよ……っ」
「…………」
「……っ、ふざけるなぁあああ!!!」
「…………」
「戦えよ!」
「…………」
「オレと……戦えよっ!!」
「…………」
「オレは……ガキだけど……! 弱いけどっ! でも……でも!! 戦えよ……!」
「……」
「ちゃんと……戦ってくれよ……」
幾度目かの会話。
だが、そのどれも返ってくるものは無言。
『英雄』は答えない。
赤いローブに包まれた細身の体。フードを深く被っているので顔は見えないが、数回の接近で髪が黒の長髪ということだけはわかった。
だが、それだけだ。
それだけしかわからない。
少年は『英雄』が男なのか女なのかすらも知らない。
だが、それでも少年はソレがかつての『英雄』だと認めた。その圧倒的な力や身のこなしは自身に刻まれた無数の傷を見れば嫌でも実感する。
そしてその傷を生む、純白の剣は……伝説の剣とさえ語り継がれる剣。英雄剣【エリュシオン】。
勇者の剣なんて生易しいものではない。
一言で表すのなら……鞘のない剥き出しの凶器。
岩も鉄も山も海も関係ない。ソコにあるものなら風でさえ、思いのままに断ち斬る。
圧倒的なまでの暴力。
勝ち目など、最初から存在しない戦い。
『英雄』はいまだ無傷。
対して少年は言うまでもない。
装備していた武器防具は数瞬でただの鉄屑と化し、それから数十分……いや数時間は経過したかもしれないし、もしくは数分も経っていないかもしれない。
時間の感覚などもうわからない。
ただ、逃げ場もない広々とした草原で……間近の死から逃れるために、みすぼらしくもがいているだけ。
「オレは……死なない!」
「オレは……死ねないっ!」
「だから、ここで証明してやる……」
最期くらいはせめて……不格好に嗤って……
「コレがオレの――全てだっ!!」
終焉の剣。
唯一絶対の剣。
その刀身を……紅い血がつたう。