脱出
「うご、くな」
トリガーに指をかけ、けだるい体でどうにかサンクに銃を向ける。
「……そんなもの、隠していたのか」
「下手なことをしたら、うつ」
「そんな状態でできるのか? やってみればいい」
サンクは、お構いなし、といった具合だ。
くそっ……
銃口の狙いが定まらない。
加えて、トリガーを引く指に力がこもらない。
その時、リザが目を覚ました。
「きゃああああああああっ」
「うるせえっ!」
サンクがリザを殴りつける。
まるで夢の中にいるみたいに、体が言うことをきかない。
撃て、と脳が命令するも、トリガーを引けない。
リザがいいように弄ばれる。
体が熱くなる。
狙いの定まらない銃口で、僕はトリガーを引いた。
「……っぐ!」
サンクが、驚いた顔をして、僕を見た。
片方の目が、赤だ。
衝撃で、コンタクトが一枚、目から剥がれ落ちたらしい。
負傷した肩を手で押さえ、次の瞬間、姿が消えた。
「……! どこに消えた」
サンクが突然消えた。
ベッドの下を覗いても、いない。
僕は、リザの肩をゆすった。
「大丈夫か?」
「うっ……」
まだ、意識が朦朧としているのか。
リボルバーをベルトに挟んで、リザを抱きかかえてると、無理やり部屋から脱出した。
テーブルに置いてあった車のキーとサイフを盗み、僕らは屋敷を後にした。
隣街までやって来ると、車を路肩に止めて、扉に手をかける。
(リザに服を買わないと……)
だけど、リザをここに一人にしておくのは危険か?
唐突に消えたサンク。
唐突に現れる可能性だってある。
「……」
でも、車は1時間以上走らせたし……
その時だった。
小声で、リザがこう言った。
「いか、ないで」
……リザが目を覚ますまで、待つか。
早朝、昨日のしおらしい態度とは打って変わって、リザは一人で服屋へと向かった。
上着を買ってくると、タバコを手にして戻って来た。
「アンタも吸う?」
「えっ、何でそんなの買ってきたの」
紙タバコを一本口にくわえて、火をつける。
「吸わなきゃやってらんないでしょ」
いやいや、未成年だよね?
……でも、あんなことがあって、いかにリザといえど、内心堪えたのかも知れない。
僕だって、人に向けて銃を撃ったり、正直、ナーバスな気分は抜けない。
「……じゃあ、一本だけ」
一緒にタバコを燻らせる。
タバコの苦い味が、舌の上に広がった。
タバコを吸い終えると、窓から投げ捨てて、リザが言った。
「ロズウェルまで、私が案内するから、運転頼むわよ」
「案内するのはスマホだよね」
「うるさいわね。 いいから、行けっ」
僕らは、ロズウェルへと向かった。