出発
「ほら、立ちなよ」
リザが僕に手を差し伸べて来る。
「ほんっと、心配したんだけど」
僕は、その手を取って起き上がった。
「私だってビックリしたわよ。 おばさん、急に銃を向けてくるんだもの」
それで、咄嗟に草むらに飛び込んでやり過ごしたらしい。
おばさん、何で急にスイッチが入ったんだろう。
……もしかしたら、僕が手がかりをつかんだことと関係してるのかも。
「で、手がかりは?」
「これ、見て」
地図アプリの中に、ロズウェルが登録されてることを説明する。
「ここに、おばさんがアンタに渡したい何かがあるって訳ね」
僕は、コクリ、と頷いた。
「確証はないけど」
リザは、すぐにそこに向かおう、と言った。
「マジ!? ちょっと急じゃない? 移動手段だって、お金だってないけど」
「そんなの、ソレでどうとでもなるでしょ」
リザが指さしたのは、僕が手にしているリボルバー。
いやいや、銀行強盗でもする気かよ……
それでも、無理やり手を引かれて、僕らはトレーラーハウスを後にした。
「ねえ、やっぱ準備不足だって!」
僕は、ひたすら前進していくリザに、そう呼びかけた。
しかし、つべこべ言わず歩きなさいよ! と一括されて終わる。
絶対、無理だ。
ロズウェルまで歩いて行くなんて……
それに、この森は昔、殺人があった場所で、地元民は絶対一人で出歩かない。
「……まあ、今は二人だけどさ」
とにかく不気味だ。
森の奥から、殺人鬼が僕らに目を付けてるんじゃないだろうか?
リザもそのことを知ってるハズだし、怖くないのか?
「ねえ、この道、絶対やばいって」
「あんた、ここ通学路でしょ。 まさか、殺人鬼うんぬんにビビってるわけ?」
図星だ。
でも、そんなわけねーじゃん、と強がって見せる。
「ふ、ふざけんなよ! 誰がそんな……」
その時、僕らの脇に一台の車が停車した。
パワーウインドが開くと、車内から男が呼びかけて来た。
20代くらいの好青年って感じだ。
「2人とも。 こんな夜中にどこに向かうつもり?」
「あ、私たち、ロズウェルって所まで行きたいんですけど…… 途中まで、乗せてもらえませんか?」
乗せてもらえたらラッキーだ。
でも、若干うさん臭い気もする。
(まあ、これもあるし、平気か)
最悪、襲われそうになったら銃がある。
「一日じゃ行けないし、もう辺りも暗い。 お金はあるの? 今日は近くのモーテルにでも泊まった方が良いと思うよ。 そこまでなら送ってもいい」
この人、悪い人じゃなさそうだ。
連れ去って僕らを殺すのが目的なら、家に来なよ、とか言うに違いない。
それに何より、目の色が青だ。
信頼していいと思う。
「……それなら、あなたの家に泊めてもらえません?」
「えっ」
僕と運転席の男は、同時にそう言った。