トオル現る
「えー、ペンギンのトオルです」
キーン、というマイクのノイズ。
うるせえっ、という罵倒がステージ下から響く。
さっきのふ〇っしーみたいな奴は、やっぱりトールか。
どうやら、ペンギン、らしい。
「今日は楽しんでいってくれよなっ! じゃあ、踊ります!」
トールは、ステージの上で激しく踊り始めた。
あれは、ブレークダンスというヤツだろうか。
足を出したり引っ込めたりして、時に逆立ちからのヘッドスピンを決める。
斜めって失敗するも、めげずにトライ。
客席からのブーイング。
ジャンプするトール。
ロブスターを頬張る客。
汗をまき散らすトール。
シカトする客。
水を飲む僕。
空気と化すトール。
トイレに行く客。
水を飲む僕。
気づいたら、いつの間にかステージは終わっていて、ワカメと珊瑚礁が漫才をしていた。
「えーっと……」
僕は、こっそり店の裏に潜入し、トールを探した。
魚たちが、着ぐるみを脱いでペットボトルのドリンクを一気したりしている。
生臭い熱気に、まるで、居酒屋のゴミ箱みたいな場所だ。
その中に、いた。
トールだ。
ペンギンの着ぐるみから上半身を出し、頭にタオルを巻いている。
「あの、トールさんですか?」
「あん?」
こちらに振り向いたトールは、無精ひげを生やし、筋肉質なオッサンだった。
「何だ、おめぇ。 俺様のファンか?」
「ファンでは断じてありません。 あの、この鎖、ほどいて貰えませんか?」
「鎖? ああ、そいつか。 だったら何か一発、芸を見せな」
急な無茶ぶり。
いやいや、そういうの苦手なんだけど……
「ちっ、しゃらくせぇ、手本を見せてやっからよ」
槍をむしり取られると、穂先を逆さまにして、ギャグを披露し始めた。
「おーでかーけでーすか? レーレレーのレー」
槍を箒に見立てているのか?
それで床を掃きながら、今のセリフを言った。
この、何とも言えない気持ち。
これは、滑った、というヤツだろう。
「……どうだ?」
「あ、はい」
「はい、いいえは聞いてねんだよ。 ウケたのか、ウケなかったのか聞いてんだ」
「ウケ…… ませんでした」
「何だよ今の溜めはよ! 期待しちまったじゃねーか。 まあ、元ネタが分からねんじゃウケねーか。 じゃあ次はお前の番だ」
槍を渡そうとした時、トールの体が南京錠に触れた。




