第一話
今日も目が醒めた。
いや、醒めてしまった。
6歳の事故から約10年、毎朝同じ思いを繰り返した。
そして、目が醒めると運命を恨んだ。
俺は6歳の時に、家族旅行の帰り道で事故に遭い家族全員を失ってしまった。
幼かった俺は辛うじて上半身は動くが下半身は感覚が無い事を嘆くしかなかった。
そして胸からケーブルで繋いだ生命維持装置を何度も抜こうとした。
6歳だった俺は父さんの職業を知らない、正確には憶えていない。
ただ、死と隣合わせだと云うことで高額な生命保険と何かあった時の遺書を用意していた。
おかげで俺は約10年の間、病院で過ごした。
俺の病室には、家族を失い天涯孤独になった人間には不釣り合いな多数の本とタブレットなどがある。
元からの物といえば6歳の誕生日に父さんからプレゼントされた石の標本だけだ。
多数の本やタブレットは事故の原因となったトラックの運転手の秋元さんが見舞いの度に持ってきてくれたものだ。
幼かった頃の俺は秋元さんの顔を見るたび、恨み辛みを言い続けた。
それでも秋元さんはこの病室に通い世話を焼いてくれた。
「俺には侑と年の近い息子が居る、仮に自分の息子が侑とおなじ境遇になったらと考えると謝っても謝りきれない過ちをしてしまった。」
秋元はいつも泣きながら謝り続けた。
俺の心境の変化の発端は、廊下から聴こえた看護婦達の会話からだ。
「秋元さんはトラックの運転手から内勤業務に移籍をお願いしたらしいわね。」
「トラックの運転中だと侑君の看病とか、何かあった時にも来れないからって。」
「自分の家族も居るのに大変ね。」
(秋元さんは自分の家族よりも俺の事を優先して考えてくれている)
それを知った俺は、目から涙が流れていた。
今の俺は秋元さんに恨みなどなく、感謝の気持ちで一杯だ。
そして今日も秋元さんは面会時間ギリギリまで病室に居てくれた。
「秋元さん…
来てくれるのは嬉しいけど、俺は大丈夫ですから自分の家族を大切にして下さい。」
俺の為に家族を犠牲にして欲しくないし、不幸せになって欲しくないと思った。
「侑が不自由な身体にしてしまったのは俺だ、だから俺は侑の手足になってやる。侑の家族を奪ってしまったのに、俺が自分の家族を優先できるはずないだろ?」
秋元は侑の家族を失わせてしまった事と、侑の身体を不自由にしてしまった罪悪感で押しつぶされそうになっていた。
~間もなく、面会時間終了の時刻になります~
面会時間終了のアナウンスが流れた。
「時間みたいだから、また明日来るな。
明日は侑の誕生日だろ?
何か欲しいものは無いか?」
秋元は侑の誕生日を憶えていた。
「特に無いから、気にしないで。」
俺は秋元さんが誕生日を憶えていてくれた事が嬉しかった。
日付が変わり、俺は16才になった。
タブレットに俺宛のメールが届いてる。
「アカウント認証にしか使用してないのに誰だ?迷惑メールか?」
とりあえず、開いてみる。
「侑、16歳の誕生日おめでとう」の一行。
ただ、添付ファイルがあった。
ファイルを開くと、質問が表示された。
「自由に動き回れる身体は欲しいですか」
質問の下には選択肢があり、俺はyesを選んだ。
「自由に暮らせる環境は欲しいですか」
yes
「秋元さんを家族に返したいですか」
yes
「転生しますか」
yes
『10分後にお迎えに上がります。
貴方の一番大切な物を手に取りお待ち下さい。』
俺は信じ難いメールだが、6歳の誕生日に父さんからプレゼントされた石の標本を手に取った。
10分後、俺は白い光に包まれた。