しましまのかぞく
我が家にしましまが加わった。しましまは闇魔族で闇の魔法の使い手だ。元々の本名は、ニッカツ・シュリケン・マンジロウなんちゃかんちゃらさんという長ったらしい名前だ。
さて、今私は家族にしましまを紹介している。よく特撮ものやヒロインものであるような、
「このことは秘密ね!」
みたいな約束ごとはなく、出会ったその日に家族に紹介することになった。しましまもそれを望んだのは、しましまが長年この家でぬいぐるみとして生活してきた故だ。やはり、長年一緒に暮らしてきた家族には隠し事はできないと、涙を呑んで家族に話すことにしたのだ。
というお話なら、どんなに素敵なことだろうと、私は遠い目をしながら正座をして、母上に頭を垂れている。
Déjà Vuのように、このお話が始まってから、既に何度目かの正座だけど、母さんに正座するのは初めてだからね。本当に初めてなんだよ。
「キャー」で始まった母さんの動きは早かった。目にも留まらぬ早さで、しましまを抱きあげスリスリしていた。そして、しましまは逃げようとジタバタと暴れ、「やめろ、ば○○」とか、「ザラザラでき○ち悪い」とか言って、-禁則事項です-され、-放送禁止用語-になったしましまが、伸びて倒された。第二形態の母さんはその威圧だけで、黒塗りのベンツに乗っていた怖いお兄さんも、ひれ伏したという恐ろしい伝説の持ち主だと、父さんに聞いたことがあったけど、初めて見たよ。ガクブルだよ。
そして、私はそんなしましまの主人という扱いになり、
「この子を、飼うなら、口の利き方をちゃんと教えなさい。それから、時々抱っこさせること。良いわね。」
とお叱りを受けたのだった。
まあ、これでしましまを隠す必要もなくなった。
公認のぬいぐるみ系魔法使い(ふぁんしぃ)として認定された。そして、その日の夕食前には、家族に紹介する運びとなった。
「それで、お姉ちゃんはいつから、アクダーマと戦う予定なの?変身はどうやるの?やっぱり変身アイテムはスマホタイプ?それとも、昭和タイプのステッキとかコンパクト?あっ、今は7月ということは、そろそろ追加の課金アイテムと追加メンバーが出てくる時期だよね。ってことは、お姉ちゃんが追加戦士の方で、他のメンバーに力を与えるタイプで、攻撃の道具が1人武器から、全員で一緒に使う武器のパレスみたいなのを探す鍵みたいな展開になるまでのてこ入れ?折角世のお父さんお母さんが5000円の武器が3000円で買えると思ったら、娘には9800円のパレス見たいな大物が欲しいっていわれるあれ。」
と、私の鼻先10cmまで顔を近づけて鼻息荒く喋ってきたのは、中学2年生(中二病)の妹、里香だ。つ~かてこ入れって失礼だなおい。いや、アクダーマという敵と戦う予定はないから、別に失礼でもないか。いかんいかんこの勢いに流されるところだった。
その様子を見ながら、私の肩上りをしていたしましまに
「アクダーマって何よ?」
と聞かれたが、
「サアナンデショネ」
と私が答えている間に、その内容を聞きつけた幼稚園年中(4歳)の美香が、
「由香おねえちゃん。アクーダと戦うの~。本当?由香も変身した~い。」
というキラキラした尊敬の眼差しで、私に質問してくる。いや、座っていたソファーを降りて私の方に駆け寄ってきて、キラキラビームを里香と同じぐらい近くから発している。私は思わず、ウォッと変な声を出してしまった。その姿を見て、母さんは
「あら、なかなか人気じゃない。良かったわね。」
と、他人事だ。父さんは、チラッとこっちを見た後、テレビのニュースに目を向けて、ため息をついていた。その哀愁漂う、羨ましそうな顔。しかも、口の動きが「いいな」だったよ。
そんな、状況に私の左肩に乗っていたしましまが、
「変身?ってどういうことよ。」
と、聞いてくる。
「ちょっともどって戻って、変身しないから。」
と私が、妹2人をしっしと追い払ういながら、私が答えると、里香は何か納得したように
「あっ、そうか。そうだよね。ごめん。」
と、言ったあと、それでも私から離れず、
「ねえ、由香お姉ちゃん私も~な~り~た~い~の~」
と腕を引っ張りまくっている美香に向いて
「美香、正義の味方は変身するところを誰にも見せちゃいけないんだよ。見せたり、人に喋っちゃうと、にっかつ?さんも居なくなっちゃうからね。」
「ちょっと待て、誰が――」
「ええっ、にっかつさん居なくなっちゃだめだよ。」
「――にっかつだ。私はしまし、じゃなかった――」
「だから、お友達にも誰にもしーだからね。そうすると、きっといつか、美香も変身できるようになれるよ。」
「――私はリッヒシュヒュッケ・マニ……以下略」「うん分かった。」「よしよしいい子いい子。」
私は、母の洗い物を手伝うために、ソロッとその場を後にする。それに気が付いた、しましまが、美香の腕の中から逃げだそうと暴れながら、
「ちょっと待て、由香。あんた、私の本名を何と言ったぁ。」
という声がリビングに響き渡っていた。しましまは、先ほどまでモフられすぎて気を失っていた間に言った適当な名前がバレて、私はしましまのドロップキックをみぞおちに浴びて、今度はもがき苦しんだ。まさか、魔法で体の堅さを変えることが出来るなんて、
「ナイス、蹴り。ウプッ。」
夕食のカレーライスがこみ上げて必死に飲み込みながら、倒れ込み母さんに、
「手伝うか遊ぶかどっちかにしなさい」
と怒られた。いや、あのもふもふがと言ってみたけど、あれに蹴られて痛いわけないでしょう。と余計に叱られてしまった。
そんな様子の中、父は静かに晩酌をしながら、テレビの前で
「にっかつさんが来たお陰で、テレビのチャンネル権がある。」
と、涙を流していた。
しま:「ふん、結局過去は明らかになって無いじゃないのよ。嘘つき。」
由香:「あれ、期待してたの?」
しま:「べつにそんなんじゃないわよ。それよりあなた長女なの?」
由香:「そうだよ。一応、私、容姿端麗残念美人って言われてる。学力は特上、運動は中トロ、高校2年、クラス委員、生徒会副会長、クラスではゆかさんとか、ゆかっちとか、倉田さんとか、委員長、姐御と呼ばれておりやす。」
しま:「いろいろ突っ込みたいけど、姐御ってのだけで良いわ。」
由香:「それは、妹達がいるから料理とか家事は一通りできるってことと……」
しま:「ことと?」
由香:「よくわかんないけど、クラスの子を叱ると、すぐ姐御って言うようになるんだ。後、組長と言っている人も見たことがあるんだけど意味は分からんねー。」
しま:「あの親にしてこの子ありか……」
由香:「何か言った?」
しま:「な、なんでもないわ。気にしないで続けて。」
由香:「そっか。じゃあいっちゃうね。さて、次回のしましまのましましは」
魔法つかい
しましま!
しま:「ちょ、ちょっと、これって大丈夫なの?」
由香:「大丈夫だよ。あっちのマスコットはクマのぬいぐるみで、こっちはツンデレうさぎで不可抗力みたいな物で乗り込んできた異世界人だし、クマは最終兵器の予定だし、魔法つかいは版権でもないし、後ろの部分は読んだ時の雰囲気が似てるだけだからね。それにぶっちゃけ、これ次回のサブタイじゃないし。」
しま:「この後書き予告って意味あるの?」
由香:「ないよ。」
しま:「あっ、そう。」
由香:「ということでまた次回。最初の魔法、しましまとどけ!」
しま:「最初の魔法はもう使ってるわよ。」