げろげろ
あれから、1ヶ月ぐらいかな。ぬいぐるみを買った時は、梅雨に入る6月頃だったけど、そろそろ夏休みという7月半ばのこと。事件は起きた。
私が、学校から帰り、着替えをしている時に、
「あなたを、私の僕にしてあげる。」
と、子供っぽい高めの声が聞こえた。私がキョロキョロと周りを見渡すけど、誰もいない。気のせいかななんて思っていたら、
「あんたトロいのねぇ。こっちよこっち、下だって下。」
というので、下を見ると
うさぎのぬいぐるみが、私の方に右前足?、右手?をビシッと指して立ち上がっていた。
「ふっ。驚いているわね。ぬいぐるみが動くのは怖いでしょう。声も出ないのね。私の記憶干渉を弾いたとはいっても、今は私の威圧を受けているんですから、立って居るのも辛いはずよ。威圧を止めて欲しければ、私に命乞いをして貢ぎなさい。良いわね。」
「……」
「さっさと、ハイと言ったらどう。本来ならあんたみたいなのが、私と話をすること自体光栄なことなんだから。」
と、愛らしい動きで、ぬいぐるみは背伸びをして虚勢を貼ってい(るように私には見え)た。
「すっご~い。しましまが動いた。」
という声に、
「は?」
と反応して、疑問形で首を傾げるぬいぐるみ。
「う……」
「うっ?」
「うそー。どうやって動いてんの、どういう仕組み?ARってやつかな?もしかして里香が何かしたのかな?」
すごい。凄いと私が、しましまをなで回しひっくり返してみる。しましまはそれに反応してよりジタバタし始めた。
「うぎゃ、いたい。ギャー。くすぐったい。きゃははは。うぶぶ。お腹を押さえるな。」
「うっぷぅ。ぐるじい。あなだ、うっ。」
と、しましまの表情が苦しそうに変わったところで、私はその表情の変化に気が付き、しましまを床に降ろした。しましまは、床の絨緞に手を着いて気持ち口を膨らませていた。
「ちょっとそこで吐かないでー。」
「ウプッ。ゲロゲロゲロ……」
間に合わなかった。酸っぱい匂いが部屋に充満している。ぬいぐるみが嘔吐する瞬間を初めて見た私は、オロオロしてしまった。
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しましまは、両親からプレゼントで貰ったウサギのぬいぐるみ。
そんな、しましまがベッドの縁に立って、何故か私が怒られている。床に正座して、ちょっと不思議だけどなんかファンシーで楽しい。必死に威勢を張るしましまの背伸びした姿が愛らしい。
「復活した途端、圧死するところだったじゃないのよ。ちょっと聞いてるの?」
「だから、さっきから、ごめんねって言ってるでしょ。しましま。許してよ。しましま。長い付き合いじゃんしましま。」
既に、動き出してから30分。ゲロゲロの掃除を先に済ませている間に、立ち直ったしましまに、かれこれ10分説教されている。立ち上がったり手を上げようとするけど、強い力に押さえつけられて、立ち上がることが出来ない。何故か立ち上がろうとすると、上から肩や腕を押さえられているような感じなんだよね。もうちょっとで抜け出せそうなんだけどな。
「あんた、やっぱり馬鹿にしてるでしょう。私はしましまじゃないと何度言ったら分かるのよ。」
と、ぬいぐるみが私の頬にドロップキックを仕掛けてきた。結構な勢いですけど、そんなに痛くない。ポフッって感じ。だって、ぬいぐるみだもの。むしろちょっと柔らかくて和む。
「いや、だって昔からしましまって呼んでたし、それにしましまが言っていた名前、ええっと、シャケ・マシマロ・シュークリームなんちゃらっていう美味しそうな名前……」
「リッヒシュヒュッケ・マニュシュクール・シュクマリュウス・イライジュアヴェィル・ハリュドリュス・バヒュイット・シュシュダルド・ヴィラヴィン・ヴェルギス・クットーロジャジャリ・コロスベリヌス!」
とカリカリしたしましまが、地団駄を踏んで長い呪文のような名前を叫んでいる。
「うん、それだよ。それだけど、姿はしましまにしか見えないし、長いし、ほら、作者さんも読者さんも、視聴者さんもみんなそう思っているよ。ってことで、しましまで良いじゃん。頭文字しましまっぽいし、決定。テッテレー。ぱちぱちぱち。」
と言ってみる。あっ、私のお手々はまだ膝の上で固まってます。擬音はポスッ、ポスッって感じだ。
「ぱちぱちぱちじゃないわよ。そもそも頭文字しましまの【し】の字もないじゃないのよ。」
しましまは、更に、私のお腹に重めのグーパンを仕掛けながら、ムキーと発狂しそうな勢いで興奮している。
「いや、しゃけのSでマシマロのMに……。」「ちょっと、だから私の名前は……りっ……ちょっとなんで動けるのよ。ぎゃー。」「いや、なんか頑張ったら動けた。」
私は、しましまを抱きかかえて、頬ずりして見る。やっぱ動くと可愛いよね。ちょっとツンだけど。そのうちデレるかな?
しましまは、上質なぬいぐるみで柔らかい。だから、子供の頃からタンスの上に置いて、時々触って楽しんでいた。モフモフすると気持ちが良い。
気が付いたら、再びしましまはゲロゲロ状態に、今回はさっき掃除に使ったバケツでキャッチした。ぬいぐるみで食べてないはずなのに、これはきっと世界の七不思議の一つだよ。
倉田由香:「私の名前は倉田由香。こっちの動くぬいぐるみは、しましま。」
しましま:「ちょっと違うわよ。私は、誇り高き闇の魔法使い、リッヒシュヒュッケ・マニュシュ……以下略……。」
由香:「昔は私の思い通りに動く良い子だったのに。グスン。」
しましま:「泣きたいのはこっちよ。体はウサギのぬいぐるみだし、変な娘に体中…○○されるし、おまけに話は通じないし、私の魔法あんまり効かないし……なんかほんとに涙出てきた。グス。」
由香:「大丈夫、しましま次回は良いことあるさ。」
しましま:「しかも、私しましまってことになってるし……」
由香:「うん、しましまはこれからもしましまだよ。というわけで、さ~て次回のしましまは」
「しましま家を買う!」
しましま:「唐突過ぎ!買わないわよ。」
由香:「こんな一連の流れぐらいどうでも良い話らしいけど、書いちゃったから公開するんだってさ。そろそろ時間だね。次回をお楽しみに、ばいば~い。」
しましま:「……」