【日本の食は、やっぱり素材の味で決まるのよ♪①】
一話目です。
グロイデスヨ。。
おかえりなさいませ♪御主人さま♪お嬢さま♪
なにごと?
あなたの目の前には、秋葉原でチラシを配ってそうな可愛らしいメイドさんが立っていて、それが【ななこ】であることに気付いた途端。少し狼狽しながらたじろいでしまった。
あら、あなただったの。笑顔を振りまいて損した気分だわ。
膝のピンクの肌が透けて見える真っ白いタイツを履いた右足を〝く〟の字に折り曲げ踵を揃えた【ななこ】は、サラリ優雅な物腰で、廃工場の奥に設えられた円卓を指示した。
今日はね。あたしの手助けをしてくれるスポンサーの皆様の接待をしているのよ。ほら、神話の昔から本邦の人って接待には弱いじゃない?だからね、月に一回。こうして皆さまを朝食会にお招きして、存分にご奉仕してあげてるのよ♪
あなたはチョット埃っぽい日差しの中で円卓を囲み、楽し気に談笑に励む老若男女に眼を向けた。
「おや、ななこ君。其方の方は?」
廃工場の出入り口の、両開きで僅かに開かれた大きな錆びた鉄扉の狭間に立つあなたに気付いた正装の老紳士が、ななこに微笑みながら話しかけた。
ん?コレ?そうね。言ってみればあたしの追っかけかしら。
その、他愛もない〝ななこ〟の受け答えを聞いて、老紳士も、その他の老若男女の顔から一瞬にして笑みが消えた。
「君!一体どこの誰かね?いやいい、嘘をつかれても困る。すぐにでも素性を調べればわかる事だからな。覚悟しておきなさい!」
「ななこさんを追いかけ回すなんて、不埒にも程がありますよ、あなた。都条例にも完全に違反する行為です。自覚なさい!」
「全く、弁護の仕様もありませんね。あなたが逮捕されても私はなんの力にもなれないことをここに宣言させていただきます!」
「我々としては、法律的に民間の問題には特例を別にして絶対的に不介入ですが、もし公的な要請があれば、即座に部隊の出動を下令することもやぶさかではありません」
「この案件については我々にこそ捜査権がある。少し自重して貰おう。ななこさん。もしよければあとで被害届を提出して頂けないだろうか?」
「いんや、この件は儂らのやり方で落とし前を付けさせてもらおうか。なに、お偉い公僕さまの手は煩わ(わずらわ)せんよ?」
噛みつくように悪意の視線をあなたに向けた六人の徒ならぬ形相に、あなたは身震いを覚え後退り、焦がれるように〝ななこ〟に視線を向けた。
パン。パン。パン。
はいはい。お遊びはこれまで。せっかくあたしが作った朝食が覚めてしまうじゃない。
ななこは手を叩いて円卓の騎士たちを制止した。
「ふむ。流石にバレていたか♪こりゃ公安の面子も丸つぶれだな♪」
「それはそうでしょうね。ななこちゃんは賢い子ですから、是非とも成長したらうちの党から出馬して貰いたい位なんだから♪」
「もしも可愛いメイドさんが弁護士に成りたいって云うなら、私は全力でバックアップさせてもらう事を、この場を借りてで宣言させてもらおう!」
「そりゃあんたズルい。彼女は将来的に防衛省で預かりたい優秀な人材だと考えておる次第なのだからな?横入りはご遠慮いただきたい!」
「いえいえ皆さん。警察庁にも是非欲しい有能な人材なのを忘れんでもらおう。この子が入庁すれば立ちどころにあらゆる凶悪事件は解決。しかも被疑者を裁判にかける必要もない。願ったりかなったりなのですからな」
「いやいやいや。それならば裏社会で生きる者同士。うちの盃を預かって貰わねば困るんじゃ。仄暗くもばっちい世界じゃが、真の治安を儂とななこちゃんに任せれば税金も要らんぞ?のう、ななこちゃんや?」
急に皆様方は朗らかに成り、しきりと〝ななこ〟におべっかを明々駆使して使い始めた。
頭が痛くなってきたよ。
なにいってるのよ。御主人様にお嬢さま方。寝言は寝てから言うものなのよ。そんなつまらない話よりもね。あたしが自分の手を汚して捕まえて生きたまま料理した飛び切りの食材を味わってくれなきゃ困るのよ。じゃないと、みんな纏めてミンチにしてね、人間団子にして揚げてあげるのよ?
わかったかな?
そう、子供をしつけるように諭しに掛かる〝ななこ〟の言葉に彼・彼女らは頷き。
「それもそうですな」
「わたし達はその為に来たのだし、ねえ?」
「あなたに云われるまでもなく。既に了解している規定事項だ」
「いつもながら法律屋は言い方が固いな。まるで公文書の文章のようだ。少し自重してくれないか?」
「まあ、そう言い為さんな。我々はこれでも一応公僕だからな。あっ!弁護士さんは違うのか(笑)」
「あんさんらは互いのことを親の仇みたいに憎々しく感じてはるらしいの(笑) 民を指導する立場のお偉いさんが、そないな事ではあきません。なあ、悪いようにしやしませんよって、儂らに課せられた【暴対法】やら云うけったいなもん。チョイとばかり取り払っては貰えませんかいの。なら儂らは今後あんさんらの手足になって、仰山世のため人のために」
「「「「「じゃあ手始めに、あんたがこれから摂る朝食を全部寄越せ!!!!!」」」」」
「そらあかんわ。ホンマ敵わんな」
途端に円卓のある意味愉快な人々は、にこやかな談笑の場に空気を戻し、〝ななこ〟の朝食を待ちわびる素振りを見せた。
はいはい。それじゃ朝食会をはじめましょうか。まったく、メンドクサイ人間たちだこと。
「よ!待ってました!」
「待ちかねたわ!早く出してちょうだいな♪」
「昨日から飲まず食わずで私を待たせたのだから、それ相応な品だと期待している!」
「その言葉はこっちのセリフだ!我は二日前から食事を制限していたのだからな!」
「あんたは只の糖質制限ダイエットを始めたからでしょうに。そんな戯言より早く、早急に朝食を!」
「あんさん落ち着きなはれ。儂も含めて防衛省のおえらさん以外の御人は皆、昨日の昼前から絶食しとるんや。そない喚かれたら背なと腹がくっついてしまうがな♪」
彼らの腹ぺっこり咆哮を聞いた〝ななこ〟は、少女らしい小柄で線の細い肢体をメイド服に包んだまま、絹糸みたいな光沢のある前髪の間から覗く、可愛らしい小さな額に右手の指を置き、ゆっくり二度首を横に振って嘆息した。
じゃあ、今から御飯出すけど。その前にちょっとした愛の儀式してもいいかな?
「「「「「「キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!!!!!」」」」」」
この人たちスッゴイ喜んでる。でも、たぶん今から〝人肉〟たべるんだよね。
あなたは彼らの余りの歓喜の様に戸惑い、開いた口が塞がらない。
ではいきます。
すう…っと、ふくらみがほとんど無い胸に空気を一杯吸い込み、止めた。
そして〝ななこ〟は、両手を前に出してハート型を作り…。
おいしくなーれ♪おいしくなーれ♪萌え萌えムキュー――ン♪♪
「「「「「「むっきゅーーーーーーーーーん♪♪♪♪♪♪」」」」」」
〝ななこ〟が全力で行った愛らしい呪文に壮絶に反応した〝各方面のお偉いさん〟は、彼女と同じく手でハート形を作って歓喜しまくっている。
はいサービスおしまい。じゃ、先ずは【足の指の浅漬け】と、朝一で絞り出しばかりの【Fresh・Blood】100%血のジュースでも食べて飲んで頂戴。当り前だけど、野菜も魚も出ないから覚悟して頂戴ね♪
「「「「「「はーい!喜んで♪」」」」」」
グロすぎるメニューの居酒屋?
ななこの言葉に対応して返事を返した彼ら彼女らは、まるでどこかの居酒屋店員のような反応を示し、素直に配膳された小皿に掴んだ箸を伸ばした。
ゴクゴクゴク…。。
「ほう。これは新鮮な血液だ!」
「まさに洗練!朝に相応しい真っ赤なのど越し!身体が引き締まるようですな!」
「左様じゃの。儂の年衰えた血液が全身で入れ替わっていくような清々しい味じゃ!」
三人の男たち。つまり防衛省・弁護士・特定広域暴力団は口々に〝新鮮な血液〟を絶賛し、
どす黒く赤く染まった歯を見せあって、その美味さと身体の底から湧き上がる興奮を抑えきれない様子であった。
ボリボリボリ…。。
「うんまぁーー!これ、これ!軟骨までキッチリ漬かってて堪らない歯ざわりだわ♪」
「確かに。こんな漬物は生まれて初めてだ!」
「絶品です。これは街の一等地のデパ地下で販売するべき品物だ!」
三人の男女。即ち政治家と公安、それに警察庁が、これも口々にそれぞれに出された〝親指から小指まで両足分〟の浅漬けを頬張り、味について大いに論評した。
あらあら♪こんなモノで満足しないでよ。まだまだ【朝食会】は始まったばかりなのよ。
ななこは彼らの満足げな様子を見て満足げに微笑み、諭した。