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【家族団らんの食事って、やっぱり夕飯時に出るハンバーグよね♪】

今回も、グロいです。


お、お楽しみくださいませ?


 あら?またあなた覗きに来たのね。


 お暇なの?いつも忙しそうな人間の癖におかしな話ね。


でもね、あたしいま入浴中じゃないのよ。温浴プールの真っ最中なの、残念だったわね♪


クスクス楽し気に笑う少女らしきモノは、可愛らしいセパレートの水着を着用して、子供用のカラフルなビニールプール一杯に温水を溜めて、パチャパチャ足を寝そべりながらバタつかせ、左手には古びたやたらと矢の部分が長いダーツを1本も握りしめ、そっと片眼を閉じると、向かいの壁に向かって狙いを定めていた。


ああコレ?ちょっと最近ダーツに嵌っててね、良さそうな先のしっかり尖ったのを通販でお取り寄せしたのよ♪


少女は矢の先を人差し指でツンツンしながら目を潤ませて喜んでいる。


まあ、いっても。ダーツをやってたテレビをボンヤリ見てただけなんだけどね♪


だが、そんな嬉しそうな少女の目線の先には、このダーツが刺さりそうなゲーム用の円形のマトはない。


あるのは廃工場の隅に立てかけられた、タダの丸い白い壁だけだ。


んん、これが気になったかしら?


昨日ね、ちょっとした依頼があってね。遊びながらその依頼を(こな)そうとしているところなのよ♪


いうなり少女は、赤い液体が入ったワイングラスを、傍の古びた小さな丸いテーブルからとり、右手でくゆらせつつ一口美味しそうに口に含むと〝ヒュン〟と、左手を振りダーツを壁に投げつけた。


サクッ。


「うぎゅ…!」


 ダーツが白い壁に深く刺さった軽い音と、くぐもった人の声らしき低い音が、廃工場に囁くようにスイっと駆け抜けた。


 ああん♪初めてにしては巧くないかしら? ねえ?だってどこに的があるのかわからないのに初手でヒットしたのよ。あたしってばもしかしてダーツの天才なんじゃないかしら♪


 そう云うと少女は楽し気にパチャパチャ足でビニールプールの水を跳ね上げ、それからおもむろにワイングラスをテーブルに置くと、代わりに一枚の紙とボールペンを引き寄せてニコニコしながらスコアを付け始めた。


 そして書き終わった少女は、またテーブルからワイングラスを引き寄せ一口だけ赤い液体を口に含むと。


 ウフフフフ。


 と、含み笑い。今度は立て続けに二本壁に投げつけた。


 サクッ。サクッ。


「ふぐっぐゥっ…!」


 なにやら息苦しそうな、それでいてリズミカルな音階を孕んでいそうな低音がまた、廃工場にさざめいた。


 三回連続であったたわ♪やっぱりあたしって才能あるのよ!プロになれるかしらね♪


 そう言ってグイっとワイングラスの中身を飲み干した少女は、またまたパチャパチャ足を交互にバタつかせて命中の喜びを全身で表現した。


 白い壁には、一本目のダーツが刺さった中央右側の辺りには赤い点しか見えなかったが、続けざまに刺さった中央左寄りの二つのダーツからは、羽を伝ってポツンポツンと土にまみれたコンクリートの床に赤い丸い滲みを幾つも作り、白い壁にもそれが二つ徐々に広がり始め滴ってきていた。


 それにしてもあれね。ただ止まってる的に当たってもやっぱり面白くないよね。


 うーん。と、少女はひとしきり物思いに更ける。


 そうだ。こうしましょう♪


 少女はさも良いことを思い付いたとばかりに、お腹を抱えてひとしきりプールの中で笑いこけ、水着の上からタオルを兼ねたパーカーを纏い、水が滴る小さな足先をビーチサンダルに乗せる。


 うん。フフフフ♪ 的がずっと止まっているから面白くなかったのよ。だったら的を回せばいいんじゃない♪


 折角、的が丸いんだから回さない手はないわ♪と云って少女は、廃工場の天井レーンから下がっている鎖とフックを操作して手元に引き寄せ、次いで呻き続ける白い壁の的を支えていたつっかい棒から放しフックを引っ掛けた。


 じゃあ、行くわよ♪


 サッサと壁、もとい的からプールまで遠ざかった少女は、寒!寒!とか言いながらバチャン。温かい温水に満たされたプールに飛び込み操作盤の巻き上げスイッチのボタンを押した。


 ジャラララララ…!


 一気に巻き上がりだした鎖と、その勢いに釣られた白い壁が連動して、一旦右上がりに宙に浮きあがった壁、もとい的は、まるで机の上に転がされた十円玉の様に、少女を中心に円を描きながらコンクリ床を転がりだしたのだ。


「がはっ!ばばばっばば…あばば…」


 回る白い壁から元の憐れな呻き声が響く。


 えい!えい!えい!


 でも、そんなことは気にもしない少女は、ダンダンダン。白い壁に向かって笑顔でダーツを高速で当てていく。


 やがて幾つもの吹き出す血を噴水の様に撒き散らせながら、ガランガランと白い壁は周回運動を止め、的を上にして床にバタッと倒れた。


 あらららら。面倒くさいわね。拾って立ててあげなくちゃいけないじゃない。


 心底からめんどくさそうな表情を浮かべた少女は、再びプールから外に出てパーカーを羽織り、倒れた白い壁にフックをまた引っ掛けて起こす準備に取り掛かる。


「ぐふ、ふっふうっ!うっ!はう!」


 白い壁の内側、正確にはこちらが表側なのだが、そこにはグリコのあの恰好を裸体でさせられ、全身の毛がすっかり取り除かれた中年の男が、壁にピッタリ細いワイヤ―で縛り付けられており、しかも体のあちこちからは少女の放った数十本ものダーツの矢先が突き出して、そこから止め処もなく鮮血がドクドクあふれ出していた。


「ふう、ふうう。はぶっ!は、ふけ…へぇぇええ!!」


 うん?何か云ったかしら?よく聞こえなかったけど?もしかして助けてって言ったの?


 少女は小首を傾げながらグリグリと、左胸から突き出した矢をこねくり回し、ゆっくりと白壁を巻き上げていく。


「ハアアァアア!!」


 猿轡をかまされた的の口から悲鳴が轟いた。


 安心しなさい貴方。死にはしないから。


「ほふっ、ほうは⁉」


 今度は本当かと云ったらしい痩身の男に向かい、少女はコクンと俯いて見せた。


 ええ、もちろん本当よ。


 だって、全身の血を抜いても死なないようにしておいたからね。


「ぶふうっ!ぐふう!」


 あははははは!そんなに驚かなくてもいいのよ♪だってあなたまだ、ハンバーグになってないじゃない♪


 満面すぎる笑顔で白壁をクルリと回した先に見えたのは、業務用のひき肉製造機から突き出された男のモノらしい両足と、ひねり出されてくるミンチ肉。


 あなたはね、生きたまま死ねないままアレに入るのよ。そしてね、あなたたち十年前にした交通事故っていう名のひき逃げで、あなたを心底から恨んでいる遺族たちの食卓に上がるのよ? どう嬉しいでしょう。


「ふがァアアああああああ!!」






 さて、もうそろそろミンチになったかしら、あの≪家族三人ひき逃げ事件のトラックの運転手≫は。


 プールから上がり、ひらひらのフリルが付いた真っ白なエプロン姿になった少女は、ポテポテとひき肉製造機の側に寄って行った。


 まあまあの出来かしらね。最初に挽いた≪同乗していた運行管理者≫よりも、いいミンチになったとは思うんだけど、あなたはどう思う?


 少女はずっと自分の行動を観察していた≪あなた≫に、ぐいぐい押し出されたミンチを手に持って問い掛けて来る。


 あら、シャイなのかしら?まあ、いいわ。それよりも、この【人間のミンチ肉ども】が、助けを求められてるのに無視して何度も何度も轢いて殺した三人家族の様に、見事な挽肉になったのだから、あの遺族たちも満足じゃないかしら。で、あたしはあたしなりのサービスでハンバーグにしてプレゼントしてあげるの。


 食べてくれたらうれしいわ♪だってあの人たち、あたしが要求した金額の半分も用意できなかったんですもの♪


 うふふふふ。と、少女は歪んだ笑みを浮かべてお腹を抱える。


 さてと、いい部位を選んで此の世のモノとは思えないほどの≪美味しい逸品≫をつくんなくちゃ♪


 そう云うと少女は、大きめのボールを用意してヘラで肉をよそいはじめ、じっくりと品定めを始めた。


 えっ? なんであたしがビニールプールに浸かりながらワインを飲んでダーツしていたのかですって? 決まっているじゃない。自宅でできるプールバーごっこをしていたのよ。とっても、とっても楽しかったわ♪ 


でも飲んでたのはワインじゃないのよ。アレね、ただのブドウジュースなの♪


 クスクス、クスクス。


 少女は、あなた騙されたわねって顔をして楽しそうに含み笑いをしている。


 でもあなたは思う。それってビリヤードを置いてるバーの事じゃないかなと。絶対ビニールプールを置いてるバーじゃないと。


 だが、あなたはその事を黙ったまま、少女の住まう廃工場を後にしたのだった。





【人体派遣業者 ななこ】の日記。より抜粋。


【家族団らんの食事って、やっぱり夕飯時に出るハンバーグよね♪】


ここまでお読みになった業の深い方、誠にありがとうございました。


ではまた、次回です。

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