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〖冬のあったかい食べ物って、やっぱ〝シチューよね♪〟〗

何故だか知りませんが、同じ話を載せているエブリスタさんで、只今開催しているマガジンeのホラー賞では40位になってました。


不思議な事もあるもんですね。


 あら、こんな時間に突然の来訪なんて珍しいわね。何か御用かしら?


 少女らしきモノは、廃工場の天窓から柔らかく降り注ぐ満月の明かりに照らされながら、バスタブに張られた暖かい湯につかり、そこから細く白い足を真っすぐに上げ、きめ細やかな肌に指を這わせながら、澄んだ瞳であなたのことを見詰めるている。


まさかとは思うけど、あたしの入浴時間を狙ってきたわけじゃないわよね?


 もしそうなら、あの【人間】みたいにシチューにしてあげるんだけど、どうなのかしらね?


 少女がピンク色に火照ったつま先で示した先には、給食室にでも置かれていそうなスチーム加熱式の大きな釜が据えられており、その中には肉どころか骨すらも崩れた、かつて【人間】だった物体が白く濁りながらジャガイモやニンジンと云った複数の野菜類と共に、グツグツと粘り気のある泡ぶくを浮かべては消し去りながら煮込まれていた。


アレね。とある人からの依頼で調理している〝人間シチュー〟なの。もしよかったら味見してみないかしら?


もちろんお金は頂かないわ。タダよタダ♪


あなた見るからに大金何て持ってなさそうだし、それびあたしは【人間】を食べる趣味はないから作っても味見だけは遠慮してるんだけど。それでも良かったら一口どうかしら?


美味しさに関しては自信があるから安心して。味付けはシンプルに御塩だけだし、骨まで蕩けさせるくらい煮込んでるから、素材の旨味や骨髄の濃厚なとろみも味わえるからおススメよ♪


小さく可愛らしい口を手で隠しながら、クスクス少女は嗤っている。


それはそうと、まだあなたが来訪した用件を聞いてなかったわね。


是非、あたしの幼い体を眺めに来た理由を教えてくれないかしら?話によっては全部見せてあげてもよくってよ。


そういって少女はバスタブから立ち上がり、あなたに背を向けシャワーのノブを押す。


サァー…。


あら、そうじゃなくてたまたまなの?あら残念。もう一個〝人間シチュー〟を作る口実になるかもって思っていたのに、損した気分だわ。


あのね。聞いて♪聞いて♪


もしもあなたがあたしの入浴シーンを狙って、こんな時間に来たって冗談ででも言ったらね♪そしたらあなたを下処理して、御塩でじっくりコトコト煮込んでね、お得意様たちに売り込んでやろうって思っていたのよ♪


 あははははは!可笑しい♪


 本当に残念だわ♪だってあなたが彼女と同じ【()()(かめ)シチュー】になってたかもって思うと、笑えて来るじゃない♪


あら、不思議そうな顔をしてこっちを見ないでよ?もしかして〝出歯亀〟の意味が解らないのかしら?


日本人なのに恥ずかしい話ね。


いい?よく聞きなさいね。


〝出歯亀〟て云うのはね。明治時代にいた病的な覗き犯でね、しかも殺人まで犯した極悪人の渾名なのよ。英語なら〝Peeping Tom〟よ♪


本物の出歯亀さんは、たぶん出っ歯で亀みたいな容貌の持ち主だったんでしょうけど、あの彼女はとっても美人さんだったわ♪


そんな美人さんがね、有名人の依頼主さんを付け狙って盗聴盗撮して、その彼女さんまで殺しちゃったもんだから、あたしに〝人間シチュー〟にされちゃったの♪


まさか自分が生きたままシチューになるなんて思ってなかったみたいだから、警察から逃げていた時に、匿ってあげるフリをしてあげたら馬鹿みたいに喜んで、あたしの後を付いてきたわ♪


出刃包丁を隠し持ってね♪


あははははは♪ホントにバカじゃないかしらこの子♪


ただの【人間】が、口封じだからってあたしになにか出来るわけないじゃない♪


 でね。意識を残したまま体の自由だけ奪って煮込んであげたの。たっぷりの御塩と水と一緒にね♪


少女らしきナニカは、裸体の背をあなたに向けたまま顔でけを振り向かせて嗤っている。


そうしていたらね。ねえ、聞いて聞いて♪


あんまりにも汗をかいちゃったから、あたしも彼女に倣って入浴タイムにすることにしたのよ♪


だって、彼女だけお湯につかってるなんてありえないじゃない?


あたしだって温かいお湯につかってのんびりしたいんだもの。もちろん御塩たっぷりの海水を使った〝海水風呂〟にさせてもらったわ♪


あたしこれでも美容と健康に気を使ってるんだからね♪


あっちの彼女はもうその心配をする必要は無いようだけどね♪


んん?どうしたの?そんなに引いちゃって、何か気になる事でもあったのかしら?


少女は不思議そうな顔をして、自分の体のあちこちを眺めたり触ったりしておかしなところがないか確かめている。


ああん。もしかしてこの前うっかり見せた四枚の羽根のことかしら?背中に生えてないものね。気になるのも当然だわ。


勝手に納得したらしい少女はウンウンと、その幼い容姿をもつ年頃の女の子の様に可愛く頷いた。


あれね、いつもは邪魔だからしまってあるの。それにね、今回のお仕事は音声はなしだけど、依頼人の要望でライブ中継してるから見せたくなかったのよね。見れたあなたはとってもラッキーよ。誇りに思いなさい♪


少女が指差した先には、色落ちと錆が激しい小型クレーンに吊り下げられた防犯カメラが、無音でこちらを撮影していたのだ。


じゃ、あたしは入浴を楽しむから用事がないならさっさとおうちに帰りなさいね。


もしもまだあたしの裸を見たいなんて言ったら、あなたも彼女と同じ目に遭わせてあげるんだから、それでもいいって云うなら、あたしはそれでも構わないんだけどね♪


でもその時はどんなに命乞いをして、泣き叫んでも、あたしにはお笑い番組の熱湯コマーシャルにしか見えないから、覚悟してね♪



じゃ、またね♪


続きが有ったらいいわね♪




【人体派遣業者 ななこ】の日記より抜粋。


【冬のあったかい食べ物って言ったら、やっぱり〝人間シチュー〟よね♪】



今夜シチューの方はゴメンナサイ。


美味しく肉や野菜を煮込んで食べてくださいね。


でわ♪

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