開幕
季節は冬、雪が降っている。
履いた靴が、ちょうど埋まってしまうほど、雪が積もり歩行の邪魔をしていた。
そんな事は意にもとめず、一人の男が、ぼそっと独り言のように呟く。
「間に合わなかったか。」
服装は上下黒の、いわゆる軍服を身にまとっていた。歳は20代後半といったところか。
その男のそばにはぽつんと建った建物が一軒、その周りを数十人の人達が、何かしら調査を行っていた。
建物の中も同じように、調査しているのだろう。
その中の一人、自分の方へ向かってくる雪を踏みつける音が聞こえ、体の向きを音のする方へ向ける。
こちらに歩いてきた男は近くで足を止め、姿勢をビシッと正し、口を開く。
「報告!孤児院、内部及びその周辺外部、調査終了しました!」
「聞こう。」
「孤児院内部に死者、大人4名、内2名が派遣されてきた護衛です。子供13名、皆これまでと同様、心臓を貫かれて絶命しています。」
これまでこれまでという言葉から、これが一度目ではない、ということが分かる。
報告に続けて男は言う。
「バルム隊長は、何か掴めましたか?」
「いいや、副隊長と足跡でも残っていればと探してみてはいるが、見つからんな。」
「そうですか。」
様子から見るに、あまり期待の持てる答えが、返ってこない事は分かっていたのか、短く返事を返してくる。バルムはこの事件について考察してみる。
(事の発端は2ヶ月ほど前、永世中立国メーシーの首都、メシネアにある孤児院だ。そこで経営していた大人4名、そこで暮らしていた子供15名が死亡しているのが見つかった。2件目が1ヶ月ほど前、首都郊外にある孤児院。どちらも人の目が多くあるにも関わらず、犯人が捕まらないため、各孤児院に護衛と巡回をつけ、定時連絡をするようにしたが、3件目が起こった。前2つと遠く離れた場所に建っており、細々とした村だ。死因は全員同じ、心臓を一突き、おそらく、同一犯だろう。何故孤児院ばかり狙う?周期が一定なのはなぜだ?今現在戦争をしているセリス教国やギフ帝国ではなく、なぜ中立国家を狙う?犯人の意図はなんだ?)
結局情報が少なすぎると判断し、犯人に繋がる足掛かりを掴む方に専念しようとした。その時だった。
「隊長~!」と呼ぶ声が聞こえてくる。
良く耳に届く、高い女性の声。
その声から、自分と足跡の捜索を行っていた副隊長だと分かる。
相当焦って走ってきたのか、途中、雪に足を取られて、派手に転んでいたが、なんとかたどり着く。
「あ、あ、あ、あし!、あし!見つけました!」
「足を見つけたのか?今回はバラされた遺体もあったのか。」
「あーしーあーとー!察してくださいよ!」
「お前が無駄に主語を短くするからだ。」
副隊長は確かにそうだと思い、反論できずに「う~」と唸り、今度は変な返し方をされないように、丁寧に報告する。
「孤児院裏口から、まだ新しいと思われる、子供の足跡を見つけました。もしかしたら生存者かもしれません!」
最初からそう言えばいいのに、とは口には出さず、指示をだす。
「よし、他の隊員にも連絡しろ。俺と副隊長は足跡を追う。」
生存者ならば、保護しなければならない。それに犯人を目撃しているかもしれない。二人は足跡を追って駆け出すのだった。