第2話 魔法適正とスキル
「でしたら、プレートのスキル表示の前に次にやることをしましょう」
王女はそう言って、水晶の前に移動した。
「これは魔力量とこれを使った者の魔法適正を調べるものです。これに手を付けてしばらくすると使用者の全魔力が吸われます。終わると体に戻されます。このときの感覚は魔力の操作に繋がりますので、ちょうどいいでしょう」
王女が見本として手を水晶に置いた。
水晶が輝き、その中に文字が浮かんだ。その文字は『土魔法』『風魔法』だった。
あっ、ちなみに文字はどういうわけか分かる。知らないはずなのに分かるのだ。ただし、書くことはできない。どういうことなのだろうか? 謎だな。
「この通りです」
王女の見本が終わり、次々に生徒たちがやっていく。
まず最初の生徒がやる。水晶は王女がやったときよりも輝いた。
「!! さすがですね。わたくしも魔力量には自信があるのですが、それを超えるなんて……」
王女が驚愕する。演技ではない。
地球では普通の人間だった生徒が、あれだけの魔力を持っているとなると、この世界に来たときに魔力が増えたのだろう。
ん? そういえば俺の力も結構増えている。やはりこの世界に来たせいなのか?
と、見ていて志摩が俺の肩を叩いてきた。
おい、なんだ?
そこにいた志摩は頬を引き攣らせていた。
「や、やばい。あれって全魔力を吸い取るって、い、言ったよな?」
志摩は言葉を詰まらせながら言う。
「言ったな」
「お前はほら、ステータスの心配もなくなったし、魔力は少ないから勇者になる心配はなくなったろ」
あっ、そういえばそうだな。どうやらこれでこの二つで見れるのはスキルと魔力量と適正魔法のようだからな。
それにスキルでやばいものがあっても、他人には見えないって言っていた。だから俺の不安も解消である。
「そうだな。俺の心配はないな!」
ついテンションが上がるな。
「おい、自分の心配がなくなった途端それかよ」
「おっと、すまん。で、志摩のほうはどうしたんだ?」
「見て分かるだろう。あれだよ。あれって霊力――」
「魔力な」
「あれって全魔力を吸い取るんだろう?」
「そうだ」
「正直に言おう。俺は主人公である神代より魔力はある」
「知ってる」
いや、本当は忘れていた。
「その俺があれをするとどうなると思う?」
「どうなるんだ?」
「おそらくだが、あの水晶のキャパシティをオーバーして、爆発するな」
「え? マジ?」
「マジだ。神代のときも爆発するだろうが、俺のは違う。神代の爆発が半径一メートル程度のものだとするならば、俺のはこの部屋の一部を吹き飛ばすほどだ」
おい、もうお前だけで魔王なんて倒せるんじゃないか? もう勇者は志摩、お前でいいよ。絶対に一人で戦える。
俺も人のことを言えないが、この国に従ってなんてごめんだからな。
「どうするよ。これって全員だからな。しかも、俺たちは魔力を扱ったことがないってことになっているから、誤魔化そうにも難しすぎるぞ」
「うう、月山……。何かないか?」
先ほどまで俺をからかっていた人物なのかって思うほどだ。
まあ、ここでやり返したりして、からかうなんてことはしない。もちろんのこと助けよう。
「そうだな。もしかしたら別に全ての魔力を吸わないように出来るんじゃないか?」
「? どういうことだ?」
「つまり、あの道具から吸われる魔力を自分で操作して、制限するってことだよ。それによって爆発を防ぐんだ」
「できるのか?」
「分からないが、やってみる価値はあると思う。一応、俺が先にやるが、魔力なんてほとんど使わないから、あまり操作には自信がない」
「つまり、あの道具のいいなりになる可能性があると」
俺は頷く。
逆に志摩は魔力の扱いはこの世界の人間と同じくらい使い慣れているはずだ。そのくらいはできるだろう。というかしてくれ。マジで爆発は勘弁だ。
と、その前に俺と違って魔力量が多いであろう、美月は大丈夫だろうか? 誤魔化すように言ったが、今回の場合は分かっているだろうか?
不安なので、一応言っておこうか。
「美月」
「!?」
また美月がびくりと震えた。
「夜弛、びっくりする」
「すまん。だが、お前が俺に気づかないなんて、どうしたんだ? いつもなら気づくだろう」
そう俺が言うと美月は頬を膨らませて、俺を睨む。
「私だって女の子。いきなりこんな場所で不安になる」
「そうだった。すまんな」
「なんで夜弛は平気なの? 家族と会えなくて不安じゃないの?」
無口無表情と周りから言われている美月が、不安そうな表情を見せてそう言ってきた。
この通り、ちゃんと表情を見せる。美月の無口無表情はただの人見知りだ。本当の美月は無口無表情の物静かな少女というわけではない。激しくではないが、喜怒哀楽を表に出す。
今にも泣きそうだから他に誰もいなかったら、今頃は大泣きしていたのではないだろうか。
「不安だが、俺はつい先日、一族から成人の儀式を終えている。一人前だ。親に頼ることはほとんどしない」
ちょっと厳しいように感じるが、別に親に会ったりしてはいけないとかいうものではない。ただ現代で言うとニートになるな的なやつだ。
ほら、厳しくない。ただかっこいいように言っているだけだ。
「それにお前と一緒だからな」
「!! ば、バカ……」
美月は照れたようで顔を赤くする。
うん、やっぱり可愛い。可愛すぎる。
「こほん、で? どうしたの?」
「次はこっちでは魔力って呼んでいる霊力の測定だ。できるだけ手加減して抑えろ。目立つな」
「ん、分かった」
「俺がこうして伝えることができないこともあるから、とにかく目立たないことを優先してくれ」
「分かった」
全てが言い終わるとまた志摩のところへ戻った。
志摩は誤魔化されるかもしれないということで、若干不安がなくなったせいなのか、ニヤニヤして待っていた。ちなみに不安そうな顔の美月は見られていない。
さっきまではあんなに慌てていた人物には見えんぞ。
「こんな非常時だというのに恋人といちゃいちゃか? 全く熱々だねえ」
「おい、待て。美月とはまだ恋人じゃない」
「そうは言うが、誰がどう見ても恋人じゃないか。麻倉さんに振られた男たちが不憫だぞ」
「なんでだ?」
「だって、あいつらって、よくお前と麻倉さんが仲よさそうにしているけど、お前に恋人かって聞いたら違うって聞いて、告白したんだぞ。なのに振られた上に麻倉さんはお前と楽しそうに話すんだ。なんで恋人じゃないんだよって思うだろう」
「そうだったのか」
俺だって美月と恋人になりたいのだが、色々事情があったんだ。
「ほら、これからはこんな世界なんだし、さっさと伝えちまえよ」
「分かっている」
確かにそうしたほうがいいな。
「おっと、次はお前だ」
俺の番が来たようだ。
俺は周りがやっていたようにその水晶に手を置いた。
先ほどから生徒たちの魔力は最初にやった生徒を上回るかほぼ同じほどの輝きを見せていた。
うん、これって魔力量が少ない俺って結構目立つんじゃね? きっと王女様より低いぜ。
で、手からは俺の魔力が吸われる。
ここで、志摩のために精一杯魔力を操作してみるが、あっさりとできた。まあ、自分の魔力量を知るものだ。抵抗などする必要もない。ゆえに簡単に抵抗できるのだろう。
と、抵抗できることが分かったので、すぐに抵抗を止めて全てを吸われ、すぐに戻された。
その際に水晶が輝く。ただし王女よりも小さな輝きだったが。
「あ、あれ? おかしいですね。魔法適正が出てきません」
王女がそう言う。
む、確かに俺の魔法適正が出てこない。どういうことだ?
王女がもう一度と言うので、もう一度やるが同じ結果だった。抵抗したせいかと思ったが、そうではないようだ。
それから何度かやったが同じだった。
そこに一人の男が来る。
「姫様、もしやこの者は魔法が使えぬのかもしれませぬ。そのためこのような結果に……」
「そのようですね」
はあ……やっぱりか。
これだけやればそうではないかって気がつく。
「え、えっと、魔力量や魔法適正がないようですが、そ、その……」
王女はそう言ってなんとか俺をフォローしようとするが、他の者たちはどうやら俺を役立たずの烙印を押したようだ。
生徒の中にも若干侮蔑的な視線が感じられる。多分ほとんどが美月が好きなやつの視線だな。
ともかく、俺はその場からどいて、志摩のところへ戻った。
「魔法適正がなかったな」
「ああ」
「まあ、個人的にはよかった。お前が魔法まで使えたら結構厄介だったからな」
「別に戦うことはないだろう」
「そうだけどお前は旅に出るんだろう? だったら何かで衝突することがあるんじゃないかって思ってな」
「俺はそうならないようにと願うだけだ」
未来のことは分からないが、親友とは争いたくはないな。
だが、この世界で俺たちは暮らすこととなった今、それは難しいこととなった。前の世界では争いというのは滅多になかったが、この世界では魔物から脅威もあるらしいからな。旅をする以上、避けて通ることは出来ないだろう。
それに俺たちは勇者となった。戦いのこの世界では面倒な政治とやらにも数多く関わることになるだろう。
俺たちが戦うこともありえないことではない。
「おっと、お次はお前の麻倉さんの番だぞ」
「待て、まだ俺のじゃない」
「どんな風になるんだろうな」
無視して志摩は美月を見る。
美月は無口無表情のまま手を置いた。
水晶は王女のときよりちょっと輝く程度だった。そして、美月の魔法適正は俺のときと同じく何もでなかった。
これに王女たち、この世界の人たちは二人目かと呟き、生徒たちは俺のときと同じ反応をするやつと俺のときとは違い、大げさってほど驚くやつがいた。
最後のやつらは俺を侮蔑したやつだな。
それは置いといて、俺と美月の共通点はあれだな。まだ詳しくは言わないが、種族だ。もう分かるかもしれんが、俺と美月は人間ではない。それが関係していると思われる。
あっ、志摩は人間だ。俺たちとは違う。そして、志摩は俺たちの正体を知っている。
「あ~、これってやっぱり月山が人間じゃないからか?」
「おそらくな。とはいえ、偶然という可能性もあるがな」
そうしているうちについに志摩の番となる。
「志摩、操作できることは分かった。上手くやれよ」
「ああ、それだけ分かれば十分だ。上手くやってみせる」
まあ、志摩の魔力操作は知っているからな。問題ないだろう。
その予想通り、志摩は俺と美月以外の生徒と遜色ない量だった。そして、魔法適正は驚くことに火魔法、空間魔法、付与魔法であった。火魔法はありふれたものであったのだが、他二つは生徒の中でも稀であった。ただし、その稀の二つを同時に持っているのは志摩のみであったが。
うん、もうお前勇者でいいじゃん。稀な魔法適正を二つ持つとか完全にモブじゃないよ。メインだよ。
さて、そうしている間についに主人公、つまり神代の番となった。
志摩の言うとおりならば小規模の爆発だそうだ。
テンプレならば部屋中が驚愕でいっぱいになるんだがな。どうなるんだ?
そう思って神代の測定を見た。
結果から言って、神代の測定はこの部屋を光で満たし、最終的には爆発させた。魔法適正は火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法、闇魔法の属性系の魔法全てだった。さすがだな。
周りは驚愕でいっぱいだった。
この場の混乱はしばらく続いた。
「こほん、それでは次にスキルの表示です。皆様、先ほどの吸われる感じと戻される感じを思い出し、プレートに魔力を送ってみてください。プレートから表示させる魔力量は決まっておりません。ですので、僅かな量でも構いません」
周りの生徒たちがそれを試し、おおっと言う声を上げる。
しかし、そのプレートには変化が見られない。どうやら本当に所有者以外は見られないようだ。
俺も早速試す。
するとプレートからSFのように画面が空中に投影された。
うおっ! 確かに声を上げる理由が分かる。それに男心がくすぐられるな!
この投影されたスクリーンはプレートと平行に表示されるようで、プレートを傾けると同じように傾く。
やべえな、興奮する。
ちなみにスキル表示はこうだ。
レベル:1
スキル:刀術Lv8、体術Lv9、投術Lv6、気配感知Lv7、魔力感知Lv6、気配遮断Lv5、夜目Lv7
ふむ、全て覚えのあるものばかりだ。
そして、レベルの表示があった。ほとんどレベルが高いが、これは俺も驚きだ。まさかこんなに高いとは。
ただ気になるのはスキルの上にあるレベルだ。なぜこれだけ低いんだ?
「あの、スキルの上にあるこのレベルとは?」
また主人公の神代が王女に聞く。
「はい、それは現段階での成長値です」
「成長値とは?」
「皆様がこのことを知らなかったことから、皆様の世界にはレベルがなかったと解釈して説明します。まずこの世界では生き物を殺すことで経験値と呼ばれるものを獲得します。この経験値を一定以上集めることでレベルが上がり、自身の力が強化されるのです」
「それに限界は?」
「ありませんよ。大昔にはプレートには、素早さ、魔力、技術などそれを数値化していたようですが、その技術は失われてしまいました。現在はそのプレートに表示されている通りです」
そっか。昔はやっぱりゲームみたいに数値化されていたのか。
「皆様のレベルはこの世界に来たことを基準としておりますので、皆様のレベルは1になっていると思います。あと、先ほどの魔法適正ですが、あれは魔法適正であって、習得しているわけではありません。ですので、そこにはまだ表示されることはありません」
「その、レベルというものは皆が同じ力なのですか?」
おっ、そうだな。それは聞いておきたいことだ。
もし、レベルで決まっているならば俺の力は制限されているということになるな。
うん、それは嫌だ。
ただ魔力量が違うようだし、おそらくは同じ力ではないと俺は考えた。
「いえ、個人によって違います。そもそもレベルというのは自分がどれだけ強くなったのかを簡単に見るためのものです。先ほど言いましたように昔は数値化していたので、結構意味はあったようですが、今ではあまり意味がありません。でしたので、レベルのことは言いませんでした。とはいえ、レベル1とレベル50のどちらを選ぶとなればもちろんレベル50です。このような大きな差の場合には役に立ちます」
やっぱりゲームと現実は違うってことか。
ということはゲームみたいにレベルを基準に動くというのはしてはいけないな。それを基準に動いていたら命に関わる。実力を確かめるには実践のみってところかな。
「全員がスキル表示が出来たようですので、次は皆様のお部屋を案内します。個人個人の部屋を用意していますので、ゆっくりと休めると思います」




