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第17話 Bランク冒険者

「それで、試験の内容は?」


 俺はララに聞く。


「はい。こちらのBランクの依頼になります」

「ほう、Bランク、か。そんなに高いランクでもいいのか?」

「ふふ、夜弛さんこそ、こんなに高いランクの依頼ですが、いいんですか?」

「もちろんだ」

「はい、分かりました!」


 ということで、依頼を受ける。

 内容は討伐系だ。ゴースモンキという手足の長いサルのようだ。このサルの群れが町に近い森で目撃されたことから、依頼されたようだ。

 このサルたち、結構悪さをするみたいで、町に入れば被害が大きくなるのは必然である。

 そこで俺たち冒険者に依頼を出したみたいだ。

 だが、こんなものを俺たちのような冒険者がやっていいのだろうか? 失敗したら洒落にならないんだが。


「ああ、もちろんこちらからも冒険者を派遣します。これも試験ですからね」

「信用はできるのか?」


 これは結構大事だと思う。

 こちらには女が一人いる。男である俺がいると言っても、Fランクという冒険者ランクの中で一番下のランクだ。普通に考えると俺たちがする依頼の内容からしても、美月だけを攫って俺は殺し、ギルドへの報告には自分の都合のいい言い訳を言うことができる。

 誰だってFランクが張り切った結果、死んだと言われるのとBランクが張り切った結果、死んだなんて第三者から言われて、どちらを信じるかと言われたら、前者のほうを信じるだろう。


「はい、できます。男性二人に女性二人のパーティです。とてもバランスのいいパーティで、結構有名です」

「そんな人とするのか。というか、よくそんな人たちが開いていたな」


 普通、依頼とかで予定があると思うんだが。


「ふふ、大丈夫ですよ! ちゃんと時間がありましたから」

「それにしてもまさかこんな短時間でするとは」

「ギルドの間で通信する魔道具がありますから」

「なるほど。それで通信したのか」

「はい。幸いにもそこにご本人たちがいたみたいで、すぐに返事はいただくことができました」


 まあ、ギルド内でのそのパーティでの信頼などどちらにせよ、こちらには関係ない。

 他と同じようにこちらを襲ってくるならば、それを撃退するだけである。


「で、集合場所というのは?」

「はい、この依頼にも書かれている町です」

「そこか」

「幸いにも近くの町です。依頼のこともありますので、できるだけ早く移動してもらいたいのですが」

「分かった。今から移動しよう」

「お願いしますね」


 俺たちはギルドからの手続きをして、早速その町へと向かう。

 準備などはない。なぜならば俺たちの武器は妖力であり、防具といっても、妖怪は自分の妖力などを防具として扱う。俺のような妖怪は自分の筋肉が防具ではあるが。

 ということなので、俺たちには準備はいらない。眠る必要も食べる必要もないからな。野宿の準備も必要ない。


「はあ……結局、ゆっくりできなかった」


 後ろを歩く美月が不満げに言う。


「しょうがない。これも昇格するためだ。ゆっくりするなら猫になっていいぞ」

「……しょうがない。猫になる」


 美月は猫になり、ぴょこっと背中のリュックサックの上で丸まった。俺は美月を起こさないようにしつつ、道を急いだ。

 ララの言うとおり、町は近くて、夕方になる頃にはその目的の町に着くことができた。

 まずはこれから一緒に仕事をする冒険者たちに会うことにした。

 ちなみに美月はもう人型になっている。さすがに町の中で人型になるのはおかしいからな。残念ながらこの世界に人が獣の姿になる魔法はないらしい。

 あっても長く生きたドラゴンが使う人型になる魔法だ。それはドラゴンのみが使える魔法なので、やっぱり獣人などは使えない。


「その人たち、いるの?」


 すぐ後ろをついて来る美月が言う。


「ああ。いつでも来ていいようにと一人ほどギルドに置いているらしい」

「なるほど」

「話を聞いていなかったのか?」


 俺がそう言うと、美月が不機嫌になった。

 なぜだ?


「夜弛、あのララって人と親しげだった。しかも、ご飯にも誘われて。鼻の下、伸ばしてた!」

「ま、待て。た、確かに親しげだったが、断っただろう。それに鼻の下は伸ばしてなかったぞ」

「嘘。デレデレしてた。実際、うれしかったくせに」


 うぐっ、ひ、否定できない。

 俺も男である。美月という最愛の人はいるが、ララのような可愛い子が近づいたら、男として反応してしまうものである。これは決して俺という個人の責任ではない。男としての正常な反応である。

 それに実際にうれしかったので、あまり強く美月の言葉を否定などできるはずがなかった。


「運命の人じゃない人と必要以上に親しくするのは浮気。それが妖怪の掟」

「待て待て! 言っておくが、俺に浮気をするつもりはないからな!?」


 危ない。このまま話が続けば、新婚僅か一ヶ月未満で破局の危機を迎えることになるところだ。

 今はただひたすらに俺の言い分を聞いてもらい、美月様に許してもらうことを願うだけである。

 あれ? 俺、もしかして尻に敷かれている?


「本当?」

「本当だ。家事万能で家族以上に長く一緒にいて、俺のこともよく知っているお前がいるんだ。しかも、俺を立ててくれる。そんなお前にどんな不満を持って浮気をすると言うのだ? するわけがない」


 美月は俺を一番に考えてくれるのだ。

 こんな理想的な妻がほかにいるだろうか? いや、いない。

 それに美月のお願いなんてそんなに大層なものではない。金のかからないお願いばかりなのだ。不満が出るどころか、こっちから高いものを勧めてしまうほどだ。


「で、でも……」

「でもじゃない。そりゃあ、俺も妖怪だ。美月の他に運命の人を見つけるかもしれない。それは分かっているだろう?」

「……うん」

「そうなれば俺はその子次第では受け入れるつもりだ。だが、それは運命の人であって、ララのようなそうではない人間ではないんだ。今はお前しかいない。俺はお前に夢中なんだ。分かってくれ」

「分かった。その代わり、私、嫉妬を我慢とかできないから、あとで鬱陶しいくらい甘えるから」

「ああ、存分に甘えてくれ」


 うむ、それは仕方ない。

 存分に甘えてもらおう。そっちのほうがいい。少なくとも何度も破局の危機を迎えるよりはいいだろう。それに美月から甘えてくるというのは最高である。


「い、言っておくけど、私の嫉妬が治まるのは長いから」

「ああ、分かってる。治まるまで存分に甘えてくれ」


 ただ、個人的には甘えて欲しいのだが、それが俺の浮気にも似たような行為によるものからというのは複雑な気持ちになる。

 確かに嫉妬してくれるというのはこちらとしては最高なのだが、嫉妬しているほうは相手の気持ちを疑ったりととても複雑な気分である。俺だって美月が別の男と会っていたなんてことがあれば、嫉妬に狂ってしまうだろう。

 例え相手を信じろと言われても、だ。なぜならば相手の心の奥など分かるはずがないからだ。

 ということで、俺も美月側の気持ちを考えるとできるだけ美月にそういう風に思われないように行動しなければならない。


「もちろんそれ以外のときも甘えていいからな」


 なので、そう言っておく。


「わ、分かってる。そ、それよりも早く行って、宿を取ろう?」

「だな」


 もっと二人だけの時間を楽しみたかったが、それは宿でもできるので、渋々ギルドへ入った。

 こちらのギルドも王都とあまり変わらない。剣などを背負った冒険者たちが酒などを飲んでいた。

 まあ、もう夕方なので、飲んでいてもおかしくはない。


「どれ?」

「俺も分からん」


 似たような人たちばかりで、どれがその当人なのか分からない。


「受付嬢に聞くしかないようだな」


 ギルド間で連絡を取り合ったと言っていたので、つまりはギルドの人間の中に知っている人がいるということである。なので、知っている人に聞けばその人間が誰なのか分かるはずだ。

 ということで、受付まで行く。

 時々、美月目当ての酔っ払いの冒険者がやってくるが、俺の睨みで近づけさせない。皆、俺が睨むと下がって行く。


「聞きたいことがある」


 受付嬢に話しかける。


「何でしょうか?」

「この依頼でこの町に来た」


 俺は向こうのギルドで貰ったギルドのサインが書かれた依頼書を見せる。


「この町でBランクのパーティと一緒にこの依頼をするのだが、そのパーティが分からなくてな。一応、一人置いているとのことだが、その者が分からない。案内をしてほしい」

「あっ、はい。話を聞いております。念のために身分証の提示を」


 そう言われて俺たち二人は身分証を提示した。

 受付嬢は名前を確認して俺たちに身分証を返した。


「はい、夜弛さんと美月さん本人と確認しました。人が多いので、私が案内しますね」


 受付嬢が俺たち二人を案内する。

 俺たちは一つのテーブルに案内された。そこには一人の男性が周りから背を向けて座っていた。


「ルーさん。依頼で協力する方たちです」


 受付嬢がそう言うとルーと呼ばれた男が振り向く。

 ルーは三十代の男性だった。その雰囲気はやはり周りとは違うものであった。

 なるほど。これが人間のBランクか。あきらかに強者という雰囲気だ。


「ああ、知っている」


 ルーはにやりと笑ってこちらを見る。そして、ルーは俺たちをじっくりと見る。

 美月へも向けられるが、それは周りの男が見るようないかがわしいものではない。ただ単純に強者かどうかを見るためのものだ。


「なるほど。確かにこいつは強者だな。Fランクなんてもったいないほどだ。あの受付嬢、見る目は確かだな」


 そう呟く。

 やはりBランクの冒険者は違う。Bランクから先が選ばれた実力者しかなれないものだということがよく分かる。


「ほう、子どもだからってバカにしないのか」


 俺はにやりと笑ってそう言う。

 あきらかに自分よりも年下である俺がそう言ったが、ルーは怒るどころかにやりと笑う。あきらかに楽しんでいる。


「当たり前だ。冒険者は実力主義だ。強いものが偉いんだ。ランクじゃない。強さだ。お前さんにはバカにできないものがある。もちろんそこのお嬢さんもな。全く、どういうことだ? 若い者がこんなに強いなんて」


 だが、話の途中から落ち込んだ。

 なんだかんだ言ってもやはり俺たちの強さに思うところはあるようだ。

 まあ、なんだ。種族の違いだ。間違いなくルーは人間としては強いほうだ。ただ、俺たちという相手が悪かっただけだ。


「ほへえ~、ルーさんがそこまで言うなんて! お二人はすごいですね!」


 受付嬢が目をキラキラさせて言う。

 本来ならばFランクである俺たちは喜ぶべきなのだが、種族の差があるので、あまり素直には喜ぶことができない。

 いや、だって妖怪と人間だぜ? 妖怪は自分の欲を形にする妖力と人間を越える身体能力がある。それに対して人間は魔力と呼ぶ妖力に比べて制限のある力だ。陰陽師たちだって選ばれた人間しかなることはできなかった。

 しかも、その中で妖怪と一対一で相手できる陰陽師はさらに少ない。

 その代表例としてはみんなが知っている安倍晴明だろう。安倍晴明は陰陽術の腕は確かで、さらに魔力が他の陰陽師と比べて大きな差があったのだ。

 故にその時代は最強の陰陽師と呼ばれていた。

 何が言いたいのかと言うと妖怪に勝てる存在なんて滅多にいないということだ。

 なので、あまり喜ぶことができないのだ。


「で、自己紹介がまだだったな。俺はルー。Bランクの冒険者だ」


 ルーが落ち着きを取り戻し、自己紹介する。


「俺はFランクの夜弛」

「Fランクの美月」


 俺たちも自己紹介する。


「ちなみに俺は前衛だ。お前たちは?」


 ルーが自分の腰にかけた剣を軽く叩いて示す。


「俺も前衛で美月は後衛だ。武器は剣だな」

「剣か」


 まあ、剣は剣だが、刀だがな。


「なるほど。じゃあ、行くか」


 ルーはそう言って、立ち上がる。

 そして、俺たちを連れてルーの仲間の元へ案内してくれた。

 その場所は宿などではなく、立派な建物であった。

 そういえば冒険者にも拠点というものを作るときがあると言っていたな。

 つまりはパーティの活動範囲が決めているということである。拠点を中心にその周辺に関する依頼を受けるのだ。

 ある意味、理想的な冒険者であるらしい。


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