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第14話 甘いクレープ

 俺たちには道の端にあるベンチでいちゃいちゃできるほど、慣れていなかったので、公園の小さな林の中へと向かう。

 美月はそれに反対せずに従ってくれた。

 十分に奥まで行き、人気がないことを確認すると、美月が無駄に豪華な城の椅子を出す。


「なんだか、こんな高級な椅子をそのまま地面に置くというのは変な感じだな」


 もちろんその椅子は城にあった椅子である。


「確かに。でも、家具は役に立ってこそ。椅子は人が座って役に立つ。だったら使わないとね」


 そう言って、美月は俺を引っ張り、椅子に座らせ、俺の膝の上にぴょんと座った。

 俺は美月が俺の膝の上から落ちないように、という建前のもと、美月の腰に手を回した。


「んにゃっ、夜弛、そこ、お腹じゃない。胸」


 実際に手が置かれたのは美月の腹ではなく、大きくも小さくもない美月のおっぱいの上であった。

 うむ、やわらかい!


「ん、すまん。見えなくてな」

「むう、嘘。いつもやっていること。わざとでしょ?」

「そんなことはない」

「嘘。今も手をどかすどころか、揉んでる」


 美月の頬は揉まれている影響で頬が染まっている。


「ああ、揉み心地がいいからな」

「ほら、やっぱり」

「くくく、ほら、食うぞ」


 俺はもう片手に持った四つのクレープを美月の前に出す。

 ただ、これじゃ食べにくいので、妖術を使い、四つのうち三つを宙に留まらせる。

 俺だって妖怪だ。この程度の妖術くらい使える。


「ん、もうっ、このまま食べるの?」

「ああ。ほら」


 片手は美月に食べさせるクレープを持ち、もう片手は美月のおっぱいを揉んだままだ。

 俺はクレープを美月の口元にやる。


「も、揉まれて食べにくい……」

「そうか?」

「う、ん。だ、だって、快楽に負けて食べられない……」

「くくく、美月は食欲よりも性欲のほうが高いのか。やっぱりエッチな子だな」

「うぐっ、お、女の子だって性欲はある」

「知ってるよ。初夜に誘ったのは美月だったしな」


 てっきりああいうものは男である俺から誘うものだと思っていたので、びっくりした。


「ううっ、なんで私、あのとき発情して、自分から誘っちゃったのぉ」


 美月が羞恥で涙目だ。


「まあ、なんだ。あのときは色々と死にも繋がるほど不安だったんだ。本能的なもので発情したんだろう」

「そ、そうだと思うけど、やっぱり恥ずかしすぎる……」

「もう過ぎたことだ。言っておくが、あのときお前が誘わなかったら、今もお前を抱いていなかったぞ」


 べ、別に俺がへたれというわけではない。ただ城の中という相手を殺すこともできない場所であり、仮とはいえ自分の部屋ではあったが、ほぼ他人の部屋であったため、気乗りしなかったというのもあるのだ。だから、決して俺がへたれというわけではない。ああ、へたれではない。


「……なら、よかったのかな?」

「そういう答えが出るってことはやっぱりエッチな子だ」

「も、もう、ひ、否定できない……」

「さあ、美月。どうするんだ? 最後まではしないが、満足するまで気持ちよくなるか、クレープを食べるか」

「な、何か変な選択肢」

「そうだな」


 俺は美月の服の裾から手を入れる。


「うにゃっ!? や、夜弛! て、手が!」

「ん? ああ、入ってるな。だが、服の上からされるよりも、直接のほうがいいだろう?」

「そ、そうだけど……」


 そう呟く。


「ならいいじゃないか。ほら、俺のこっちの手はまだお腹だ」


 美月のお腹を撫でる。

 温かくて、太っているという意味ではないが、やわらかい。


「う、上には行かないの?」

「行ってほしいのか? だったら選ばないとな、クレープを諦めて、気持ちよくなるほうを」

「うう、ど、どうすれば……」


 これで悩むとは美月はやっぱりエッチな子だ。

 普通はここはクレープを選ぶだろうに。


「や、夜弛、どっちもはダメ?」


 おおっ、美月は贅沢な選択肢を出し始めた。

 しかも、わざとらしく上目遣いだ。

 くっ、ね、狙っているな!


「ダメだ。どっちか一個だ」


 だが、その可愛い仕草に負けずに自分の意見を貫く。

 美月がしゅんと落ち込む。

 やはり可愛い。そんな顔をしても可愛い。やばい、美月のどんな表情も可愛い。


「な、なんで?」

「悩む美月が可愛いからだ」

「うぐっ、嫌な趣味」

「そうさせたのは美月だけどな」

「わ、私のせい?」

「そうだぞ。美月が可愛すぎるからこうなったんだ」

「う、うれしいけど、喜べない……」

「で、どっちだ? 早く決めないと俺が決めるけど」

「じゃ、じゃあ、食べさせて!」

「あれ? 気持ちよくはならなくていいのか?」


 俺はニヤニヤとしながらそう言った。


「うう~、夜弛が選択させたんでしょ! そんな顔しないでよ!」

「くくく、本当に可愛いな」


 俺は美月の腹を撫でていた手を抜き取り、その手を肩に置き、美月を横にした。


「……なんか赤ん坊扱いされているみたい」


 今の美月は確かに赤ん坊のようだ。

 赤ん坊みたいな美月も可愛いぞ。


「美月、あ~ん」


 俺はクレープを美月の口に持っていく。

 クレープの中身はチョコバナナだ。この世界にもチョコやバナナはあったのだ。


「あ、あ~ん」


 美月は大きく口を開け、恥ずかしそうにぱくりと口に含んだ。

 あ~、可愛いな。マジで襲いたい。


「どうだ?」

「……美味しい」


 美月はもぐもぐごくりと食べて、そう言った。


「食べている美月も可愛いな」

「うるさい」

「あと、ちゅっ」

「!?」


 俺は美月の口、いや、口の端にキスをした。

 もちろんただキスしただけではない。口の端にチョコが付いていたのだ。このクレープ、ちょっと大きいからな。それにチョコいっぱいである。大きく口を開けて食べればそうなっても当然だ。


「な、ななな、なに!?」

「いや、チョコが付いていたからな。取ってやろうと思ってな」

「な、なら、べ、別にキスじゃなくて、い、いいじゃん」


 美月が顔を真っ赤にしながら言う。


「くくく、その言葉の割にはうれしそうだな」

「や、夜弛、なんだか鬼畜」

「そうか? それよりも、ほら、あ~ん」

「あ~ん」


 美月は再びぱくりと食べる。

 ただ今回は先ほどの失敗を気にしてか、小さく口を開けて食べている。

 ごくりと飲み込んだあとはしきりに口元を気にしていた。


「なんだ? 気にしているのか?」

「す、するに決まってる」

「キス、嫌いか?」

「き、嫌いじゃないけど、あ、あれは恥ずかしいから」


 俺としては可愛いんだけどな。さっきみたいに口の端に食べ物を付けてしまって、それに気づかない美月は。

 普段は家事がしっかりしている美月だから、このたまに見ることができるこれが最高である。

 まあ、最近は夫婦になることができたということで、その「たまに」というやつが結構な数で現れるんだが。


「ほら、まだある。あ~ん」

「あ~ん」


 美月は俺に言われて再びぱくりと食べる。

 ちなみに俺も食べている。もちろん美月が食べているものを。

 え? 間接キス? そうですが何か? キスやらなんやらしている今、その程度でたじろぐ俺たちではない。

 あと、今美月に食べさせているクレープは二つ目だ。

 美月と俺が一緒に食べているんだ。しかも、俺の一口は大きい。すぐになくなるに決まっているだろう。

 まあ、美月は実は二個目であり、しかも、約一個分食べているというのは気づいていないようだが。


「夜弛、つ、次は口移しが、したい」


 俺から食べさせてもらうというのに満足したらしい美月は、次にそう言った。


「……本当にやるのか?」


 口移しなんて現実でやるわけがないと思っていた俺なので、思わず問い返してしまう。


「だって夫婦。口移しして当たり前」


 いや、違う。違うと思う。絶対にこの世界でも前の世界でも恋人、または夫婦だからと言って、口移しをする人たちは少ないはず。

 だから、当たり前じゃない。

 とはいえ、美月大好きな俺が美月の願いを反対するなどするわけがない。もちろんやるに決まっている。

 俺はクレープの食べ口部分を口に含み、残りの部分を美月のほうへ向けた。

 幸いにもクレープは半分以下だったので、美月も一口程度で食べられるほどだ。


「ほら」


 加えながら美月にそう言う。

 美月は俺の口の先にあるそのクレープをぱくりと頬張った。

 ただ、元からクレープが短いこともあり、美月が食べると同時に俺の唇と美月の唇が触れ合う。


「~~っ!」


 美月はなぜか初心な少女のように顔を真っ赤にさせた。

 もう可愛すぎる。この短時間でどれだけこんな思いをさせるんだ。これ以上は俺が耐えられない。襲ってしまう。

 なので、襲うことはしないが、キスを続ける。

 先ほどまでは唇の先と先が触れ合う程度だったが、欲が溢れた俺は深く口付けする。


「ん、ちゅっ、ん、んんっ……」


 美月の口から甘い声が漏れ出る。

 互いの口内は互いの舌が絡み合い、口内にあるクレープが交じり合う。

 なので、いつものキスよりも甘いキスだった。


「ちゅっ、んっ、ちゅぱっ……」


 しばらく続けてようやく互いのが離れる。


「口の周りがクレープだらけだな」

「や、夜弛も」


 俺は口の周りのクレープの残りを舐め取る。


「甘いな」

「!? ま、また不意打ち」

「なんだ、美月もしていいんだぞ?」


 というか、してください。美月の舌で俺の口の周りを舐め取ってください。

 俺は決して変態ではないのだが、ついそう思ってしまう。


「……分かった」


 美月はもう一度俺の顔に近づき、ペロペロと犬のように俺の口の周りを舐め始める。


「んっ、綺麗になった」


 美月は舐め終わってから、持っていた手ぬぐいで自分と俺の口の周りを拭いた。

 こうやって変態的なことができるのも、俺たちの関係が変わったからだな。

 同じ家に住み、両思いにも関わらず、過度なスキンシップはすることはなかった。あっても抱きしめる程度。キスなんて幼い頃に数回しただけだ。

 そんなスキンシップをしたいと思っていた俺たちだ。関係が変わって我慢する必要がなくなり、このような変態的なことをしても仕方ない。


「ありがとう、美月。ほら、まだ食べるか?」


 俺は宙に浮くクレープを持ってくる。

 するとなぜか美月はジト目でこちらを見てきた。


「夜弛、私、半分がいいって言ったよね?」

「ああ、言ってた。ちゃんと覚えているぞ」

「私、何個食べた?」

「一個とちょっとだな」

「そう! 一個とちょっと! 私、半分以上食べた! しかも、夜弛は半分以上食べてるって分かっていながら食べさせた!」

「いいじゃないか。美味しかっただろう?」

「お、美味しかったけど、問題あり! 太るじゃん! ダイエットってきついんだから!」

「大丈夫だ。俺も手伝う。夜の運動なら一番頑張れるが」

「!! え、エッチ!」


 そうは言うが、美月は俺の頬をぶつわけでもなく、大人しく俺の腕の中だ。


「くくく、美月、そんなに嫌がってないってことは実は期待でもしているのか?」

「き、期待? そ、そんなものしてない」

「まあ、そういうことにしておこう」


 俺はクレープをさっさと食べる。


「さて、そろそろ行くか」

「うん。でも、私にクレープを一個以上食べさせたことは忘れないから」

「くははっ、分かってるよ」


 美月はジト目を向けながら俺と腕を組んでこの場所を出た。

 しばらく歩いてこの林を出る。

 おや、あいつ、まだいたのか。

 あいつとは尾行者である。尾行者は俺たちが林に入るときにいた場所から動いていなかった。


「どうしたの?」

「いや、尾行者がまだ同じ場所にいたからな。よく頑張るなと思って」

「それは頑張ってる。でも、私たちが別のところから出たらどうするつもりだったんだろう?」

「魔法か、それとも他にも人を配置しているかもしれないな」

「そう」


 美月はもう興味がなくなったのか、俺の腕に顔を摺り寄せたりして匂い付けを行っていた。

 さすが猫。無意識で行っているからすごい。

 多分、周りから見れば甘えているようにしか見えないんだろうな。間違いではないが。


「にゃあ~」


 その無意識の行動のためか、美月が猫らしく鳴く。

 やべえ、可愛い。ただでさえ可愛いのにそこに「にゃあ~」とか。

 昔は語尾に「にゃ」とか付けていたが、今では美月が弱っていたり、抱いているときにしか付かないのでこういう普通の時には滅多聞くことのできないレアである。

 なので、「にゃ」とか言われたときの美月の攻撃力は凄まじい。

 や、やばい……。俺の中の、性欲の獣が暴れだしそうだ。しかも、さっきキスしたからな。今日は我慢できるが、明日以降は少し難しい。

 ……情けない話だが、できるだけ早く近くの町に移動して、そこで早く宿を取って、美月に相手をしてもらおう。

 俺は自分の欲を抑えながらそのまま歩き続けた。

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