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第13話 二人で食べ歩き

「そういえば夜弛。受付の人をいやらしい目で見てた」


 店を見て回っていたら、唐突にそう言ってきた。


「ま、待て。あれはそういう意味で見たんじゃないぞ! ただ、美人だなと思っただけだ!」

「…………」


 どうしてか美月からの視線が冷たい。


「ギルティ」


 そして、有罪判決が下された。


「待て待て! 俺が愛しているのは美月だけだ! あれはただ単に一般的な感想をだな!」

「だったら私を見てくれたっていいじゃん……。私ならいくらだって見ていいし、いやらしい目で見たり触ったりしていい。私じゃ満足できないの?」


 美月が頬を膨らませて、怒りを表す。

 いや、残念だが、可愛いだけだ。


「そんなわけがないだろう。俺は美月が大好きだ。ずっと抱きしめ続けたいと思っているぞ」

「……どっちの意味で?」

「どっちも」

「え、エッチ……」

「これでも健全な男子なんでな。性欲が湧き続けるんだ」


 そのため、城にいる頃は毎夜美月を抱いてきた。

 うん、男の性欲はすごい。


「も、もしかしてだけど、毎夜のエッチは本気じゃない? 思えば私の体力に合わせていたような……」


 美月が引き攣った顔で言う。


「さて、美月。俺が美月のことだけを想っていると分かってくれたか?」


 答えずに話を逸らす。


「逸らされた……。うん、本当は分かってるから。ただ、ちょっと嫉妬しただけ」


 美月は歩きながら俺の腕に顔を押し付ける。


「ごめんね、夜弛。私、夜弛が他にお嫁さん作っていいって言ったけど、まだ独り占めしたい」


 美月が申し訳なさそうにそう言った。

 俺は思わず衝動的に抱きしめそうになる。

 くそっ、なんて可愛いことを言うんだ!


「いいんだ。そう思って当たり前だ。存分に独り占めしろ」

「ん、夜弛のほかのお嫁さんができるまでたくさん独り占めする」


 俺は本当は美月以外に嫁を作る気はしなかったのだが、妖怪の歴史を見てもほとんどの妖怪が嫁を複数人持っていた。持っていない者はごくごく僅か。その持っていない者の中のほとんどが独身である。そして、俺の父も嫁を複数人持っているのだ。つまり、俺もまた美月以外の者を妻にする確率はかなり高い。

 だから俺はこれからもお前だけが嫁だ、なんて言ったりしない。言ったりできない。


「でも、浮気はダメ。そういうお店もダメ。し、したいなら、私が相手するから」

「お、おう」


 だから! そういう言葉を言うな! そんなことを言われると今すぐ襲うぞ!

 思わず宿を取ろうかと考えてしまった。


「夜弛、あれ食べたい」


 しばらく無言で歩いていたら、美月がそう言い出した。

 美月の食べたいと言ったのは露天に売ってある、焼き鳥である。

 やはりどの世界でもこういう料理は売ってあるようだ。

 もちろん、その肉は前の世界にないこの世界の動物である魔物の肉だ。


「値段は……一本200Yユグルか」


 この世界のお金の単位はユグルだ。感覚としては1円=1Yユグルである。


「でも、お肉がたくさん。この値段は妥当かも。あとは味次第」

「だな。この値段も肉がたくさんだから、味はどうでもいいというやつかもしれないしな」


 いわゆるお腹が膨れれば味はどうでもいいだろうってやつだ。

 まあ、俺たちはそういうタイプではない。悪く言うようだが、そのタイプは飢えている者だけだろう。

 とまれ、まずは買ってみるか。無駄使いではない。平民の料理を調べるのは今後の俺たちの生活に関わることだから、必要経費というやつだ。


「二本頼む」


 俺が店主へ注文する。


「へい!」


 店主の男は営業スマイルを浮かべて、焼き鳥を二本こちらへ渡した。


「400Yです」


 美月がポケットからお金を出すふりをして、アイテムボックスからお金を出す。それを俺に渡し、俺が店主にお金を渡した。


「ちょうどだ」

「毎度あり」


 金を渡した俺たちはそこから離れ、じっくりと手に持つ焼き鳥を見る。


「ニオイは美味しそう。それにちゃんと調理されてる。ちょっと期待できるかも」


 猫又の美月がそう言った。

 焼き鳥は肉が大きいだけではなく、タレも付いてある。見た目はおいしそうだ。


「じゃあ、まずは俺からだ」


 一応毒見というわけだ。

 別に毒が入っていることを危惧しているわけではない。毒見という名の味見である。

 やはり夫としては不味いものを美月に食べさせたくはない。美味しいものを食べて、うれしそうな表情を見ることができればいいのだ。

 俺はその焼き鳥をぱくりと一口食べてみる。

 むっ!? 美味い!!

 肉の周りにタレがあるから、最初に味わうのはタレなのだが、そのタレも濃い味付けで肉の味を誤魔化すのではなく、ほどよい濃さで辛くもない。そして、肉の味もまたちゃんと存在している。先ほど言ったように肉の味を誤魔化していないのだ。ちゃんと肉の味がする。しかも、美味い。


「どう?」

「めちゃくちゃ美味い。美月も食べてみろ」

「はむっ」


 美月もぱくりと一口、口の中に入れる。

 すると美月の頬を徐々に緩んでいき、幸せそうな顔をする。


「……美味しい」


 うん、やはり可愛い。この顔が見たかったんだ。

 俺は美月のその姿を見ながら自分のを食べた。

 やはり幸せの伝達なのだろうか。美月が幸せそうに食べるだけでこちらも幸せだ。もう、美月の幸せは俺の幸せと言っても過言ではないくらいだ。


「美味しかった。何本か買って、旅の時に食べたいくらい」

「おお、そこまで気に入ったか」

「ん、美味しい上にお肉も大きかったから。串だけ抜いてお皿の上に載せればおかずの一品になるほど。作り方を知りたいくらい」


 美月は俺の嫁になるだったので、美月の家事スキルは幼い頃から鍛えられ、どれも一流である。

 その家事の中の料理は俺に美味しいものを食べさせたいからと一番頑張っていたものだ。だから、料理の腕も一流である。なので、こうして美月が他人の料理を褒めるということは滅多にない。

 ただ、一流といっても、高級レストランで売られているものを作れるくらいという意味ではない。どちらかと言うと家庭用である。

 高級系は美月の好みではないようだ。

 まあ、俺も高級よりも一般家庭の料理がいい。


「じゃあ、聞きに行くか?」

「ううん、いい。あの人もあれで商売やってる。私たちとあの人は初対面だから信頼関係がない。言っても困らせるだけだから」


 それもそうか。あの人にも生活がある。俺たちのような初対面の人間に簡単に教えてしまえば、自分の商売が潰れる可能性がある。きっとあの仕事はあの人が金を稼げることのできる唯一の仕事かもしれない。

 それを見知らぬ人に技術を教えるのは無理なことである。

 俺だって上手く稼げる方法を知ったら、知らせたくはないからな。

 残念だが、焼き鳥はこの街に来て買うしかない。


「夜弛、次行こう? まだ食べ物はたくさんある」

「ああ。おっ、あれはいいんじゃないか?」


 俺が目を付けたのは先ほどの焼き鳥と同じ露天の食べ物だ。クレープのようなものだった。


「ふふ、夜弛って甘いものが好きね」

「そうか?」

「ん、だって他にも美味しそうなものあるのに甘いものを見たから」

「……仕方ないだろう、好きなんだから」


 俺は鬼であり、筋肉のある、いわゆるガタイがいいというやつなのだが、そんな俺は肉よりも甘いものが好きだったりする。

 いや、だって美味しいじゃないか。別に肉が嫌いというわけではないが、ステーキのような脂っこいものは苦手なのだ。ああ、焼き鳥などは例外である。あれはそこまで気にならないほどでだから。


「美月も食べるよな?」

「うん。でも、私、半分でいい」

「いいのか? 一個丸ごとでいいんだぞ?」

「……ふ、太るかもしれないから」


 なるほど。それを気にしていたのか。女の子らしいことだ。


「そうは言うが、美月はもちょっと食べてもいいと思うぞ。いつも見てるが、もうちょっと肉が付いていいと思うが」


 俺が夜の営みでの美月の裸体を思い浮かべる。

 一方の美月は両の手をクロスさせ、自分の胸を隠すようにして、顔を真っ赤にし俺を睨んできた。


「バカ、変態、エッチ、女の敵!」


 なぜか美月に罵倒された。


「って、なんでだよ! というか、最後のはどういうことだ? 最初の三つは否定できない部分があるのは自覚しているが、女の敵じゃないぞ」

「女の敵。だって夜弛って結構たくさん甘いもの食べるのにまったく太らない」

「それは体を動かしているからだろう」


 鬼の筋肉は鬼という種族だから筋肉であるということもあるが、一番は鍛えているからだろう。鍛えていなかったらもっと薄い筋肉になっている。


「……夜弛、私たち女だって体を動かしてる。でも、重くなる。だから夜弛は女の敵。自分の好きなものを食べて重くならないから」


 俺は何も言えない。

 事実だから。


「あと、女の子に肉が付いたほうがいいはダメ。言っておくけど、女の子はムチムチは嫌なの。脂肪なんて無くなってしまえって思うほど嫌なの」

「そんなにか!?」

「そう、そんなに」


 女の子って結構頑張っているんだな。

 大半の男は対して気にしないからな。あまりよく分からない感覚である。


「だけど、今日ぐらいいいんじゃないか? これからしばらくまともな食事は取れないと思うぞ」

「甘い、夜弛は甘い。その油断が太る原因」

「そうは言うがな。やっぱり食べておいたほうがいいと思うんだ。もしそんなに気になるならばそのときダイエットをすればいいだろう」

「そう言えるのは夜弛がダイエットしたことないから言える言葉。ダイエットは地獄だよ?」


 俺はほぼ毎日適度な運動(鬼基準)をしているので、ダイエットなんてものはしたことがない。だっていくら食べようが、そのカロリーを消費するほどの運動をするからだ。なので、余計な脂肪が付いたことがない。

 それは幼少期からである。

 どうも鬼は戦い大好き! って部分があるせいか、子どものころから自分を鍛えるのが好きなのだ。誰にも言われなくても、自分で鍛えるのだ。おかげで自分を鍛えるものならば受け入れるので、幼少期から武術を習うものが多い。俺もそれだ。

 だからスキルのレベルが高いのだ。


「美月もしたことがあるのか?」


 美月と幼馴染ということもあり、美月を小さいころから見てきたが、美月が肥っているところを見たことなんてない。


「ちょ、ちょっとだけ」


 やはりダイエットをしていたということを話すのは恥ずかしかったのか、美月はぷいっと顔を背け言った。

 ちょっと問い詰めていじめてやりたい気分になったが、なんとか我慢する。


「だから、私は半分でいい」

「分かった。なら半分な」


 まあ、無理に食べる必要はない。美月がそうしたいと言ったのだから、これ以上は言わないでおこう。


「それ、四つ頼む」


 俺はクレープらしきものを作っている店員にそう言った。二十代後半の女性だ。


「あいよ」


 店員はその場でクレープらしきものを作り始める。

 なるほど。日本と同じでその場で作るのか。

 ただ、前の世界とは違うのは魔法を使っているというところか。

 例えばクレープの生地をひっくり返すときに風魔法を使うとか。しかも、生地を丸ごと動かしてひっくり返すので、生地が破れるという悲惨なことになることがないのだ。

 ふむ、中々な腕前だな。


「はい、できたよ。一つ400Yで、合計1600Yだよ」


 俺は金を払ってクレープのようなものを受け取った。

 クレープのようなものは生クリームなどがあり、見慣れたものだった。というか、もうクレープでいいや。


「ほら、美月。食べていいぞ」


 俺は美月に一つを渡す。

 ちなみに他の三つは今ここで全て食べる。決して一つ食べて、他二つを美月のアイテムボックスに入れるわけではない。


「…………」

「食べないのか?」


 美月はなぜか受け取らなかった。


「た、食べさせてほしい……」

「!?」


 ま、まさかこの場でそういう提案をされるとは思わなかった。

 ここは人の通りが多い。この場で美月に食べさせるというのは難易度が高い。

 だ、だが、美月がそれを望んでいるのだ。拒否などできるはずがない。

 であるならば、俺の取るべき行動は難易度を低くするためにこの場ではない場所でそれを行うということだろう。周りの話をこっそりと聞くと近くに公園があるらしい。

 そこならばここよりもいいだろう。


「よし、分かった。食べさせるよ。だが、ここじゃなくて、近くにある公園で食べよう。そっちのほうが落ち着いて食べられるしな」

「じゃ、じゃあ、膝の上に座っても?」

「いいぞ」


 可愛い美月が俺の膝の上に座るのは最高だ。まあ、下心を言えば美月のお尻の感触を感じられるからな。

 夜に何度も触って堪能したが、飽きるわけがない。

 いや、そもそも美月に対して飽きるなどない。そのような言葉、美月相手には必要ない。

 美月はうれしそうに笑顔になり、楽しみにしていた。


「夜弛、夜弛! 早く!」


 美月が腕に抱きつきながらそう言う。

 俺は美月を可愛く思いながら、美月を公園のところまで連れてきた。

 公園は道のはずれにあり、木々のある自然豊かな公園だった。遊具はないが、運動などもできるほど広い。数は少ないが、この公園でも露店がいくつかある。数少ない露天の中で、やはり甘味系の露店が多い。

 そして、公園にいる人々だが、散歩をする者、運動をする者など様々だ。

 もちろんカップルもいる。ベンチに座っていちゃいちゃしている。

 ただ、そこまで激しいものではなく、こっそりと手を繋いだり、彼女の肩に手を回すなどだ。

 まさに理想の光景である。

 それを見たせいなのか、俺たちは緊張し始める。

 確かに俺たちは夫婦になって、何度も何度も体を重ねたり、夫婦になる前から二人で買い物という名のデートを何度もした。

 だが、夫婦としてのデートはまだしたことがない。というかできなかった。城から出られなかったからな。

 この「夫婦としての」という条件が俺たちを緊張させるのだった。

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