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第12話 ついに城を出る

 それから志摩以外の俺の友人と話したりして、羨ましがられたりしてその時間を過ごした。

 その間、美月には美月目当ての者からの何らかの工作はされることはなかった。

 そうして、昼になり俺たちはお昼を食べて、この城を出る準備を始める。もちろん、俺の使っている部屋で。


「夜弛、さっき王女様からバッグとお金貰った」

「そっか。美月のアイテムボックスがあるって俺は知っているが、向こうは知らないからな。手ぶらで行くのかと思ったのか」

「危ない。忘れてた」


 いくら何でも旅に出るというのに荷物を持っていないというのもおかしい。あきらかに旅を舐めている所業である。

 もちろん俺たちは旅を舐めていない。

 よく祖父と兄弟で山篭りをよくしていたので、よく分かるのだ。ちなみにサバイバル術も一応ある。

 まあ、美月が便利すぎてほとんど使わないと思うが。

 いや、だって旅に必要な水だって美月が出してくれるし、荷物だってアイテムボックスに入れられる。しかも、アイテムボックスは内部で時間が経過しないという優れもの。食料をたくさん入れておけば、野営したときに作らずに済むし、美味しいものが食べられるのだ。

 山で獣を狩って、面倒な処理をして調理する? 美月がいれば美味しい料理が食べられる。

 テント? 先ほど言ったように美月のアイテムボックスがある。テントどころかベッドを置くことができる。

 もう、ほとんどサバイバル術なんてものを使わずに済むのだ。

 うん、美月がいるとどうしても旅の苦労がない。


「とりあえず、下着や服を入れておいてくれ」

「分かった。ほかには?」

「タオルとかでいいんじゃないか? やっぱり必要になると思うし」

「じゃあ、それも入れておく」


 美月はさっそく言われたものをせっせと二つのバッグに詰めていく。

 一方の俺はただぼんやりとしているだけだ。

 俺も手伝えって話なのだが、前に美月が「しょ、将来の、だ、旦那様は家事はやらなくていい」と言っていたので、全く手伝えなかったわけではないが、あまりやらせてもらえないのだ。

 思えば俺が手伝いを許されたのは、美月と一緒にするようなものばかりだったな。

 もしかしてそれが狙いだったのか?

 そういえば俺が手伝わなくなってから、よく寂しそうな美月を見かけることが多くあった。それは家事をしながら一緒にいることができなくなったからなのだろう。

 ただ、今はうきうきでバッグに入れている。

 きっと前の生活よりも自由に密着もできるようになったからだろう。わざわざ手伝いという遠回りな手段を使わずともくっつくことができるから。


「夜弛、終わった」

「よし、じゃあ、そろそろ出るか」


 俺たちはそれぞれのバッグを背負い、部屋を出て、城門まで行く。

 そこにはすでに集まっている一部の同級生。美月狙いではない者たちだ。

 それに加えて王女とその護衛である。


「夜弛君、あなた、美月の旦那なんだからちゃんと養いなさいよ! あと、乱暴しちゃダメだからね!」


 そう言うのは美月の友達の一人だった。名前は野村 沙希(さき)

 美月の親友と言うわけではないが、それに一番近い関係であった。


「分かっている。俺はこいつを大切にする」

「沙希、私と夜弛はラブラブ。だから大丈夫」


 俺たちのその言葉にみんなは微笑んでくれる。


「く~見せつけてくるねえ!」

「俺も二人みたいになりたいなあ」


 同級生の男子が俺たち二人を見て、そう口々に言う。

 若干妬みもあるが、決して美月を狙ってのではない。自分たちよりも早く恋人を、嫁を貰ったことに対する妬みだ。

 まあ、だから俺も悪ふざけして、仲の良さを見せつけてやった。

 男子はわざとらしく恨み言を言ったり、女子たちはキャーっと声を上げて興味深そうに見ていた。

 それからみんなに言葉を軽く交わし、俺たち二人はついに城を出た。

 街は城を中心に囲うように存在している。もちろん城と街は離れていて、その間には城壁と深い掘りがあった。

 城に一番近い建物は多くが貴族の家が多い。その次に店などがあり、一番城から離れたところに俺たち平民が住む家がある。

 つまり、今歩いている場所は今後はほとんど歩くことがないということだ。平民が貴族の家が並ぶところなんていろんな意味でいられるわけがないからな。


「美月、さっさとこの区域から出るぞ」

「ん」


 俺の中にある貴族の像は平民に権力を使って好き勝手にする像である。

 で、現在いる場所はその貴族の家がある街の一角だ。どこで貴族が見ているのか分からない。人は少ないが、確実に美月という美少女の情報は貴族の耳に入ったはずだ。

 そして、耳のいい貴族は俺たちが勇者で、魔法が使えない存在であり、今日城を出たばかりということを掴んでいるはずだ。きっと最初に王と会ったときに美月の容姿は知っているだろうから、自分にもチャンスが来たと思うやつがいるはずだ。そのため金で雇ったならず者を寄越して来る可能性がある。

 もう城を出たからこっそり殺そうと思えばできるのだが、俺も進んで殺したいとは思ってはいない。


「夜弛、瞬間移動、使う?」

「どこに?」

「森の中。正確な場所じゃないけど、人の目は少ないはず」

「だが、冒険者になるには街のギルドに行かないと」

「冒険者は他の町でなればいいと思う。どう?」

「うん、そうだな。それがいい」


 それならばこの場所から早く離れることができる。

 それに俺たち妖怪は人間と違って数日くらい飲まず食わずでも動くことができるのだ。数日あれば俺たちならば隣町にでも行くことができるだろう。


「だが、どこでするんだ? 残念だが、貴族の家が立ち並ぶせいで、裏路地みたいなくらい場所はない。


 この貴族の家が立ち並ぶ区画では、家と家の間に狭い通り道などない。あっても大きな道だ。それ以外は家の壁と壁がくっ付いている状態だ。

 なので、裏路地と呼べる場所がないのだ。

 これでは目立たずに瞬間移動できない。


「しょうがないから、このままお店が並ぶところまで行く。そこなら裏路地があるでしょう?」

「ああ。じゃあ、そこまで行くか。ただ、こうして話して歩いている間に俺たちを尾行するものがでてきたがな」


 広い通りで、なおかつ貴族の家が立ち並ぶせいで人が少ないので、簡単に見つけることができた。

 その尾行の能力からして、結構な尾行能力を持つ者だ。やはり貴族関係と見て間違いない。おそらくは俺たちが今日中に王都から出ずに宿を取ると思っているのだろう。尾行者は連絡を取っている様子はない。

 いや、そういう魔法や道具があるのならば分からんが。


「!! 危険?」

「いや、危険じゃない。あいつはきっと俺たちが宿を取るのを待っているのさ」

「なら、問題ない。私たち、宿取らないから」


 これから瞬間移動で森へ行こうとしている俺たちには無意味な尾行だと言える。

 なので、尾行者のことは頭の隅に置いておいて、俺たち二人は手を繋ぎながら店のある区画へと歩いていく。

 店が立ち並ぶ区画に行くとそこは貴族の家が立ち並ぶ区画と違って、人の賑わいで溢れていた。

 店員は声を出して客を呼び、客は懐の金と商品の値段を比べて買うかどうか迷う。そういう場所であった。

 もちろん静かな店もある。いわゆる「高級」という言葉が付くような店である。

 店員は先ほどの店員のように客を呼び込まない。でも、客が来るのだ。まさに店が客を選んでいるかのようだ。


「何か結構賑やか」

「ああ、やっぱり王都だからな。人が多いから商売もやりやすいんだろう」

「私も買い物したかった」

「それは今度だな。永遠にここに来ないってわけじゃないしな」

「いつかまた来たい」


 俺たちはすぐに裏路地には行かずに店を見て回る。

 どうせ予定と言ってもあってないようなものだ。しばらく見て回ってもいいだろう。


「なあ、どうせならやっぱり冒険者登録しておくか?」

「? 別の町は?」

「いや、どうもな、てっきり実力行使で来るかなと思っていたんだが、全く来ないみたいだし、それならば登録だけして適当に店を見て回るのもいいかなと思って。それに夜のほうが視界が狭くなるから誤魔化しが効くから」

「それもそう。じゃあ、行こう?」


 冒険者ギルドは店が立ち並ぶ区画にある。しかも、運がいいことにここから反対の場所にあるのではなく、すぐ近くにあった。

 やはり冒険者ギルドの近くということで、武装した人たちが他よりも多かった。


「何か予想通り」


 美月がギルドの建物を見て呟く。

 ギルドの建物は木造で、その年季を表すかのようにボロボロである。もちろん今にも崩れそうなという意味ではない。いい言い方をすれば歴史のある建物ということだ。


「美月、あまり離れるなよ」

「ん」


 美月は美人なので、かなりの確率で絡まれるはずだ。

 離れていたら強引な手を使ってくるかもしれない。俺も万能というわけではないからな。

 中へ入るとテーブルが並んでいて、奥に受付のカウンターがあった。

 テーブルには何人かが座っていて、飲み物を飲んでいたりする。


「おいおい、なんだあの別嬪さんは」

「やべえ、可愛すぎる!」

「彼女にしたい!」

「だが、男連れだ。しかも、あの筋肉だ」

「はっ、どうせ見掛け倒しだ」


 入っていきなり俺たちの話になる。

 内容は主に美月で、その容姿を褒め自分のものにしたいなどという戯言を言っている。一方で俺の内容は邪魔だとか見掛け倒しだとかそんな内容だ。大きな差である。

 一応、女性の冒険者もいるのだが、こちらは男性冒険者とは反対である。俺を自分のものにしたいと思い、美月には嫉妬深いものを向けている。

 ひそひそと聞こえる声から察するに冒険者なんてものにはなっているが、やはり死ぬ可能性のない生活が欲しいようだ。つまり、結婚をして主婦になりたいということだ。

 うん、ここはある意味戦場だな。


「ここで冒険者の登録ができると聞いたのだが」


 受付の前に着くと受付嬢にそう言った。

 結構美人だな。

 そう思うと後ろの美月から冷たい視線が。

 ま、待て。ただ単に感想を言っただけだ! 浮気じゃないから!


「はい、できますよ」

「そうか。ならば登録をしたい」


 今は美月に話すことができないので、このまま話を続ける。


「分かりました。お二人で?」

「ああ、俺と彼女だ」


 俺は体をずらし、美月を見せる。


「では、身分証を提示してください」

「身分証?」

「はい。もしかしてご存じないのですか?」

「ああ、ない。教えてくれないか?」

「はい。身分証というのはこのようなプレートです」


 受付嬢が取り出したのは見たことのあるプレートだった。

 これは転移初日に受け取ったスキルや個人情報を見ることができるものだ。

 なるほど。確かにこれは身分証だ。


「それか。もちろん持っている。美月、出せ」


 俺も美月もそれを取り出し、それを受付嬢に見せる。

 もちろん種族のところは美月による幻術で誤魔化してある。


「はい、確かに受け取りました」

「それをどうするんだ?」

「この身分証に冒険者としての情報を刻むのです」


 そう言って受付嬢は自分の身分証を俺たちに見せる。

 そこには名前や種族など以外に「冒険者ランク:C」と書かれていた。


「これだけか?」

「はい。それだけですね」


 もっと何かあるかと思っていたが、これだけだったのでちょっとがっかりだ。


「それで登録しますか?」

「ああ、二人分だ」


 受付嬢に渡してしばらくすると登録を終えた受付嬢が俺たちの身分証を渡してきた。


「夜弛、工作されてない」


 後ろにいる美月が身分証を見て、そう言った。

 工作の心配をしたのは、もちろんこのギルドが貴族の手にかかっているのかもしれないと思ったからだ。一応、ギルドは国に所属しない組織であることは知っているが、職員は人間だ。大金を積まれれば簡単に従うだろう。従わない人間はほとんどいない。


「ところで冒険者の説明は?」


 受付嬢がそう言ってきた。

 おい、それって登録する前にする質問だよな? なぜ今聞いたし。


「頼む」


 説明された内容は基本的に少ないものだ。

 冒険者にはランクがあり、最低ランクがFで、最高がSであるということ。

 Cランク以降になると昇格試験というものがあるということ。

 依頼に関すること。

 素材の受け取りに関すること。

 その程度だ。


「以上になります。もし分からないことがあれば遠慮なく聞いてください」

「分かった」


 それから俺たちはギルドを出た。

 てっきりギルド内で何らかのテンプレがあると思ったが、それはなかった。

 まあ、さすがにここは現実だ。冒険者は誰でもなれるものなので、テンプレ的な「可愛いお嬢ちゃんが云々」はないのだろう。

 まあ、あったらそのようなことをした男性冒険者を女性冒険者がボコボコにしそうな気がする。


「夜弛、まだ夜までにはたくさん時間がある。食べ歩きしていい?」

「いいぞ」


 美月は俺の許可をもらうと俺の腕を引っ張って主に露天を見て回る。

 俺たちがこの世界でたべたものは城で食べたものばかりなので、庶民である者たちがどのような食べ物を食べているのかは知らない。

 これからは主にこちら側の料理を食べるからな。知っておいたほうがいいだろう。

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