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第11話 決闘の結果はもちろん

 俺は俺へと近づいてくる火の玉に対して、犬のように伏せて回避した。

 俺の頭上を火の玉が通る。

 本当ならばこの程度の魔法を食らっても傷一つつかないのだが、こんなところでそうすることはできない。目立ってしまう。

 伏せて回避したので、俺の服は土と砂で汚れていた。


「はっ、無様なよけ方だな!」

「回避方法がこれしか思いつかなくてな」


 嘘だ。剣で魔法を切ることもできたし、もっとかっこよく避けることもできた。


「さて、その無様な避け方で、どこまでいけるかな?」


 男Aはそう言いながら、今度は魔法を次々と放ってくる。詠唱があるので、魔法一つ一つに間隔があるが、それでも連射と呼べるほどには間隔は短い。

 おい、完全に俺を殺しにかかっているじゃないか。いくらこの城に有能な治癒魔法の使い手がいるからって少しでも生きていれば大丈夫ってわけじゃないんだぞ。

 俺はちょっと本気というか、手加減を止めて、それでも、無様に見えるようにして全てを回避し続ける。


「くっ、しぶといな。『風よ! 見えぬ刃で我が敵を切り裂け!』」


 火の玉の次は風の刃。

 火の玉は着弾と同時に小規模だが、爆発する魔法だ。玉の大きさもスイカよりも少し大きいくらい。

 そして、風の刃は火の玉と比べて爆発はなく、空気という目に見えない刃で相手を切り裂く魔法だ。その刃は横に広い。もちろん刃なので、角度を変えれば縦に広くなる。

 なるほど。火の玉だと避けやすいが、風の刃だと見えないし、範囲が大きいから避けにくいというわけか。

 だが、その程度の小細工でやられる俺ではない。

 それはその程度の魔法では傷つかないとかだけではない。見えなくても避けられるからだ。だって魔力が感じられるからな。

 俺は続いての攻撃もまた避けた。


「よ、避けた? いや、偶然躓いたのか」


 ああ、そういうふうに見えるようにしたからな。

 だが、これで見えない風の刃を避けるのは最初の一回だけだ。何度も魔法が使えない俺が避けるのはおかしいからな。

 だから、俺は次の魔法の詠唱が始まる前に男Aのもとへ駆けた。

 もちろん男Aは自分に近づけさせないようにとすぐさま詠唱を開始した。


「『風よ! 見えぬ刃で我が敵を――』」


 このまま駆けても男Aを倒す前に魔法が完成する。

 なので、ちょっとずるをしようと思う。


「『――切り裂――っ!?」


 男Aの詠唱はあと少しというところで止まる。

 男Aの顔は目を見開き、何かに恐怖していた。

 これが俺のやったことの結果だ。

 俺がやったことは簡単なことだ。ただ殺気を男Aに向けただけ。

 男Aは初めて感じる殺気に死を見たのだろう。男の意識は朦朧としているのか、倒れそうだ。

 だが、このまま倒れてもらったら困る。それではきっと俺が倒したといううちには入らないはずだ。

 俺はそこから剣を捨て、その顎に目掛けて掌底を放った。


「がぼっ」


 男Aはそんな声を上げて、真後ろへ倒れた。

 剣ではなく素手でやったんだ。俺の気遣いに感謝しろよ。


「うむ、勝負あり」


 王はそう言った。

 だが、顔は平然としているようだが、俺には驚愕し落胆しているように見える。

 まあ、これで美月が手に入ることがなくなったんだからな。当たり前といえば当たり前か。


「夜弛!」


 試合を終えた俺に美月が駆け寄って、俺に抱き付いた。


「おっと」


 俺は美月を抱きとめる。

 それを見た美月に気がある者は嫉妬の籠った目でこちらを睨んでくる。

 ちょうどいい。

 そう思って俺は美月の額にキスをする。さすがに唇にはしない。そこまでしたら、美月の蕩けた顔が周りの奴に見られるからな。さすがにそんなサービスはしない。

 俺にキスされた美月は顔を赤くし、俯く。


「み、みんなが見てる前でするのは……は、恥ずかしい……」


 美月はそう言って、俺の服で顔を隠した。


「おい、汚れているぞ」

「わ、分かってるけど、は、恥ずかしいから」


 汚れるよりも顔を隠すほうを優先するようだ。

 見せつけも終わったので、俺たち二人は同級生たちのところへ戻る。


「王様、俺はこの試合に勝った。ということはもう行って良いか?」


 王に対する言葉遣い? 人の妻を見て、自分のものにしようとするやつにそんなもの必要ない。

 もちろん、見惚れるくらいは普通に許す。誰だって可愛いものを見たりすれば、そういう反応はするからな。


「う、うむ、そうだな。まだ危ういところがあったが、約束は勝ったら、であった。旅をすることを許可しよう」


 よし、これで王公認だ。それに圧倒的ではない勝ち方なので、俺の戦力を頼りにしてくるということはないだろう。

 だが、このことを認めないもの、というか、なんというか、諦めの悪いやつがいた。


「待て、月山! その旅、俺たちも行かせろ!」


 そう行ったのは同級生の男、名前は知らん。なので名前は男Bだ。

 男Bの言う「俺たち」というのは男Bの両斜め後ろにいる二人も含めての三人か。


「はあ? 何を言っているんだ?」


 俺たち二人。それも夫婦。

 そんな二人がこの城から出て行くというのだから、その意味は自ずと理解できるはずである。


「何って、お前の実力では魔物に殺され、麻倉さんも死ぬだけだ。だから、俺たちが付いていこうと思っただけだ」


 そうは言っているが、俺にはこいつらの目的が手に取るように分かる。

 どうせ、旅に出て、人目のないところで俺を殺して、美月を自分たちのものにするつもりなのだろう。

 見え見えだぞ?

 その周りのまともな同級生たちは、美月に気がある男子たちに冷たい視線を向ける。特に女子たちは。


「いらん。旅は俺と美月だけだ」

「お前、麻倉さんを殺す気か?」

「そんなわけがない。だが、俺たち二人以外はいらん」


 なぜ新婚旅行も兼ねている旅行に別のやつを連れて行かなければならないんだ。しかも、妻狙いのやつを。

 誰だって狙いが分かっているのに連れて行くわけがないだろう。


「なんだと!」


 男Bがそう喚く。

 こっちが「なんだと」と言いたい。


「はいはい、そこまで」


 男Bのこれ以上の横暴を止めたのはイケメン勇者、神代であった。


「月山と麻倉さんは夫婦だよ。二人の新婚旅行に君たちまで連れて行けるわけがないじゃないか」

「おい、神代! お前は二人が死ぬかも知れない旅を許すって言うのか!?」

「許すよ。これは二人が決めたことだ。二人も承知の上。それにこの世界ではいつも死と隣り合わせ。ならば自分で決めた未来の末に死ぬほうだっていいだろう」

「自分で決める? それは魔王を倒さないってことか?」

「そうは言っていない。だが、魔王討伐は生死に直結する。特に二人は魔法が使えない。それに加えて魔力量も少ない。二人は僕たちと比べて、死ぬ確率が高いんだ。いいじゃないか、それくらい」


 神代は俺たちのことを死ぬ確率が高いとか言っているが、俺は何となく神代が俺の実力を見抜いているような気がした。


「それくらい? 何を言っているんだ! 二人がそうするということは俺たちを、仲間を見捨てたということだぞ? そして、自分たちだけが幸せになろうとしている!」

「それのどこが悪いと言うんだい? 自分の幸せを望んだっていいじゃないか。そもそも僕たちは勝手に召喚され、勝手にこの世界の未来を背負わされた人間だ。義務などない」

「だが、俺たちは周りの者にはない魔力量がある! 俺たちは選ばれたんだ! ならば義務はあるはずだ!」

「うん、そうだね。特にこの僕なんかは一番その義務とやらがあるね。だから僕は訓練を頑張り続けている。でも、君のその言葉を受け止めるならば、魔力量の少ない二人は義務がないはずだ。だからなおさら二人が別にどんな選択をしようが問題ないはずだ」

「っ!」


 神代の正論に男Bは何も言えない。


「それに君は二人について行こうとしたという点を挙げるならば、君も裏切りだけどね」

「…………」


 男Bはトドメを刺されて、何も言えなくなった。

 確かに男Bの話の通りならば、俺たちについて行こうとした男Bは裏切り行為だ。

 にしても神代はイケメンだ。容姿だけでなく、行動もイケメンだ。イケメン過ぎる。


「もういいね?」

「…………ああ」


 神代は男Bとの会話を終えると、俺たち二人に向かってくる。

 そして、にこやかに笑って、


「二人が親密な関係であることは知っていたけど、夫婦になっているとは思わなかったよ。麻倉さん――いや、夫婦だから月山さんか。二人はお似合いだ」


 と言った。


「ふふ、当たり前。夜弛と私は運命の人。似合って当然」


 美月が俺の腕に抱きつきながら誇らしげにそう言った。


「運命の人、か。それはいいね」

「神代にも見つかるかもしれんな」


 俺が答える。


「月山――あ~」

「夜弛でいい」

「ありがとう。参考に聞くけど、運命の人の見分け方は?」


 どうやら神代が運命の人に興味を持ったらしい。

 主人公の神代のことだ。きっと運命の人を見つけるに違いない。

 俺は神代のことは嫌いではない。むしろ好きな部類の人間なので、それを教えることにした。


「そうだな。人によって変わると思うんだが、その人を見ると何かが繋がったという感覚があったな」

「繋がった?」

「俺の感覚だがな。だが、繋がった=恋をするというのではないな。一目惚れとは何か違う」

「僕には似たようなものだと思うんだけど」

「まあ、一目惚れがその瞬間に恋心を抱くならば、繋がることがゆっくりと恋をしていくといった感じだな」


 とはいえ、このような言い方だと、どちらも最初に会った時に恋をしたって感じで、違いはスピードだけだろう。ある意味、運命とは一目惚れなのかもしれない。

 まあ、運命と一目惚れがほとんど同じなどどうでもいいな。問題なのは互いに愛し合っているかだ。


「なるほど。僕も見つけられるかな?」

「ああ、見つかるさ」


 何せ神代は主人公だ。

 主人公にはヒロインが必要だろう?


「ありがとう。二人はこれから旅に出るんだったんだよね?」

「ああ、昼ごろには出る」


 王から取らなくていい許可を取ったからな。もうこの城で何かをすることはない。

 なので、俺としては早く出て、これからの俺たちの稼ぎとなる冒険者になるために、冒険者ギルドというところで登録したいのだ。そして、早く余裕で食べていけるほどの冒険者になりたい。

 というのも、冒険者というのはその能力次第では、大金を稼げるからだ。戦闘能力に自信がある俺としてはまさに天職というわけだ。


「そうか、よかった。みんな今日聞いたばかりだからね。多分、お別れの時間が必要だと思ってね。それくらいはいいかい?」


 俺は美月を見る。


「私も友達がいるから、お別れしたい」


 美月にも友達がいる。親友というほどではないが、それなりに親しい友人だ。親友ではないにしても、美月も最後にお別れの言葉くらいは言いたいだろう。

 俺も志摩以外に友人はいるし、挨拶はしておきたい。

 ああ、もちろんその友人は美月狙いではない。


「だそうだ。いいぞ」

「じゃあ、お昼までは数時間しかない。さっそく始めようか!」


 勝手に神代が決めていたが、近くで聞いていた王は何も言わなかった。

 ともかく、俺たちは城の中へと戻り、俺たちが好きにしていい部屋で最後の話をすることになった。

 俺はまず志摩のところへ向かう。


「よう、志摩」

「おう、月山。もう出るんだな。俺はまだいるのかと思っていたが」

「美月がこれ以上口説かれるのを嫌がってな。そろそろ慢心したバカ共が美月に触れるかもしれないからな。それは許せないから出ることにしたんだ」

「なるほどな。確かに好きな女や妻にゴミが付くのは嫌だな」


 何気に志摩がひどいことを言っている。

 俺はそこまで言ってはいない。


「にしてもお前のところの嫁さんは男女関係なく人気だな」


 志摩が視線を向ける先には女子たちに祝福されながら、周りの女子たちから抱きしめられている美月だ。

 美月はその容姿から多くの異性に好かれると同時に同性からの好かれている。本来、美月のような可愛くて美しい少女がいたのならば、異性の多くを虜にする悪女と見られ、同性たちからは嫌われる対象となるのが一般だ。

 だが、そんなことはなく、このようになっている。


「ああ。あいつは俺以外には全く興味を抱かなかった上に邪険にしていたからな。女子たちからしたら、好きな人がいるのに、周りがかまわずに付きまとってくる、可愛い女の子って認識なんだろう」

「……最初のセリフ、言ってて恥ずかしくないか?」

「……実は結構恥ずかしかった」


 いくら事実でも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 自惚れではないのは確かなのだが、自分で言うのはやはり恥ずかしいものがある。


「それはともかく、お前の言うとおりだな。お前の嫁さん、女子からは人形みたいって可愛がられているし、たまに見せる笑顔が可愛すぎるって言っていたぞ」

「だろうな」


 美月は俺以外にあまり笑顔を出さない。

 その美月は確かに人形みたいなのだ。もちろん悪い意味ではない。可愛いお人形という意味だ。女子たちは部活で作った衣装を美月に着てもらったりと着せ替え人形をやっていた。

 たまに俺も美月の着せ替えされた美月の姿を見に行ったことがある。もちろん男は俺だけだ。それを条件にしたからな。

 ちなみに写真はあるのだが、残念ながら俺の部屋だ。もう二度とその写真を見ることはできないだろう。

 ただ、この世界の服は前の世界と比べても、遜色ないので金に余裕があれば、美月に着てもらいたい。

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