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第10話 妻をかけた決闘

 向かう場所は王のいる謁見の間だ。そこに王と同級生がいるそうだ。

 もちろんメイドが先導している。


「夜弛、腕組んで行くのいい?」

「いや、ダメだろう。今から会うのは王だぞ? いくら異世界人でもダメだろう」

「見せ付けるにはちょうどいいと思う」


 いや、確かに俺たちの関係を一目で理解するにはいいかもしれない。

 だが、どこに王という国の頂点がいるところでいちゃいちゃする者がいるだろうか。いたらそれは不敬罪ってやつになるだろう。

 いくら異世界人とはいえ、これは常識だ。

 いくらいちゃいちゃしたくてもそこは我慢する。


「ダメだ。絶対にせんぞ」

「残念」


 そう言うわりには残念そうな感じではない。

 常識だから本気でない。だけど、一応言ってみてやれるならやると言ったところか。

 謁見の間に着くとメイドがこちらを見る。


「どうぞ、お入りください」


 そうやって、メイドが言い、扉の前にいた二人の兵が巨大な扉を開ける。

 玉座にはすでに王がいて、同級生たちも玉座の間の右側にいた。他にいるのは武装した兵たち。完全武装しており、腕のほうも高いと分かる。

 まあ、ガラムスさんと比べるとまだまだだが。

 俺たちは王や同級生たちに見られながら進んで行く。

 王の前に行くと俺たちは跪く。


「確か、夜弛と美月だったか」


 王が俺たちに聞こえるよう呟く。

 その言葉と仕草はまさに王というものが現れているのだが、それに騙される俺ではない。王の目は俺たち(・・・)に向いているように見えるが、主に美月のほうへ向いているのだ。もちろんその視線の意味は客人などに対して向けるものではない。異性に対して向けるものと同じだ。

 やはり最初の謁見のときと同じだな。

 だが、それも今日で終わりである。なにせ、その美月は俺と共に旅に出て、どこか遠い地で暮らすのだから。

 きっと王や同級生たちと会うことはほとんどない。特にずっと城にいる王は。

 同級生は次があってもそのさらに次がある者とない者がいるが。

 もちろん後者はそのときに美月に対していかがわしいことをしようとして、俺、または美月に殺された者である。

 慈悲? そんなものはない。

 妖怪は自分の伴侶が運命の人であることもあり、他人に自分の伴侶が取られようとしたら、怒り狂ってしまうのだ。

 まあ、妖怪は結構嫉妬深いというわけだ。

 妖怪の女性の場合は自分の伴侶が遊び出なければ許すが、遊びで女性と関係を持った場合、怒り狂ってしまう。


「そうです。俺が夜弛で、こちらが美月です」


 俺が代表してそう言った。


「そうか。それで、お前たちの望みは旅に出ることだったか?」

「そうです」


 その王の言葉に同級生たちはざわめいた。

 どうやら同級生たちは謁見の間に連れてこられた理由を知らないらしい。王の言葉で初めて知ったようだ。


「ど、どういうことだよ!」


 同級生の一人がそう叫んだ。

 どう考えても美月に気があった男だ。

 まあ、このままこれが通れば自分の想い人がいなくなるのだ。叫ばざるを得ないだろう。なにせ城に美月がいればいつだって見ることができるし、相手は女で自分は男。襲えれば美月の体を好き放題できるのだ。しかも、自分は魔法が使え、美月は使えない。魔法での抵抗がないのだ。

 だが、いなくなれば見ることも襲うこともできないのだ。止めたいに決まっている。


「そうだよ!」


 それから次々と主に男から言葉投げかけられる。

 きっとこの中には俺と美月が一緒にいて、どういう関係なのかに気づいたものもいるのかもしれないな。または気づいていながらその事実を受け止められずに気づいていないふりをしているのだろう。


「ふむ、これを見るにまだ仲間への説明が終わっていないようだな。これは皆を説得してから旅に出たほうがいいのではないかな?」


 王は顔には出していなかったが、どう考えても同級生たちが俺たち、特に美月を手放したくはないということを分かっていて言っている。というか、王も同級生と同じ思いだろう。

 もちろんのこと、俺に同級生たちを説得する気などない。

 なぜやつらを説得しなければならないのだ。あいつらと俺たちは全く関係がない。むしろあいつらが美月を口説こうとしている分、敵である。

 残念ながら俺に敵を説得すると言う選択肢はない。


「それに外は城の中と違って危険だ。それを分かっているのかね?」


 俺としては美月を口説くものに攻撃できる分、外のほうが安全だ。むしろ、貴族などがいる城のほうが危険である。


「もちろんですとも。だが、俺はこの城から出ます」

「おい、待てよ! だったら月山だけ出て行けばいいだろう! 麻倉さんは出て行かなくていいだろう! 王様が言っていたように外は危険だ! 男として女性を危険な場所へ向かわせるのを見過ごせない!」


 同級生の誰かが言う。

 おい、美月狙いのお前が言うな。

 何度も言うが、俺は美月をこの城に置いているほうが危険だ。

 俺は同級生たちのほうを向く。


「美月は自分の意思で俺について行くと言った。だから連れて行く」


 俺はそう言った。


「月山、お前が脅したんじゃないのか? 麻倉さんはお前の幼馴染だから断れなかったんだろう」


 その言葉に同意するように周りの男たちが俺を睨む。

 だが、


「夜弛は脅してない。私が望んで夜弛について行くの」


 美月がそう言った。


「くっ、だけど、麻倉さん。旅に出たら危険だけど、この城にいればご飯だって食べられるし、安全も保障される。なのになぜ旅に出るんだい?」


 その言葉に対して、美月は、


「みんなには言ってなかったけど、私は夜弛と結婚した」


 と言った。


「「「「「!?」」」」」


 その言葉はこの場にいる者たちを驚愕させた。

 いや、驚愕したが、もちろんのことその驚愕の意味はそれぞれで違う。

 美月のことを想っていたものたちはショックを受け、俺と美月の中を知っていたものは恋人ではなく、夫婦になっていることに驚いてた。


「だから、私は夜弛と旅に出る。夫婦だから城を出たい」

「け、結婚? 夫婦? そ、そんなに簡単に夫婦になっていいんですか?」


 ショックを受けながらもそう口にする。


「問題ない。私は夜弛を愛しているし、夜弛も私を愛してくれている。それは昔から。夜弛はそんな小さい頃から私を想ってくれている。そして、私もまた想ってきた。確かに一見簡単に決めたみたいだけど、互いに一途に想ってきた相手と結婚した。軽い気持ちではないのは確か」


 美月の言葉を聞いて、一部の女子たちは羨ましそうに美月を見ていた。

 まあ、ある意味互いに一途に想い合って、さらにそこから結婚である。年頃の少女にとって理想の結婚であろう。

 美月の言葉を聞いた同級生の男は次は俺のほうへ向き、睨みつける。


「俺は二人が旅に行くことに反対だ!!」


 そう言った。

 それに同調するように今まで黙っていた同級生の男たちも「反対だ!」と言い始める。


「おい、月山! 俺と勝負だ! 旅に出るんだろう? なら、麻倉さんを守れなければいけない! できなければお前一人で行け!」

「おいおい、待て。美月は――」

「王様! 決闘を許してください」


 俺が言おうとしたのだが、それを無視して言った。


「ふむ、私もこちらの都合で呼んだ勇者が死んでしまうのは心苦しい。二人の意思を踏みにじってしまうが、二人の命のほうが大切だ。実力を見るためにもそれは必要だな。決闘を許可する」


 王はそう言ったが、その顔には俺が負けると書いてある。絶対に俺たちが魔法が使えないということと、日頃の訓練の様子を知っているからその顔ができるのだろう。


「……分かりました」


 本当は従う必要はないのだが、無理に突破して追いかけられるのは面倒だ。逃げるのもいいが、王から言質は取ってある。

 だから、ここで軽く戦って王公認にしてもらおう。


「夜弛、いいの?」

「いいさ。予想はしていた。それにこっちのほうが面倒じゃないからな」

「でも、勇者よりも強いってばれたら面倒かも。追いかけてくるかも」


 王公認とはいえ、俺たちは魔王を倒すために召喚されたのだ。強いやつは置いておきたいに決まっている。


「まあ、そのときはそのときだな」


 そこから先はあとからでもいいだろう。どうせ、旅に出れば隣の国を目指して行くのだから。

 俺たちはいつも訓練している訓練場へ向かう。訓練場には模擬戦をするための広場があるからだ。

 ちなみにこの広場にいるのは王と同級生だけではない。先ほどまで訓練をしていた兵士もこちらを見ている。

 俺と同級生の男は剣を構える。


「おい、お前に勝ち目はないんだ。麻倉さんを解放しろ!」

「解放しろと言われても、美月は俺の妻だ。それはあいつも同意の上だ。解放も何もない。それに俺が解放しようともあいつは俺を解放しないだろう」

「くっ、見せつけか!」


 俺は答えない。

 だけど、その答えは当たりだ。見せ付けておかないと互いにへたれだから、まだ自分にもチャンスがあるとかまだ間に合うなんて勝手な勘違いするやつが出るかもしれないからな。

 だから、チャンスがあるわけがないと見せ付けるのだ。

 そうだな。あいつらの目の前で美月とキスをするというのはいいかもしれないな。

 ただ、美月に後で怒られそうだが。


「二人とも、準備はよいか?」


 王がそう言う。


「はい、大丈夫です」

「大丈夫だ」


 同級生の男と俺は答える。


「ルールは相手が降参するか、戦闘不能になるまでだ。武器や魔法の指定はない。では、開始せよ」


 王がそう宣言した。

 まず同級生の男が――ってこの長い仮の名前を言うのは面倒だな。男Aにしよう。

 まず男Aが剣を振りかぶりながらこちらへ向かってくる。

 うん、隙だらけだ。

 それが分かるのはもちろん俺も、剣ではなく刀だが、達人に入るほどの腕の持ち主だからだ。

 周りのものはそうには見えないだろう。隙があることに気づかずに、防御や回避を優先させるほどの攻撃なんて思っているだろうな。

 もちろん例外はいる。神代や志摩などの熟練者だ。そいつらは防御や回避のほかに反撃の選択肢が存在する。

 それで俺が選んだ選択は防御だった。

 え? なぜ反撃しないのか? それはもちろん俺たちが旅に出た後に追いかけてくる可能性をできるだけ低くするためだ。実力者ではないということを見せるということだ。

 面倒なことは変わらないからな。

 俺と男Aの剣がぶつかり、火花を散らす。


「ぐっ」


 俺は男Aからの激しい攻撃(笑)を次々と受けて、苦悶の声を漏らす。俺は少しずつ後ろへ下がって行く。


「ははははっ! どうしたどうした! 俺に勝つんじゃなかったのか?」


 男Aは防御しかできないふりをしている俺に余裕そうにそう言いながら攻撃してくる。


「これじゃ、魔法を使うまでもないな!」


 男Aはさらに強く剣を振った。

 その剣を防御した俺だったが、相手の力のほうが勝ったため、剣を持った腕ごと弾かれた。

 もちろん懐が空いた俺の隙を見逃す男Aではない。その懐目掛けて剣を振らずに、突いてきた。

 俺は何とか回避したが、その突きは俺のわき腹を掠る。


「っ!」


 俺は一旦下がり、わき腹を押さえる。


「ははっ、掠ったようだな!」


 ちなみに俺のわき腹には傷一つない。服に穴が空いただけだ。

 確かに俺のわき腹を剣が掠った。もちろんその剣の部分は剣の腹ではない。剣の刃の部分だ。

 なのに傷一つないのは俺が鬼だからである。

 鬼の体は頑丈だ。この程度の攻撃で傷が付くわけがない。


「さあ、今なら降参できるぞ。だが、降参しないというのならばこのまま痛めつける。答えは?」

「まだやるさ」


 男Aはそうかと呟くと体勢を崩したままの俺に向かって再び攻撃を始める。

 おっと、いきなり攻撃か。

 俺は無様な回避をする。


「ならば、容赦はしない。魔法も使ってやろう。それで終わりだ」


 男Aは俺からさらに離れると魔法の詠唱を始めた。


「『火よ! 玉となりて、我が敵を焼け!』」


 魔法の詠唱は多くがこのような命令形である。時と場合、人によって同じ魔法でも詠唱が多少異なったりするが。

 魔法の使えない俺だが、情報収集のときに魔法関係の本も読んだのだ。俺たちだって妖術を使う。そのときに言い訳をしなければならないので、魔法のことはちゃんと調べているのだ。なので、ちょっと詳しい。

 男Aから放たれた火の玉は俺へ向かって飛んでくる。

 それは初級の攻撃魔法とはいえ、確かに一般人には大怪我、または命を奪うレベルの魔法だ。これに対応するには防御の魔法を使うか、ただ回避するしかない。

 魔法も使えなくて、先ほどまでの俺の下手な動きを見ていた見物人から悲鳴が聞こえる。主に女子たちだ。

 ちらりと美月を見たが、美月も不安そうな顔をしていた。

 俺がこの程度の攻撃で傷を負うことなんて知っているだろう。そんな顔をするな。全く可愛いやつめ!

 さて、そろそろ決着を付けるか。

 正直、嫁の前でやられているふりとはいえ、かっこ悪いところばかりを見せるのはあまり好きではない。かっこいいところを見せてやりたいな。

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