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第1話 異世界転生

 それはいつも通り終えるはずの日から始まった。

 俺、月山(つきやま) 夜弛(やち)は高校三年である。受験をする年ということもあり、俺たち三年生は他学年とは一時間遅くまで授業があった。

 もうすぐ大学生、または社会人である俺たちだが、人によってはやはり早く帰りたいというのが周りから伝わってくる。ちなみに俺も早く帰りたい派の一人だ。勉強が嫌いというわけではないが、帰るのが遅くなるのは嫌だ。

 この日も同じで、嫌々ながら授業を終えたのだ。早く帰りたいと思っていた者は教師の号令のすぐ後に教室を出て行き、勉強熱心な者は似たような者たちと分からなかったところを話し合い、その他は友達としゃべる。

 俺? 俺は早く帰りたい派なんだが、一緒に帰らないと怒る幼馴染がいるから帰れない。ちなみにその幼馴染は勉強熱心なので、今も一人でノートに書き込んでいる。

 まあ、早く帰りたい派ではあるが、こうして幼馴染を待っているから、どちらかというと授業が早く終わって欲しい派なのだろう。

 そうやって自分の席で、親友と話しながら待っていると、突然床が光りだしたのだ。

 今は詳しくはいえないが、この光が俺は『霊力』だと呼ばれるものによる光だと知っていた。そして、光が魔方陣を描き、何らかの術式を構築しているのだと理解した。


「これは……霊力!?」


 俺の親友、志摩(しま) 正芳(まさよし)が驚愕に声を出す。ちなみにこいつは男。

 幼馴染もまた霊力だと気づき、勢いよく立ち上がり俺のほうへ駆け出そうとしていた。幼馴染の手が俺のほうへ向けられる。

 だが、俺の手と幼馴染の手が届く前に術式が完成し、教室を光で満たした。

 気づいたときには教室ではなく、別の場所だった。どれも石で作られていて、中世ヨーロッパを思わせるものだ。


「ここは?」


 誰かが呟く。

 どうやら教室に残っていた生徒がこの見知らぬ場所へ移動したようだ。

 まさかこれってラノベとかにある、転移ってやつなのか?

 本来ならば夢なんだとか思うかもしれないが、俺はそうは思わない。これも今は詳しくは説明しない。それよりもここがどこなのかを知ることが先だ。

 周りを見回すと生徒たちはざわざわと騒ぎ出す。人数は……三十人ほどか。違うクラスのやつもいるな。きっと友達と一緒に帰ろうとうちのクラスに来たやつなのだろう。または友達と勉強しに来たやつだ。

 さらに視野を広げると、魔法使いと言われて連想するようなローブを着た人たちが俺たちを囲んでいた。その人たちは手に自分の身長ほどの杖を持っており、まさに魔法使いであった。

 どうやら俺たちはこいつらに転移させられたようだ。その考えに思い至るには十分な材料だ。

 その魔法使いたちには疲労が見える。おそらくは霊力を消耗したからだろう。

 これがラノベ的テンプレならば説明をする存在が現れるはずだ。

 そう思って待っていると俺たちと同じくらい歳の少女が出てきた。ドレスを着ていて、その仕草の全てが漫画やアニメに出る貴族の通りだった。

 突然の転移でざわざわしていた生徒たちは、今度は別の意味でざわざわと騒がしくなる。

 まあ、少女は少女だが、美少女だからな。可愛らしい子どもと美しい大人の中間あたりの容姿である。俺もややドキドキする。


「皆様、わたくしたちの勝手な都合で召喚してしまい、申し訳ございません」


 いきなり身なりのいい少女が現れたと思ったら、いきなり頭を下げられ、生徒たちはおろおろとし始めた。主に男子が。

 俺は誰かが何かの術を使わないかと警戒中だ。隣にいる志摩も同じように警戒していた。幼馴染も同じく。


「わたくしの名前はエイリアス・フィル・エルライルド。この国、エルライルド王国の王女です」


 貴族の少女かと思っていたが、まさか王女だとは! いや、実は少女が出てきた時点で分かっていた。だってラノベでもこういう召喚では国が主導となって行っていたから。


 王女は次に説明をし出した。

 曰く、

・ここは別世界であること、

・魔王と呼ばれる強大な存在とそれに従う魔族という種族がいること、

・我々だけでは対抗するには難しいということ、

・異世界人は自分たちよりも強力な力をもつということ、

・俺たちを元の世界に返す技術はないということ、

・この世界には魔法というものがあるということ、

 その他色々のことを説明してくれた。


「これで以上です」


 王女は頭を下げて終わる。

 生徒たちはあまりにも現実離れしたことに口を開けてボーっと間抜け面を晒していた。俺はそんな間抜け面は晒さない。何となくそうではないのかと思っていたので、ああ、やっぱりか程度だ。


「ふ、ふざけるな!!」


 やっと現実に戻ってきた、ある生徒が言い放った。

 それに続き、同じく罵倒の言葉を言う者、帰れないということが分かりついに不安が爆発し、泣き出す者、俺と同じくこういうラノベを知っているためか、周りから見えないようにこの展開に喜びをかみ締めている者。

 反応は様々であった。

 俺は何となく察していたので、不安もほとんどなく、俺の想い人である幼馴染が一緒であることに安堵していた。

 あっ、ちなみに幼馴染は女である。名前は麻倉(あさくら) 美月(みづき)だ。細かい紹介は後でしよう。


「静かにせぬか!! 姫様の御前であるぞ!!」


 王女に向かって罵倒が飛び交い、泣き声が響く中で王女のすぐ後に控えていた、これまた身なりのいい服装の五十代くらいの男がそう怒声を響かせた。

 しかも、霊力もまた、わざとなのか知らないが、一緒に放っているので、圧迫感を感じる。

 霊力に慣れていない生徒たちには効果は抜群だな。生徒たちは静かになっていた。

 俺は全く問題はない。霊力ではないが、別の力を日常的に扱っているので、あまり効果はない。


「ロランド、下がりなさい」


 王女がその男、ロランドに命令した。


「しかし、姫様! こやつらは姫様に――」

「黙りなさい。彼らはわたくしたちの勝手な理由で、ここに来たのです。それも永遠に家族から引き離されて。罵倒されて当たり前のことをしたのです。わたくしが罵倒されることで、世界を救っていただけるならわたくしは甘んじて受け入れます」


 話を聞いていた生徒たちは、特に罵倒を王女に言っていた生徒たちは王女に対して申し訳なさそうにする。

 冷静に見ていた俺から言わせてもらうと、さすが王女様、中々の心の掴み方ですね、だ。

 おそらく生徒たちは「王女様は自分たちから罵倒を言われたのに、優しく対応してくれた、怒ってもいいのに優しく。少なくとも敵ではないのかもしれない」などとそう思う、またはそれに繋がるような何かを感じることだろう。

 ほら、よくある詐欺があるじゃないか。外国へ行って、外国語の中で自分と同じ言葉を使う詐欺師に優しく声をかけられたら、安心してついて行ってしまうというやつが。これと同じだ。


「さあ、皆様。こちらへどうぞ。皆様も床よりも椅子のほうが良いでしょう」


 女王様が優しい笑顔でそう言う。

 やはり心の掴み方がすごいな。


「みんな、行こう!」


 そう言ったのは、このラノベ的展開に必須な主人公的な存在である、神代(かみよ) 雄樹(ゆうき)であった。

 神代 雄樹はイケメンである。勉強も出来て、スポーツも出来て、男女関係なく優しいという欠点がないと言っても過言ではないほどの主人公なのだ。しかも、趣味も幅広いので、オタク系も十分いけるやつなのだ。

 いや、本当に理想的なやつだよ、お前は。どうやったらそうなるの?

 俺も神代とは仲良くさせてもらっている。親友レベルではない。クラスメイト以上友達未満程度だ。

 神代という自分たちの中でもっとも信じられる人物の言葉に生徒たちは頷き、王女様の後に続く。

 この部屋を出るとそこも高級感溢れる廊下であった。廊下の端には一定間隔で鎧を纏った兵士たちが立っていた。いや、騎士か? どっちか分からんが、武装した人間が立っていた。

 ここは屋敷の中と考えたほうがいいな。または城か。いや、王女がいるから城のほうか? テンプレならば神殿という可能性もあるが、こんなに長い廊下があるから城と考える。

 俺は城の見た目までは写真などで見たことはあっても、中の写真などはあまり見たことがないし、写真では分からないことが多い。だから適当だ。


「志摩、俺はここが城だって考えたんだが、お前はどう思う?」

「俺も城だと思うね。神殿というのもあったが、それにしては兵士ばっかりじゃないか。王女様がいるから配置されているって考えたんだが、それにしては広範囲に配置されている。だから城だ」


 どうやら志摩も同じ意見のようだ。


「まあ、こうやって推理したが、素人の推理だからな。実は神殿ということもあるな」


 あはは、と笑いながらそう言う。俺も思わず同意して笑った。

 もちろん、このような事態に陥っているので、こっそりとだ。


「志摩、これってラノベ的展開だよな?」

「ああ、俺もそう思っていた。月山はこの後の展開をどう読む?」


 志摩が俺に向かってにやりと口端を吊り上げる。


「魔王云々のところは終わったし、次は俺たちの力の確認ってところかな」

「だな。で、テンプレ通りならば神代がこの中で一番強くなるってところだ」

「同意。やっぱりあいつが主人公ってところか」

「で、俺たちは主人公で勇者様の仲間か。それもいいな」

「そうか? 俺は勇者はともかく、魔王討伐を進んでやるつもりはない。旅に出る」


 そう、俺はテンプレ通りに国に従って魔王討伐を目的にした旅などをするつもりがないのだ。勝手に動きたい。

 そのための実力? 後で詳しく説明するが、あるとだけ言っておこう。


「だが、召喚者たちが許すってところだな」

「分かっている。だが、召喚者も得にならない者を縛っておくなどしないはずだ。つまり、俺が無能であればいい」

「そうは言うが、テンプレだと特殊な道具でステータスが暴かれるってやつがあるんだが。これについては?」


 むう、そういえばテンプレ通りならばそういう道具も存在するはずだ。

 やべえ、作戦が始まる前に破綻かよ! その可能性を考えてなかった!


「ど、どうすれば……!」

「あきらめろ。もしくは、誤魔化せる方法であることに期待しろってところだな。いや~テンプレ通りだったら神代が主人公じゃなくて、月山が主人公になるのか~」


 志摩はニヤニヤとしながら俺をからかう。

 いや、それマジでそうなりそうだから笑えねえよ。


「そう睨むなって。全ては月山というイレギュラーのせいだな」

「ま、まだ俺が勇者というわけではない。上手く隠せるかもしれない!」

「そうだといいがな」


 そうであってほしい。そういえば俺がそうならば美月も似たようなことになるだろう。

 そうであるならば美月にこれからの俺の動きと美月のこれからの動きを言っておかなければ。力の測定の方法がどのようなものかは知らないが、誤魔化せるならそうしたほうがいいし、言わなかったら美月が神代の旅の同行者になる可能性がある。美月を想っている俺からすれば面白くない。

 そうしている間に俺たちはまた別の広い部屋に着いた。

 部屋の置くにあるのは謎の透明な球体。おそらくは水晶だろう。その手前にはテーブルに並べられた謎のプレート。

 王女は俺たちの前に立つ。


「今から皆様にはこのプレートに自身の血を付けてもらいます。これは自分のスキルを表示させることの出来るものです」


 やはりか。テンプレ通りだな。

 だが、スキル、か。

 さて、皆がプレートを弄っている間に美月に伝えておくか。

 俺はばれないように美月に近づいた。


「美月」

「!? 夜弛?」


 いきなり名前を呼ばれた美月は一瞬びくりと震えたが、すぐに俺だと気づいたようだ。

 ほとんど無表情の顔がこちらを向く。美月は美少女なのだが、無口無表情であることがさらに美しさを際立たせる。そんな美月はもちろんのこともてる。告白された数は多い。そして、振った数は告白された数に等しいのだ。

 それはなぜか。美月には想い人がいるからだ。しかも、小さい頃から想っているのだから、その本気の一途さが分かる。

 俺もまた美月のことを幼いころから想っているから同じだ。


「どうしたの?」

「いや、これからの俺の行動を伝えようと思ってな。俺はこの国に従うつもりはない。情報を貰うだけ貰ったら、色々適当なことを言って抜け出すつもりだ」

「分かった。私はどうすればいい?」

「今から俺たちのことを調べる道具が使われる。どのように表示されるか分からないが、誤魔化せるならば美月の力を使ってくれ」

「夜弛のも?」

「そうだ。頼む」

「ん」


 美月の短いやり取りが終わる。

 俺は再び志摩の元へ戻った。


「もうすぐで月山の番だぜ」

「はあ……まだステータスじゃないが、ただ時間が延びただけだ。美月の力で誤魔化せればいいのだが……」


 次々と生徒たちがプレートを受け取り、血を付けている間、俺は皆とは別の意味で不安になっていた。

 きっと俺と同じ意味の不安なやつなど他にはいないだろうな。


「だがよ、ばれずに麻倉さんの力を行使できるのか? 国の城だからこの部屋の中にはそういう専門家がいると思うのだが」

「問題ないさ。美月もまた専門家だ。それにさっき俺が力を解放したが、誰も気づかなかった。恐らくだが、この世界には霊力しかないのかも知れない」

「だが、魔物とかいるんだろう? あいつらは何の力を使っているんだよ」

「こっちも霊力。いや、この世界では霊力は魔力と呼んでいるらしいな」

「なるほど、こっちでは魔力なのか。そういえば西洋ではそう言っていたな」


 志摩は思い出しながら言う。

 さて、そんな話をしている間に俺の出番だ。俺はプレートを受け取り、指に傷つけ、血をプレートに垂らした。

 するとプレートは淡い光を発しながらプレートに文字が刻まれた。


名前:月山 夜弛

性別:男

年齢:18

種ぞ――


「月山、スキルって言っていたが、名前、性別、年齢、種族しか書いていないな。どういうことだ?」


 最後まで読む前に同じく終わった志摩が言う。

 確かに志摩の言うとおりスキルが書いていない。裏側を見るが、何も書いていない。どういうことだ? 説明とは違う。

 考えるならばこれに霊力、おっと魔力だったな、魔力を使うのだろう。


「魔力を使うんだな、おそらく」

「やっぱりか」


 しばらくして皆が言われた作業が終わる。


「終わりましたね。ですが、疑問に思ったことでしょう、そこには私が言ったはずのスキルがないと。それはそのプレートがあなたの身分証明をするものであり、スキルというのは大切なものだからです。スキルは自身の強さを表すと言っても過言ではありません。逆に、スキルの内容次第では弱点が丸分かりということです。そのため、プレート所有者のみ、見れるようになっています。やり方は魔力をプレートに流すことです」


 やはりそうだったか。想像通りだな。


「魔力を流すと言いましたが、皆様はできますでしょうか?」

「いえ、私たちは魔力なんてない世界で生きてきました。やり方が分かりません」


 答えたのはもちろんみんなの主人公である神代である。

 さすがだな。ここですぐさま答えるなんて俺にはできない。他のみんなもここまですぐにはっきりは言えないだろう。

 お願いだ。次は水晶で何かするんだろう? そのときはステータスを表示させないでくれ!

 いや、待て。テンプレだとプレートにステータスが書かれているはずだ。もしかしたらスキルの中にステータスが書いてあるのかもしれない。そう願いたい。

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