#6
【作者より】
ここからは本編である『いじめられて自殺した私が闇医者によって悪役令嬢に転生され、過去の自分を客観的に見る(http://ncode.syosetu.com/n4606cz/)』の第9話の内容をジャスパー先生視点で書いたものです。
台詞は本編と同じものを使っておりますので、あらかじめご了承ください。
これからはこれまでに起きたことを書こうかと思う。
一応、ここは僕みたいな医師や看護師などが存在しているため、異世界のような現実世界のような曖昧な世界なのである。
ある日、突然僕のこと自体知らない謎の女子中学生が僕のところに泣きながら駆け込んできたのだ。
「お嬢さん、何かお悩みですか?」
僕は湯気立つコーヒーが入ったマグカップを片手にその少女に向き合うように問いかける。
「お、お嬢さん!?」
彼女は驚いてしまい、周囲を見回している。
「えぇ。あなたのことですよ?」
そんなことを気にしてもあなたしかいないのだから見回しても意味がないと思うのだが……と思いながら僕は微笑みながら訊く。
「折角なので、何か飲み物でも召し上がっていきますか?」
「ハ、ハイ」
なぜか知らないが、僕は無意識に電子ケトルに入っているお湯の確認をしてしまった。
一応、少女は勝手にではあるが、僕の担当患者とさせていただこう。
「おや? お湯が切れてしまったので、沸かしますね。こちらの椅子に腰を下ろしてください」
「お、お言葉に甘えて……。し、失礼します」
「飲み物は何を召し上がりますか?」
「ココアをお願いします」
「畏まりました。少しお待ちくださいね」
僕は蛇口を捻り、電子ケトルに水道水を注ぎ、電源を入れ、椅子に腰かけた。
「僕から……」
「えっ?」
「まだ、あなたの名前を窺ってないので……」
「ですよね……。は、はじめまして。私は木野 友梨奈です」
「木野 友梨奈さんですね。改めまして、はじめまして。僕はあなたの担当医を務めさせていただくことになったジャスパーと申します。よろしくお願いいたします」
「よ、よろしくお願いします」
僕と彼女、お互いに知らない医師と彼女の関係から担当医と患者という関係となった。
気がついたら電子ケトルのお湯が沸いたらしい。
僕は彼女にココアを振る舞う。
「友梨奈さん、お待たせしました。毒は入っていないので、安心してお飲みくださいね」
「ありがとうございます。いただきます」
「ココアを飲みながらで構いません。1つ質問をしてもいいですか?」
「……?(なんだろう?)」
「では、唐突ではありますが、再度訊きます。悩んでいることはありませんか?」
本当に唐突だと思われたかもしれないけど、今は彼女の悩みとかを話してほしい。
しかしながら、彼女は僕の白衣にココアを噴き出してしまった。
「すみません!」
少女は慌てて制服のポケットからティッシュを取り出す。
「ありがとうございます」
僕は彼女からティッシュを受け取ると、すぐに流し台に向かい、シミ抜きをし始めた。
ある程度、シミにならないくらいまで落としておかないとその部分だけ目立ってしまう。
「先ほどの答えですが、悩んでいることはないです」
少女は僕に向かい合うように答えた。
「本当ですか? あなたはここにきた時には涙が零れていましたが?」
「本当です! ちょっとだけ、目にゴミが入っただけですから」
「そうですか……。また、ご相談したいことがございましたら、いつでもこちらに脚を運んでくださいね」
「ハイ、ありがとうございます。ココア、美味しかったです。ごちそうさまでした」
「いいえ。また、いつでもどうぞ」
なんて、礼儀が正しい少女なんだと僕は思った。
ところが少女はしばらくの間、僕のところに姿を現さなかった。
2016/11/27 本投稿