#38
例の修羅場に入る前にこのような場面が流れてきた。
そこに映っていたのは今までの場面ではチラッと姿を現していたのかもしれないが、僕にとっては見慣れない少女がいる。
「……この少女は誰だ……?」
僕は本当に誰だか分からない状況の中、その少女が元気よく「まひろ!」呼んだ。
先ほどまひろと呼ばれた少女がうどんを啜っていた時に、誤嚥を引き起こす。
「……エリカ!?」
「まひろ! 5時間目の体育、一緒に行こっ?」
結衣達はもちろんのこと、周囲はエリカと呼ばれた少女の声の大きさに驚いていた。
「エリカ達、ごめんね? 今週の移動教室は他の人と一緒に移動するから……」
その声の大きさとはいえ対照的にまひろは小声で謝る。
「もしかして、今日転校してきた野澤さん?」
「うん。本人の希望で学校案内とか頼まれたし……」
「確かに言われてたね……でも……」
僕はもちろんのこと、彼女らも「……でも……」のあとが気になってる。
ここからがその例の修羅場となる場面だ。
「まひろはどんな時でも優しすぎるよ! 木野さんが生きてた時も荒川さんとかと一緒に一緒にいたじゃん!」
「エリカ……」
エリカは声を荒げ、机を叩きつける。
あのー……お嬢さん? あとで手を冷やさなければなりませんよ?
他の学生達の視線が集まる中で「じゃあ、訊くけどさ?」とまだ彼女の発言は続く。
「そんなに木野さんや野澤さんが大切なの? ウチらといてつまらなかったの? ねぇ!?」
エリカは左手で彼女の胸ぐらを掴んだ。
それを見た男子生徒が「止めろよ!」と止めに入ろうとした時、数秒間ほどの沈黙が流れる――――。
「…………エリカも大切な友達だよ」
「えっ!?」
「でも、これだけは言わせて? あたし、結衣さんは転校してきたばかりだから当たり前だけど、木野さんとも仲よくすべきだったと思う。そうだと思わない?」
「……まひろ……?」
「あたしから訊くのも変だけど、エリカは……木野さんをいじめて愉しかったの?」
「…………」
「……答えて……」
「…………」
「……ねぇ……」
「答えてよ!」
「…………」
現段階では彼女は何も答えなかった。
†
この段階で僕はあることに気がついた。
「これは重要なことかもしれない」
僕は机から白紙のカルテを1枚切り取り、自分が思ったことを書きつづる。
1つ目はおそらくエリカとまひろは友人なのではないかと思われる。
しかし、まひろは友梨奈さん達と一緒にいる時間が長くなったからエリカは妬いているのではないか?
2つ目はエリカが中心となって友梨奈さんをいじめようと考えた。
これに関してはエリカとまひろの仲がよくなかったらここまで大きくは……あっ、彼女を通じて一部の調子に乗りやすい男子生徒も一緒になって友梨奈さんをいじめるという考えも例外ではないかもしれない。
3つ目はエリカ達ではない他の誰か。
彼女ら以外とかも疑ってもいいと思われる。
「書けば書くほどキリがないな……」
このことに関して推測できることはまだたくさんある。
「本当ならば、この修羅場の中で行きたくないところではあるが、友梨奈さんのところへ行ってみるか」
僕は友梨奈さんから「ジャスパー先生、しつこいです!」と言われる覚悟で「瞬間移動」を発動させた。
彼女もこの段階で気がついた点をいくつか見つけられるといいのだが――。
2017/08/10 本投稿
※ Next 2017/08/11 0時頃更新予定。




