#30
「瞬間移動」
友梨奈さんがぼんやりと洗面台の鏡に映る彼女の姿を見ている合間に僕は「瞬間移動」を発動させる。
もう少しだけその姿を見て待っていてほしいと願いながら――。
「友梨奈さん」
「先生! よくママや看護師さんに見つからないでここまでこられましたね!」
友梨奈さんはまだ現在の状況を把握できていないようだ。
現段階では僕が「瞬間移動」を使用していることを彼女は知らない。
「実は他の方に見つからないように時間を止めているのです。そのため、看護師さん達をご覧になるとお分かりになりますが……」
「本当だ……時間が止まってるみたいです」
「本当ですよ? そうしないと友梨奈さんに重要なことをお伝えに伺えないので」
実は僕が驚いたのだが、自分では気づかないうちに「時間操作」能力が備わっていたのだ。
簡単に言うと、懐中時計の操作だけで時間を操作することが可能。
ただし、僕ははじめて使う能力のため、便利なのかは定かではない。
相手が遠くにいて、何か重要なことを伝えなければならない時に「瞬間移動」と合わせて使用すると便利かもしれないのだ。
「そうでしたか。重要なことはなんですか?」
「そうです。ところで、今のあなたの姿はいかがですか?」
「凄く可愛い! モデルさんかアイドルみたい!」
「お気に召していただき、嬉しく思います」
友梨奈さんは今の自分の姿を見て嬉しそうな表情を浮かべている。
「あの……「のざわ ゆい」の漢字表記が分からないんですが……」
「すみません。自分の名前の漢字が分からないといろいろと大変ですよね? 友梨奈さんの転生後の名前の漢字表記はこちらです」
僕は「それを伝えにきたのだよ!」と彼女の身体を前後に揺すりたいくらい――――。
白衣のポケットから紙とペンと取り出し、『野澤 結衣』と書き、友梨奈さんに手渡した。
「難しい漢字だと書くことが大変なので、シンプルな名前にさせていただきました。さて、肝心なあなたの性格はですね……」
彼女は目を輝かせながら、僕と視線を合わせようとする。
残念ながら、僕は人と目が合うとすぐに照れてしまうところがあるため、視線を軽く逸らした。
「アレで行きましょう!」
その時、僕は一瞬ニヤリと笑うという少し手遅れな表情を浮かべてしまってる。
「な、なんですか?」
「先ほどからの口調で気がつきませんでした?」
「確かに違和感がありました」
「清楚なのは外見だけです。中身は悪役令嬢で目的を果たしてくださいね? 最後に、これから退院すると思いますが、あなたは野澤 結衣としてどのように学校生活を送りますか?」
「ハイ?」
友梨奈さんはポカンとしたような表情を浮かべている。
僕はおそらく彼女はピンときていないのではないかと察した。
「「自殺する前までの辛い記憶を再生リピートして客観的に見ていくか」それとも、「転校するところから始まって自殺する前までの伏線回収するために客観的に見ていくか」の2択です。よって、バッドエンドになるかハッピーエンドなるかはあなた次第ですので」
その時は冷笑を浮かべていた僕。
友梨奈さんに恐ろしいことを言ってしまったのか心配になったが、言ってしまったあとはもう取り返しがつかない。
それらの選択肢はこれからの展開に左右されることになるが、その答えを見つけるのは彼女次第ということになるから――。
2017/08/02 本投稿
※ Next 2017/08/03 0時頃更新予定。




