#26
酸素マスクや人工呼吸器などの必要な医療器具の設置を終え、友梨奈さんは麻酔によって、完全に眠らされている。
少し大袈裟ではあるが、その姿はまるで、眠れる森の美少女のようだ。
緊迫した空気が流れる手術室。
そのような中で心電図のモニタが規則的に鳴り響く。
「手術を始めます」
僕は他の医師や看護師に告げた。
今回の手術で久しぶりにメスを握ることになるが、失敗は絶対に許されない。
なぜならば、彼女が事前に書いた要望書に沿って別の少女に仕立て上げ、現実世界に戻すため。
これから、「転生手術」が始まろうとしている――。
†
「……メス……」
「ハイ」
僕は彼女の胸部にメスを入れる。
スッと皮膚を裂き、傷口から血が滲んでいく――。
胸骨を開き、新膜切開する。
よしよし、いい感じのペースだ。
僕は涼しい顔で友梨奈さんの本来持っている心臓から「違う人物」の心臓を移植。
その時、全員の視線は心臓に向けられていた。
心臓移植に使われる心臓はドナーを見つけることが大変で、大きさの合う心臓がくるまで待たなければならない。
しかし、残念ながら間に合わず死に至ることがある。
よって、ドナーが見つかるのは運だと思った方がいいのかもしれない。
他の医師や看護師はそれにも関わらず、僕があっさりと心臓ドナーが現れるとは思ってもいなかったらしい。
「先生?」
「心臓の大きさはちょうどいいのですが、きちんと動いてくれるかどうかが心配といったところですね」
「流石です。よく私が言いたかったことがすぐにわかってしまったようで……」
「僕はあくまで勘で言っただけですよ?」
「勘ですか……」
「ええ。胸部の縫合を行います」
「ハイ」
胸部の縫合をし、心臓移植は終了した。
「あれ? 先生、まだ手術を続けるんですか?」
「え、ええ……」
僕は再びメスを握っており、看護師に不審そうな視線で見られていたため、曖昧な答えを言う。
やはり、今までの流れだと「拡張型心筋症」の手術かと思われた。
しかし、この手術は「拡張型心筋症」の手術ではなく、「転生手術」。
心臓の以外にも手を施さなければならないところがまだあるのだ。
さて、次はどこにメスを入れようか……。
彼女の過去の記憶は消したくはないから脳は駄目。
ならば、「同じ身長の女子中学生」と要望書に書いてあったので、外見から作っていこう。
僕は誰も視界に入ってこないマスクの中で口角を上げた。
2017/03/28 本投稿
※ Next 2017/03/30 3時頃予約更新にて更新予定。




