#16
チャイムが完全に鳴り終わり、数分後……。
担任である女性教師が「遅くなってごめんね!」と言いながら教室に駆けつけてきた。
生徒達は慌ただしく自席に着き始めたため、これからショートホームルームが始まるのだろう。
友梨奈さん達は中学生のため、この場合は「ショートホームルーム」ではなく、「朝の学活」が正しい。
また、学校によって呼び方が異なるので、前者の学校があれば、後者の学校もある。
「起立! ――――」
学級委員の男子生徒の号令で朝の学活が始まった。
「みんな、おはよう。今日の6限目の学活だけど、私は急遽、出張に行かないといけないので、代わりに学年主任の田口先生がくるからね。何かあったら田口先生に言ってね」
生徒達は「ハーイ」「分かりました」と素直に返事する。
しかし、担任教師は素直に返事をした彼女らの裏の様子を知らないと思われる。
おそらく彼女の代理の田口という学年主任の教師も――。
「問題が起こらないことを願ってるよ」
担任教師が最後にこう言った時、友梨奈さんは彼女の言葉からどう思ったのだろうか……。
†
朝の学活が終わり、彼女はトイレに行った。
友梨奈さんがトイレから出ようとした時にバシャと音を立て、バケツに入った水が降ってくる。
これは確実にわざとだ。
僕はこう確信した。
「きゃっ! だ、誰!?」
その水によって彼女の髪や制服を濡らす。
おそらく同じクラスの女子生徒達がやったんだろうと思われるが、僕が予想していた手段をやってしまう彼女らが凄い。
おっと、ここで感心してしまっては僕の立場がなくなりそうだ。
「木野さん、制服が濡れてるよ?」
「うわー。こんなところで雨降ったんだ」
「狭い空間なのにね」
彼女らは友梨奈さんを見てとくすくす笑っている。
彼女はその様子を他のクラスの人に見られたくないと思っていたに違いない。
こう思っていたやさき、たまたまトイレに入ってきた他のクラスの友人である2人の女子生徒に見られてしまった。
「……友梨奈……?」
「……友梨奈ちゃん……?」
彼女らは友梨奈さんの名前を呼び、全身ずぶ濡れになった彼女をと他の女子を交互に見ている。
「……早紀、凪……」
「友梨奈ちゃん、大丈夫?」
「あーあ……ずぶ濡れじゃん」
友人は気を遣ったかは分からないが、心配しているように窺えた。
「ヤバッ!」
「他のクラスの人に見られた!」
「早く教室に行こっ!」
それを見たクラスの女子生徒の1人が「木野さんの友達をすべて奪ってやる」と誰にも聞こえないくらいの小声で言い放つと彼女らはそそくさと教室に戻る。
友梨奈さん達は速やかに教室に向かう彼女らを静かに見送った。
2017/02/11 本投稿
※ Next 2017/02/11 6時頃予約更新にて更新予定。