刑部様の決断
「殿、お考え直しください!」
「皆に迷惑はかけられん。……五助、達者で暮らせよ」
刑部様の病が業病と診断された日に、大事件は起きました。
「……小石様はどうなさるつもりですか?」
「私と一緒に居ては外聞が悪かろう」
とっても嫌な予感がしたので、執務室を覗いたら大当たりでした。ええ。机の上に鎮座している紙の束。おそらく女中さん達や家臣さん達の新しい職場の紹介状だよね。
……刑部様の事だからあらかじめ用意してたのかも。
「だからといって、離縁状まで用意しなくとも……」
「業病は移ると聞く。皆には健康でいて欲しいのだ。五助、お主も含めてだ」
刑部様の声が悲痛に響く。
「殿はどうなさるつもりですか?」
五助さんは、ハッとした顔をする。
「……五助は心配性だな」
刑部様の目が笑っていなかった。
「――殿はそれでいいかも知れませんが、私達は納得しませんよ……皆、殿に救われた者達です」
五助さんの数回の説得により、刑部様が最終的に折れたみたい。
――刑部様ってすごく慕われてるのね。一時はどうなる事かと思ったけど、安心したわ。
私はホッと胸を撫で下ろすと、執務室の中に入り、なに食わぬ顔で刑部様の隣に座り込んだのだった。




