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四話 スズカ視点

「――今すぐ消え失せますわ!」

「アンヌ!」


 アンヌが部屋を飛び出してしまい、私は慌てて追いかけようとした。


「待てよ、スズカ! 好きにさせれば良いだろう?」


 この期に及んでまだ、エミリオはふざけたことを言って私を止める。


「ザけんじゃないわよっ!」


 私はエミリオに顔面パンチを喰らわせた。もちろんグーだ。籠手を着けていないのが残念なくらいだ。


「あんたなんかに構ってられないの! どいて!」

「騒がしいわね。どうしたのよ?」

「うっ、スターシア! 君は毒にやられたんじゃ……」


 やっぱり毒なんて嘘だったんだわ。スターシアはすこぶる元気じゃない。


「エミリオ! どういうことよ、説明しなさい!」

「いや、さっきスターシアが食事し終わったところに通りかかったんだ。床に這いつくばって苦しんでいるから何があったのかと聞いたら、アンヌの薬と言うから、てっきりアンヌが毒を盛ったと……」

「勇者様は何を言ってるの? 私はアンヌに薬を使ってもらって治るのに苦しんでるけど、魔法薬の効き目が凄すぎるのはよくあることだから、心配しないでって言ったつもりよ? ほら、見てよ。あれだけ治らなかったアルピーの傷が跡形もなく治ったのよ! アンヌにお礼を言わなきゃね」


 私はすかさずエミリオを睨みつけた。全て誤解だったのだ。

 スターシアの怪我は、本当にあったこともわからないほどきれいさっぱり治っていた。その秘薬をこの馬鹿は……! 秘薬だけならまだしも、アンヌを――私の親友をあんな風に貶めるだなんて、本っ当に許せない!


「ありがとスターシア、ちょっと急ぐからどいて!」


 私は一目散にアンヌの部屋に駆け込んだ。間に合って!


「待ってアンヌ!!」


 庭に立っていたアンヌは、転移魔法の発動光の向こうに姿を消した。遅かった……。そこに追いかけて来たスターシアが現れる。


「ねえ、さっきもらった薬の瓶が砕けてなかった? それにこの空っぽの部屋は? アンヌはどこに居るの?」


 アンヌがどこに居るのかは、私が一番聞きたかった。


「少しずつ説明するわ……あの馬鹿は?」

「勇者様なら、茫然自失って感じでそのまま部屋に居るわ。とりあえずこっちに来たんだけど」

「なら私の部屋に行きましょう」


 部屋に戻ると、エミリオが放心していた。その頬をピシャリと叩いて正気を取り戻させる。


「あっ、スズカ……」

「何か言うことは? いいえ。もう遅すぎる……アンヌが魔法を使って、私たちが追いつけるはずがないわ」

「済まない! どうかしていたんだ……!」


 本当に済まないわよ……こんなこと言う奴だとは思わなかった……。


「ちゃんと私にもわかるように説明してくれない? アンヌは出て行っちゃったの?」

「そうだった。ごめんなさい。……アンヌはあなたのところに行った後、私のところに来て謝罪の印に手作りの薬を渡してくれたの。ベルンに使って欲しいってね。そこに勘違いした馬鹿が現れて、薬の瓶を割ったばかりか、アンヌのことを侮辱したの。まとめると――恋に破れて仲間を毒殺する、男を馬鹿にした名前の不吉な髪の女――って言ったのよ?!」

「嘘! ……いくら何でもそれは酷すぎる。アンヌは奸計や曲がったことが大嫌いだし、髪のことを不吉って言われるのを何より嫌ってたじゃない。しかも名前までなんて――誰に対しても言ってはいけないことの内の一つよ。そんなの、勇者様だってよくわかっているでしょう?」

「ああ……けれどあの時は、スターシアが殺されて、しかもスズカまで危ないと、無我夢中で」

「言い訳しないで! あんたがアンヌに言った言葉はもう取り消せない。どこに行ったのかもわからないのよ?!」


 私は頭を抱えた。アンヌは元々の魔法の才能に加えて、魔力の扱いがすごく上手。これは努力の結果らしいけど、私はアンヌの使える半分も魔法を使いこなせない。

 手がかりになるはずの魔法痕も、混乱の魔法がかけられていてまるで役に立たなかった。万が一居場所がわかっても、アンヌの魔法力なら簡単に同じ規模、つまり国を跨ぐ範囲――の転移魔法をかけられる。

 アンヌの実力はこの冒険で、私の生まれた国の賢者様にも匹敵するものになっていた。どう足掻いても、私たちでは見つけることはできないだろう。

 アンヌがあんなに傷ついてしまうなんて……悔しくてならなかった。直前まで好きだった人にあんなこと言われたら……想像しただけで胸が痛む。だって、私が好きなのは、目の前の馬鹿男だったから。

 私はただただ腹立たしい気持ちでエミリオを睨みつけた。あの告白を受けたことだって後悔するくらいよ。


「こうしていても仕方ないわよね? アンヌを探すの? それとも旅優先?」


 スターシアが一応話しを続けてくれるけど、その旅だって困難になる。アンヌが居ないまま、魔王討伐に行かないといけないってことは手がかりがないってことだ。


「何々~、みんな集まって私だけ仲間外れ? って暗! 何この重苦しい空気」


 部屋の入り口から顔を出したのはニニラだった。肌が浅黒い健康的な森の少女

らしい、明るい子だ。ほんとは一番年上なんだけど森の民特有の体質で、成長がゆっくりで長命なの。


「ニニラ……アンヌがエミリオのせいで出て行ったの。どこに行ったのかもわからない。これからどうしようかって話しをしていたとこ」

「え~! アンヌ出て行っちゃったの~? 困るじゃん。魔王の魔法痕わかんないじゃん!」


 そうなのだ。それまででたらめに旅をしていたエミリオたちは、魔法痕がわかるからという理由で最初アンヌを仲間にした。魔王の魔法痕が表れた場所を巡って、旅の指針としていたのだ。だから私も、魔王討伐に一番近いのはこのパーティーに入ることだと思って参加したくらい。

 エミリオは無邪気なニニラの言葉を聞いて更に落ち込んだ。うっとうしい男。いっそ私が地面にめり込ませてやろうかしら。


「今日のところはこれ以上話しても無駄じゃないかしら? 勇者様もスズカも冷静になって、これからどうするかは明日決めましょう?」


 私の殺気を感じてか、スターシアはこの場の解散を提案する。彼女のように冷静な人が居てくれて助かるわ。


「そうだね。そうしないと、そこの馬鹿を叩きのめしたくなっていけない。頭を冷やすことにする」

「異存は無い」


 エミリオとスターシアは私の部屋から出て行った。ニニラはというと聞きたいことがある、と顔に書いてあった。そして問われるままに、スターシアにしたのと同じ説明をニニラにもする。


「その暴言はエムでも許せないかも……エムって言わないだけで、私やスタアにも実はそんな風に感じてるのかな? って思うし……ずっと優しい人だと思ってたのに幻滅だな」


 ニニラはエミリオのことをエム、スターシアのことをスタアと縮めて呼ぶ。私はそのままなんだけどね。アントワーヌをアンヌというニックネームで呼び出したのも、ニニラが最初だったらしい。


「途中で、それ以上言ったら許さないって止めても聞かなかった。最低よ」

「それじゃあ困っちゃったね~。他に魔王の魔法痕がわかるような魔法使いって居ないかな?」

「前にも言ったと思うけど、私は発生源がわからない魔法の魔法痕までは認識できない。他の魔法使いでそんなことができそうなのは、私が知っている限りだと賢者様くらいだけど、賢者様は高齢で旅は無理だし、魔法痕を教えてもらうにしても、長距離の魔法通信は無理だから効率が悪すぎるんだ。まだでたらめに進んだ方がましじゃないかな」

「うーん、何か考えないとだね。教えてくれてありがと、スズカ。また明日ね」

「また明日。ニニラ」


 手を振って別れると、ベッドに背中を預けた。

 今はアンヌが心配だった。アンヌの実力なら魔物だろうが魔族だろうが問題にはしないけれど、心は違う。

 エミリオがあんな奴だなんて思わなかった。馬鹿だけどまっすぐで、子供っぽいところもある。

 昨日までの姿を思い出すと、やっぱり好きなんだとわかってしまう。私ってダメだ……。

 夢中だったなんて言い訳も酷いけど、謝ったって赦されないよ! アンヌに酷いことを言った償いは絶対してもらうから!


魔法使いアンヌ は勇者の暴言に傷つきパーティを脱退した…。

勇者エミリオ は心身こう弱を主張した!

魔法剣士スズカ の好感度に99のダメージ!


アンヌ→エミリオ

関係:復讐の標的 好感度:-100 状態:失恋→憎悪


スズカ→エミリオ

関係:恋人 好感度:+201 状態:大好き 軽蔑


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