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三十八話 ショウユ視点

 今日もヴァーミナス様はほんのちょっとしか居てくれなかった。どうして? アントワーヌの何がそんなに良いってのよ?

 これはもう、アントワーヌに直接喧嘩を売りに行くしかないのかしら?

 それにパティは何をしてるのよ。あんな切り札を持ってるんだから、さっさとアントワーヌに教えてヴァーミナスを嫌わせれば良いのに! そんなことを躊躇う奴じゃないし、どうして一向に報告に来ないの?


「もうここ、出ちゃおっかな~」


 ってヴァーミナスにも言ってるのに全然注意を払ってくれないの。退屈やイライラは美容に良くないのに。


「お久しぶり、ショウユ。ご機嫌斜めだね?」

「パティじゃないの! いきなり来るなんて、ショウユは良い知らせを期待してるわよ?」


 目の前に突然転移して来たパティだけど、他の奴がこんな無礼で危ないことしたらぶっ殺したくなるわ。一応許してあげるけどね。

 アントワーヌがヴァーミナスに愛想を尽かして地上に帰ったとか、勇者が死んで和平が消えた、とかそのくらいのニュースがあって然るべきだわ。


「いや、いきなりごめんね。なんか警戒が厳しくてさ。僕にとって良いことならあったんだけど……ショウユに悪い知らせがあって来たんだ」

「何よそれ! アントワーヌにまだあれは教えてないの? 悪い知らせって?」

「まあ一個ずつね。アンヌ様なら、ディマンテレイアには気づかれたよ」

「で? どうなったの?」

「んー、ヴァーミナスへの好感度は悪くなってるはずだけど、今のところ何も……多分、アンヌ様がヴァーミナスに直接会ってないのと、寄生されてるままだからじゃないの?」

「じゃあヴァンスはショウユとの約束は守ってくれてるのね……それは良い知らせだわ」


 少しましになった気分だけど、待って、悪い知らせがあるのよね? すぐにパティと目を合わせて、続きを促した。


「悪い知らせが気になるの? 当たり前か。君の領地の民がね、全員拘留されたよ。ショウユが和平を拗らせたから」


 領民が全員拘留された? ハア? そんなこと、誰が……。


「まさかそれ、アントワーヌの差し金じゃないでしょうね?!」

「おや鋭い。そうだよ、名目は思想犯の君の影響を受けている危険があるから、だって。民への扱いは酷くないけど、拘留の範囲を超えて拘束されたら、常識で考えて君の領地は酷いことになる」

「何なのよそれ……どうしてアントワーヌが、ショウユにそんなことすんの?!」


 ちょっと名前を借りて喧嘩売っただけでしょ? 民の生活ボロボロにされるくらいのこと?!


「あのねえ、ショウユ。君には地上の事情はわからないかもしれないけど、君のしたことで本当に大変な事態に陥ったんだよ? アンヌ様の打った手は、君への警告だろう。“これ以上おかしくしたら領地がどうなっても良いのか”って」

「生意気なのよ、人間の癖に!! ヴァーミナスの寵愛を受けて図に乗ってんじゃないわよ! パティ、しばらくショウユの土地を見回ってくれないかしら? ショウユがアントワーヌを殺してくるまでで良いの」

「良いよ、でもアンヌ様を殺すのは無理だと思うな、君よりアンヌ様の方が強い」


 パティともあろう者が、ショウユの強さを侮るような台詞を吐くなんてね……聞き捨てならないわ。


「あーら、惚れると実力まで贔屓しちゃうのかしら、困った子ね。それともアントワーヌを殺して欲しくないの? 眷属にしてあなたのお人形にしてあげても良いのよ?」


 笑いながら魔力を練って、パティに殺気をぶつけた。意味は――喧嘩売ってるなら、買うわよ? ってとこかしら。フフフ。


「んもうヤダな、ショウユ。僕の忠告が聞けないの? 別に君が死んでも僕は死なないよ?」


 あなたが死んでも自分は死なない。これは古くから使われる言い回しで、この忠告を聞かないで敵に挑んだ者は実際に死んでいる者ばかり……。


「本気で言ってるのね」

「うん。アンヌ様と驕ってる今のショウユが戦ったら、ショウユは負ける」


 これは、考え直さないといけないわね……。


「そう……ご忠告ありがとうパティ。やっぱりあなたはショウユの一番のお友達ね」

「もちろんだよ。僕は可愛いショウユには弱いんだ」

「ふーん。じゃあ、ショウユがアントワーヌに会いに行っても怒らない?」

「僕はね。ヴァーミナスは怒るだろうけど」


 問題はそこなのよね……偶然を装えない状況になっちゃってるし……。


「ねえパティ、何かショウユの望み通りになるようなステキなアイデアはないかしら?」

「ふふ、実はあるんだ。ちょっとこっちに来て……ショウユ」


 パティに耳を寄せると小さな声でしっかりと計画が伝わってくる。――あら、ちょっと面白そうね。


「その話、もっと詳しく聞かせて欲しいわ。喉は渇かない? お酒はいかが?」

「ありがとう、じゃあとびっきりメロウなワインをもらえるかな?」


 ショウユは魔力を飛ばして使用人にワインの用意を言いつけると、パティとお話をしてその日の退屈を紛らわせた。

 上手くいけば、ショウユもパティも幸せになれる――素晴らしいアイデアを煮詰めて。


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