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Stage.5




 色々と寄り道をしながら、俺とレオはグランメイスの街中を歩く。

 グランメイスの特徴の1つに、"街中を走る運河"がある。

 俺が元いた世界で雰囲気が似ている街といえば、アムステルダムとかヴェネツィアとかがそんな感じだ。ゴンドラも浮いているし、もちろん小船だってある。海が近いから、そこから大陸内へと運河が走っているのだ。おかげで交通の便はいいし、物流の効率にも一役買っている。

 一家に一ゴンドラ、とまではいかないが、このグランメイスで暮らしている人々の中には、個人のゴンドラを所有しているところも珍しくない。


「ロウ。あれ、乗りたい」


 さっそくレオが水路を走るゴンドラに目をつけたらしい。


「ああ、ゴンドラ? それならウチにもあるから、後で一緒に乗ろうか」

「うん」


 嬉しそうに頷くレオを見て、俺も心が温かくなる。

 レオは今でこそこうやって嬉の表情を見せてくれるが、最初は全然笑ってくれなかった。いつもいつも暗い雰囲気で、言葉もほとんど発しなかった程だ。

 そんなレオが笑ってくれる。それだけであの場所から連れだした意味があったのだと、そう思わずにはいられない。


「ここ……一面人だらけ」

「だろ? ここらは青空市場もあって活気があるんだ。いわゆるグランメイスのメインストリート街ってとこだな。まあ、残念ながら俺の実家は辺境にあるからこの辺と違って田舎っぽいけど」

「そっちのほうがいい。私はこういう騒がしいの、苦手」

「はは、そういえばそうだったよな」


 レオが元々いた村も、田舎だった。

 レオは口数も少なく、表情の変化も乏しいので、コミュニケーション能力は中々に壊滅的だ。そんな彼女だから、人の少ない土地の方が馴染みやすいかもしれない。

 それから、しばらく街中を歩いた。

 辺りから、【災厄の魔獣】が倒されたことを喜ぶ声が耳に入ってきたりもしたが、俺もレオも、特に関わらずに素通りしていく。自分達が倒しました、と言いふらして歩くのはバカっぽいし、何より信じてもらえるはずがない。そもそも、自慢したくて倒したわけでもないからな。


「静かになってきた」

「ここらはアルベント通りっていってな。賑やかな市街を抜けたんだ。だいぶ田舎になってきただろ?」

「うん。さっきのとこと違って、うるさくなくていい」

「お気に召したのなら幸いだ」


 馬車を使わずに歩いたのでまあまあ時間がかかったが、ようやく俺の実家がある田舎風な区画、通称アルベント通りにまで辿り着いた。中央広場の活気と比べると落ちついた雰囲気の場所だが、俺はここがとても気に入っている。

 さらに歩くこと数十分。

 いよいよ景色は田舎一色に染まり出す。


「そろそろだよ」


 見覚えのある家々。

 煙突から立ち上る煙が見えれば、そこには俺の実家であり、技巧創作士クラフターであるじーさんのアトリエでもある建物があるはずだ。

 ――だが。

 いつも立ち上っているはずの煙が今日は煙突から出ていなかった。まさかお昼の仕事まっしぐらの時間に、じーさんが作業していないなんて考えられない。

 俺はどこか不穏な空気を感じつつ、実家であるアトリエブランの近くにまで足早に向かった。

 しかし、そこにあったのはいつもの穏やかな空気ではなく、やけに騒がしいものだった。見知らぬ人々が玄関の前に集まっている。いや、集まっているというよりかは詰め寄っていると言った方が正しいか。どちらにせよ、明らかにただ事ではない。


「秘術のレシピを寄越せ!」

「そうだそうだ! もうこの場所には必要のないものだろう!!」

自動機械人形オートマタ風情が! さっさと開けろ!」


 騒ぎ立てる男達。

 見ると、皆技巧創作士クラフターのような出で立ちであった。


「……レオ、ちょっとここで待っててくれ」


 そう俺が頼むと、レオはコクリと首肯した。

 緊急事態だと感じ取った俺は、すぐさま現場に急行する。


「なあ、ちょっといいかな」


 俺は近くにいた技巧創作士クラフターに話しかけた。


「なんだお前は。お前も秘術を狙ってきたのか」

「そういうわけじゃないんだけど。あなた達がどうしてこのアトリエに群がってるのかをききたくてさ。教えてくれない?」

「はん! 貴様のような若造には関係のない話だ! 技巧創作士クラフターでもないのならなおさらな!」

「ま、まあまあまあ、そこをなんとか」

「いいから帰った帰った!」


 男は聞く耳持たずのようだ。

 これ以上はきいても教えてくれなさそうなので、大人しく距離を置く。


「――秘術とか言ってたし、わかったのは技巧創作士クラフター絡みってことだけか……。それも、じーさん関係なら当然だろうけど……」

 

 レオの元に戻ってきた俺は、どうしたものかと思考を巡らせた。

 あの状況じゃ、玄関からの進入は困難だ。だが、幸いウチにはもう1つ裏手に玄関がある。ゴンドラを使えば、水路から回り込む事が出来るのだ。


「レオ。ちょっと早くなったけど、ゴンドラに乗ろうか」

「……回り込むの?」

「はは、正解」


 相変わらず察しの良いレオに気が楽になるのを感じる。余計な気を使わなくていいというのは、とてもありがたいことだ。


「近くにゴンドラの貸し出し場がある。そこから行こう」

「わかった」


 家の中は大丈夫なのか心配しつつも、俺はゴンドラを借りるべく貸し出し場へと向かうことにした。

 そして、歩くこと数分。

 ゴンドラの貸し出し場に着いた俺達はさっそくゴンドラを借りて水路に出た。

 オールを漕ぐのはもちろん俺だ。こういった力仕事を女の子にさせるわけにもいかないからな。


「――風、気持ちいい」

「そうだね。ここらは中央区画と違って見晴らしもいいし、特に気持ちがいいんだよ」

「手、きつくない? 変わる?」

「はは、大丈夫だよ。それに、オールを漕ぐのって結構難しいからさ。レオは触ったこともないだろう?」

「うん」

「なら、多分最初は上手くいかないと思うよ。まあ、レオがオールを漕いでみたいっていうのなら代わるけど」

「してみたいけど……今はいい。急いでロウの家に行かないと、だから」

「……だね」


 レオの気配りに感謝しつつ、俺は急ぎオールを漕ぐ。

 結果、問題なく家の裏手に回り込めた。が、問題はこちらの玄関が開いているかどうかだ。いつもは閉めているので、じーさんが家にいなければ最悪中に入れないことも考えられる。


「よっ、と。レオ、大丈夫?」

「問題ない」


 俺に続き、身軽な動きで陸地に上がるレオ。

 獣人族の彼女にはいらぬ心配だったようだ。


「じーさん! 俺だ! 開けてくれ!」


 裏口の前で叫ぶが、反応はない。

 煙突から煙は出ていなかったから、作業をしているとは思えない。なら、熱中して外からの声に気づかないとは考えづらい。


「留守なのか……?」

「ううん。中に誰かいる。でも、なんだか変」

「気配は1人だけか?」

「1人だけ。他にはいないと思う」

「そうか。なら中にエリスがいるのかもしれない」


 レオが気配を"変"というのは、エリスが人間ではなく自動機械人形オートマタだからだろう。

 だが、エリスだけ家にいるのは珍しい。いつもじーさんは出掛ける時エリスを同行させていた。歳だったし、何かと不便だったみたいだから、出掛ける時はエリスに色々と手助けしてもらっていたはずなのに。 

 

「エリス! 俺だ! ロウだ! いるのなら裏手の方を開けてくれ!」


 と、俺が叫ぶこと数秒。

 ドタドタドタと足音が近づいてくる。

 勢いよく目の前の扉が開け放たれ、中からエリスが現れた。

 綺麗な宝石のような瞳。サラサラの銀髪。そしてじーさんの趣味であるメイド服。自動機械人形オートマタであるエリスが、出てきて早々すがる様な表情で口を開く。


「――ロウ様! ああ、ロウ様が帰ってきてくださいました……!」

「はは、ただいま。色々と話したいこともあるけど、まずは中に入れてもらってもいいかな」

「はい、もちろんです! さあ、どうぞ中へ。――あ、そちらの方は?」

「ああ。レオは俺の仲間だから大丈夫だよ。心配ない」

「そうなんですね。これはまた随分と可愛らしい……」

「その説明も後でゆっくりするよ。だから今は――」


 向こうの、正面玄関の方から聞こえてくる騒々しい連中をどうにかするのが先だろう。


「そうですね。すみません、なんだかロウ様に気を使わせてしまったみたいで。では、中へどうぞ」


 エリスに誘われ、実家のにおいを久々に感じるのだった。 


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