Stage.3
王都セントアルを出て6日が経った。
要所要所で小さな村の宿に泊まり、馬車で目的地へと向かう日々。
だが、順調だった旅も、ここにきて波乱が生じた。
時刻は夕暮れ時。山賊やら盗賊やらモンスターやらが活発に動き始める時間帯だ。
「――っ!?」
唐突に鳴り響く馬車の車輪の軋み音。
元々速度は出ていなかったからか、急ブレーキをかけた馬車が即座に停車する。
「――っと、大丈夫か?」
「私は平気。それより」
「ああ。どうやら賊が出たみたいだな」
ベタなもので、俺とレオが乗る馬車は盗賊団に止められているらしい。
一応護衛という形でもう一台の馬車にはニルスの部下である王国騎士団の方が2人いてくれてはいるが、さて――。
「……って、コイツはまた……」
窓から外を見ると、ものの見事に囲まれていた。うとうとしていたとはいえ油断した。さすがに俺も気が抜けていたらしい。
そこら辺の雑魚盗賊集団ではないようだ。しっかりと統率がとれている。おそらくは、優秀な頭が存在するのだろう。
「見たところネハレニア王国の騎士団だな。その後ろの馬車には誰が乗ってんだ?」
賊の1人がナイフを片手に聞いてくる。
だが、馬車から下りた護衛の騎士団の2人は、剣を抜きながら反抗の動きを見せた。
「たかだか賊風情が調子に乗るなよ。我々は誇り高き王国騎士団。貴様らのような低俗な輩に応える言葉など持たん」
「へえ。状況をわかってねぇみたいだな。言っておくが、てめぇらはもう完全に包囲されてんだぜ。それでもやろうってのかい」
「当然だ! 賊など我ら2人だけで充分! かかってくるがいい!」
啖呵を切る騎士団の兵士。
だが、敵の言う通り、彼らは状況をわかっていないようだ。
俺達の馬車は完全に包囲され、逃げ場が無い。それに、相手は多勢。一騎当千の猛者ならば問題はないだろうが、ニルス曰く彼らは新米騎士だということだった。残念ながら状況を把握出来ていないだけではなく、2人は自らの力量も計れていないらしい。
「……ロウ」
「わかってる。このまま2人が戦っても、間違いなく殺されるのがオチだろうからね」
「だったら」
「ああ。2人はニルスの部下だし、こんなとこで死なせやしないさ」
俺は言いつつ、愛用の刀を手にした。
「刀、一本でいいの?」
「ま、あの程度なら問題ないよ」
「私はどうする?」
「馬車の中で待機。もしやばくなったら御者を守ってやってくれ」
「わかった」
「ん。じゃあ、行ってくる」
最後にレオのふわふわの頭を撫で、俺はよっこらせっと馬車から下りた。
「ろ、ロウ様!? 危険です! お戻りください!」
護衛騎士の1人が俺に注意を促す。
戻るのは君の方だよ、と、言いはしない。彼らの仕事は俺の護衛。正常な行動だ。
「ほう、武器を持って下りてくるとは。度胸のある貴族様だ」
「貴族? ああ、俺のこと?」
賊はどうやら俺のことを貴族だと勘違いしているらしい。
まあ、護衛をつけていたし、間違われていたとしてもおかしくないか。
「じゃあさ、貴族の俺に免じて、ここは退いてくれない?」
「は! バカか! 貴族というのなら尚更好都合だわ!」
「あ、やっぱり?」
ですよねー。
こうなることはまあ、わかっていたけどさ。
「てことは、俺を誘拐でもして、身代金でも取るつもり? それとも、俺から金目の物を奪い取ってポイ?」
「そんなもの、テメェを捕らえてから決めればいいことだ! やれ!」
「――! っと、いきなり危ないな」
賊の後方にいた魔術師から炎球が飛んできた。
攻撃自体はギリギリのところで頭を動かして回避した。背後の木の幹に穴が開いてしまったところを見るに、威力もそこそこありそうだ。
お仲間に魔術師がいることにも驚きだが、あの距離から正確に魔術を放てることにも感心した。やはりそこら辺の雑魚ではないらしい。
「ん~、久しぶりに良い運動が出来そうだ」
鞘から刀を抜き放ち、俺は自然体になる。
敵の総数は目視で約15。馬車を守る簡易結界を張ってから戦えば、被害もほとんど出さずにいけるだろう。
「さて、やりますか」
「余裕ぶっこいてんじゃねえよ貴族の分際でよぉ!!」
「気負わないでいるって言って欲しいね」
って、意味的にあんまり変わらないか。
「ロウ様! ここは我らにお任せ下さい!」
「そうです! ロウ様の護衛は我らです! 第一、お1人で相手に出来る数ではありません!」
「いいっていいって、彼らの相手は俺に任せてよ。それにさ。ニルスから聞いてると思うけど、一応俺って――」
言いつつ、領域の選択を終え、簡易的な防護結界を馬車周辺にドーム状にして張り巡らせる。
これで準備は整った。万が一馬車の方に魔術が飛んでいっても、超火力でなければ破られはしないだろうから問題ない。
「――【災厄の魔獣】を倒した"英雄"ってことになってるらしいよ?」
――戦闘が、始まる。