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Stage.2




 整備された街道を馬車が進む。

 目指すは俺の故郷である商工都市グランメイスだ。

 道行く馬車は二台。一つは俺とレオが乗る馬車。もう1つは護衛騎士が乗っている馬車だ。

 そんな中、俺とレオは、馬車の中でまったりと午後のひと時を楽しんでいた。


「……むにゃ」

「はは、さすがのレオでも無防備に寝ちゃってるなぁ」


 過酷な環境で育ってきたレオだが、それでも午後の睡魔には勝てなかったらしい。


「ふわぁ……。ああ、俺もだいぶきてるな」


 俺の膝を枕にして、狐のような尻尾をぐったりさせて気持ちよさそうに寝ているレオを眺めていると、自然と欠伸が出てきた。

 前世の俺なら、午後のこの時間帯は社畜まっしぐらな時間だ。

 思えば、こちらの世界での年齢が、転生する前の年齢に近づいてきている。

 そう、あの思いだすだけで嫌になるクソッタレな日々。社会の歯車の1つになり、延々と働き続けるだけの毎日。休みが少ない。勤務時間が長い。学生時代からの趣味なんて全て捨て去った。

 人が生きていく上で、生きがいというものは重要なファクターだと俺は思う。何をするにしても、生きがいがなければつまらない。仕事を生きがいにできる人間なんて、ごく一部の変人だけだ。大多数は嫌々ながらも世間体や金のために働いている。

 せめて休みが多ければと思うが、そもそも日本人は勤勉でクソマジメな人種だ。「残業とかクソ喰らえ、外国を見習え。労基仕事しろ」。俺の口癖である。

 だから、俺をこの世界に導いてくれた神様には少なくとも感謝はしている。前世よりか遥かに有意義な暮らしが出来ているんだから。


「じーさん、元気にしてるかな」


 赤ん坊だった俺を育ててくれた親であり恩師でもある人物。名前はベイセル・ブラン。通称じーさん。なんでじーさんかというと、単純に見た目がじーさんだからだ。歳も、そろそろ80近くなるんじゃないだろうか。正確には知らないが。

 俺はこの世界に来た時、赤ん坊の姿でとある教会に捨てられていた。そんな俺を拾って育ててくれたのがじーさんだったのだ。

 じーさんは技巧創作士クラフターと呼ばれる、様々な武具や道具を造り上げる職人で、腕前もかなりのものだった。小さい頃から剣の鍛錬と共に創作の修行もしていたから、俺自身も技巧創作クラフトはそこそこの能力を持っている。

 そして、俺は幼いころから夢があった。

 無論、この世界に来てから生まれた俺自身の夢だ。

 それは、じーさんのような立派な技巧創作士クラフターになること。元々、武芸者を目指していたわけでもネハレニアで英雄になりたかったわけでもない。俺はただ、じーさんのような技巧創作士クラフターになって、色んな人の役に立ちたかった。【災厄の魔獣】討伐の旅は、いわば通過点にすぎない。決して終着点ではない。

 まあ、この旅は通過点ではあったけど、おかげでたくさんの経験と、最高の仲間に出会えた。俺のセカンドライフにおいてこの旅は無駄じゃなかった。その点に関してはネハレニア王に感謝だ。


「……ロウ」

「っと、起こしちゃったか」

「ううん。ロウがなんだか、嬉しそうだったから」

「そう見える? 久々に故郷に戻るから、少なからずわくわくはしてるけど」

「私も、ロウの故郷見てみたい」

「はは、あと3日くらいでつくよ。それまではゆっくり馬車の旅を楽しもうか」

「うん」


 頷くレオ。

 俺に頭を預けたまま、レオの尻尾がパタパタと揺れる。

 気持ちいいのだろう。気温もお昼寝に最適なくらいだし。昼食も食べたあとだから、尚更だ。


「……なあ、レオ」

「なに?」

「お願いがあるんだけど。尻尾、触ってもいい?」

「……いいよ」


 特に気にする風も無く、レオは承諾してくれた。

 しかも、どうぞ、と言わんばかりにこちらへ尻尾を向けてくれるサービス精神旺盛な対応だ。


「ありがとう。てなわけで、もふもふもふ~」


 わしゃわしゃとレオの尻尾をもふもふする。

 もふもふって素晴らしい。こんなことなら、前世で狐を飼えばよかった。だって、世界はこんなにももふもふで満ち溢れているのだ。だから示さなければならない。世界はこんなにももふもふだということを。

 てか、もふもふって名詞なのか動詞なのかわからないな。まあ、どっちでもいいか。気持ちよければ全てよしだ。


「あ~、たまらないなこれ。病みつきになりそうだ」

「……もうなってる」

「あ、ばれた? 寝る時とか、レオの尻尾があればすっごい安眠できそうだよ」

「じゃあ、一緒に寝る?」

「それいいな! ……じゃないっ。女の子がそんなこと気軽に言っちゃダメだぞっ」


 つい本音で応えてしまったが、すぐに主張を反転させる。

 

「私は別に、ロウとなら構わない。むしろどんとこい」


 真顔でそんなことを言うもんだから、さすがの俺もたじろぐ。

 そりゃ、レオと一緒にベッドインすれば、最高の夜……ってこれじゃ危ない匂いがするな。そういうことじゃなくて、違う意味で気持ちがいいだろう。でも、俺は男でレオは女だ。気軽に一緒に寝ていいもんじゃない。


「申し出は嬉しいけどなー」


 今度はレオの頭をわしゃわしゃしてやる。

 こちらも耳のおかげで、気持ちよさが3割増しだ。


「俺だからまだいいけど、他人に無防備な発言は控えるんだぞ。ただでさえレオは可愛いんだからさ」

「……む」


 何故だか頬を膨らませるレオ。そんな仕草も、非常に可愛らしくてちっとも嫌な気分にならない。


「……過保護」

「過保護だよ俺は。それでレオを守れるんなら、いくらでも過保護になってやるさ」

「……ロリコン?」

「ぐふっ。あのなぁ……」


 確かにレオの外見は幼い。10歳くらいにしか見えない。獣人族だから、若い姿の時期が長いのだ。といっても、確かレオの年齢は18やそこらだったような気もするが。


「……冗談。ロウは、お人好しだから」

「まあ、ロリコンよりかはそっちの方がマシか」


 ロリコンの烙印は勘弁してほしいところである。


「それじゃあ、私はもう一度寝るから」

「おう。おやすみ」

「ん」


 再び瞼を閉じるレオ。

 平和な午後のひと時。

 馬車の揺れを心地良く感じながら、俺はこれから向かう故郷に想いを馳せるのだった。 

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