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三題噺集

カメラ少女

作者: シュウ

夜な夜な外に出て、暗い世界をカメラのフラッシュで照らしてはパシャパシャと撮っていく。

これが私の日課だ。

普段は一眼レフのデジカメを持って暗い夜道をフラフラと歩いてパシャパシャ。

時には三脚を持って自転車に跨って遠くまで出かけたりしている。

夜に出歩くのが癖になっているといえばその通りなのだが、私はただの不眠症だ。とは言っても、不眠症って元々病気なんだから睡眠薬でも使って寝たほうがいいんだろうけど、もうこの夜の撮影会を始めてしまってからは、夜に寝るのが惜しくて惜しくてたまらなくなっている自分がいた。不眠症には感謝すらしている。

でも生活リズムが崩れてしまっているせいか、学校の授業中とかはよく寝てしまう。

それでも夜のこの行動を、撮りたいと思う衝動を抑えられないのは、仕方のない事なんだと割り切っている。

私の部屋の中には、撮ってきた写真で、うまく撮れた物を壁に貼ったりしては、壁のスペースを次々と埋めてしまっている。夜撮る時でも、その時の天気や明るさによっては、全然違う写真が撮れる時がある。だからカメラはやめられない。

今日はあっちへ行こう。明日はあっちへ行こう。

そんなことを考えながら、パソコンで印刷した近所の地図に、色鉛筆でマーキングをしては、夜な夜な出かけているというわけだ。


しかし、私の親はそんなことをよくは思っていないみたいで、睡眠薬を飲むように勧めてきたり、『危ないから』という理由で夜の外出を許してくれない時なんかもあった。

その度に私は文句を言っては、カメラを持って家を抜け出しているのだが、言ってから外へと出たあとに、親も私のことを心配して言ってくれているのだということを考えては、複雑な気分になる。

私の親は『限られた時間の中で、好きなことを見つけるのが人生だ』と、幼い頃から言っていた。

私だって寝れないからこその趣味というか好きなことを見つけたわけであって、親に反抗する気はない。

でも結果、親に反抗していることになるんだろう。

どうしたらいいかはわからない。

今は目の前に広がるその世界を、このカメラに収めることだけに集中した。




ふと目覚めると、明るかった。

その明るさから、学校の自分の席なのだと思ったが、自宅の自室の机の上だということがすぐに分かった。目の前にカメラがあったから。学校にカメラは持って行っていない。

きっと学校へ行く前に、机の椅子で寝てしまったのだろう。不眠症のせいか、突然眠くなることはよくあった。だから今回もそれだと思った。

目の前にカメラがある。

思わず電源を入れて、そこに映る部屋を一枚撮ってみた。

すると、夜とは違う自分の部屋が映し出されて、明るくて、影があって、夜の蛍光灯だけで映し出される世界とは全然違う世界が広がっていた。

私は思わず声を漏らしてしまった。

そして、そのままサボることになってしまった学校の制服のまま外へと飛び出し、玄関先でカメラを覗いてみた。

カメラは、オートで遮光やら明度やらを調節してくれる機能がついていて、なにも調節をしなくても丁度いい具合で写真を撮ることができた。

私は、その写真に映し出された景色に目を丸くし、部屋の中へと戻った。

そしていつも夜の外出時に持って行っている地図を手に取ると、着替えもせず、カメラと地図だけを持って外へとまた飛び出した。

私は地図に色鉛筆で記された場所へと趣き、時間が許す限り、移動しては撮影してを繰り返した。




それからというもの、私は学校へ行くことは日に日に少なくなり、夜も睡眠薬を飲んで寝るようになり、その眠りから覚めてはカメラを手にとって、色々な所へと写真を取りに行くようになった。

その時に使っていた地図には、もう書ききれないほどの文字が書き込まれており、近所では有名なカメラ少女として知れ渡っていたのだった。





おしまい。

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