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 自分の部屋に帰ってきた彼は、さっそく買ってきた麦茶を一口飲んだ。一人暮らしのため親戚からの仕送りで生活しているため、部屋にはパソコン以外の高級品は一切置かれていない。もっとも、彼は仕送りをしてくる人達を決して親戚だなどと認めてはいないが。

 普段ならば帰って早々にパソコンを起動させる彼だが、何故か今日はそうはしなかった。未だに、先ほどの少女のことが気になっているのだ。といっても、彼は別に彼女に興味を持ったわけではない。そもそも、彼が人に興味を持つことなど、全くと言っていいほど無い。

彼は、彼女の着ていた、あの数日間ずっと着ていたかのようなよれよれのTシャツや短パン、そして彼女から漂う腐臭についての謎に、ある程度の関心を持ったのだ。そこで今彼はこの様に、ベッドに横たわり、枕に顔をうずめてその謎について憶測しているのだ。しかしもちろん答えが出るわけもなく、数十分ほどが過ぎた。

 深夜、真っ暗な部屋で、彼はベッドから起き上がった。どうやら寝てしまっていたらしい。

「ネットやる時間、無駄になったなあ…」

 と呟きながらベッドから立ち上がると、開けっ放しになっていた窓から夜空が見えた。彼はゆっくりとした足取りで、窓に歩み寄った。

「綺麗だ……」

 彼は思わず呟いた。

彼は、空が好きだった。彼は、いつの、どんな空でも好きだった。透き通るような蒼も、吸い込まれそうな黒も、色々な模様を見せる灰色も、鮮やかな朱も、好きだった。だからこそ彼は、東京の星一つ見えない夜空を見て、自分が呟いたことにも気づかずにその景色に魅入っているのだ。

 しばらくして、彼は気付いた。数軒先の大きな家の、一部屋の電気が点いていることに。彼はそばに置いてある時計を見るが、既に時刻は二時半。とても電気が点いていることが正常な時刻ではない。

 彼は興ざめした様子で、またベッドに倒れこんだ。どうせ夜遅くまで仕事でもしてるんだろう、こんな熱いのによくやるな、と思いながら天井を眺めた。何も考えずに夜空を見つめることを遮られた彼は、再びいつもの無気力無関心に戻っていた。


 数日後。彼は今日もパソコンの前に座っている。そもそも、この数日間部屋から出てすらいない。

 しかし、起きている間ずっとパソコンを操作しているのは流石に目が疲れるのか、時折窓から見える外の風景に目を向けている。彼の部屋は三階のため、外の景色は割とよく見える。

 そして正午頃、彼がちらりと視線を走らせた先でこちらを見ていたのは、数日前スーパーマーケットで彼に謝罪をしてきた、あの少女だった。

 彼は、はっと息を飲んだ。彼女も、動揺したらしく、持っていたビニール袋を落とした。彼女はそれを素早く拾い上げ、早歩きを始めた。

 彼は、小さな溜息を吐いた。せっかく彼女のことを忘れていたのに、思い出してしまったらまた気になってしまうじゃないか、そう思っているのだ。それに、彼女がこちらを見ていた理由も気になる。

 彼が数日前の彼女の挙動や言動、そしてあの格好や腐臭を思い出している間に、彼女は数軒先の大きな家に入っていった。

「もしかして、金持ちだったりするのか……?」

 あの家は、かなり大きいというわけではないが、この近くではだいぶ大きい方だ。それに彼は、その家の主人がどこかの会社の社長だという話を小耳に挟んでいる。だからこそ彼は金持ちかもしれないと思ったのだが、金持ちの娘がずぼらな服装と腐臭を(まと)ってスーパーマーケットに買い物にいくとは考えにくい。使用人の娘だったりするのだろうか、と彼は思った。

 知らず知らずの内に彼は、彼女に興味を抱いてしまっていた。

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