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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君だけを見ていた

作者: 叶村美友

久しぶりの投稿です。文章がかなりあまいのでほんとに雰囲気が少しでも伝わればと思います。

些細なケンカから意地の張り合いでケンと別れてからもう3年の月日が流れていた。

男同士の恋愛ってだけでもリスクが高い。

それなのに、大学4年の冬、学食という激しい人の往来がある中で、コップになみなみと入った水をヒデにかけた事から勃発したケンカ。

あんなに人を罵ったことはない。

原因はヒデの浮気だった。それも女の子で、自分より小さくて可愛い、胸が大きな学内でも有名な女の子だった。

それに比べたら俺は完全に男。胸もなければあの可愛らしいふくらんだ口唇も持ち合わせていない。

彼女がまだスレンダーでキリっとしているなら理由も納得できたし、仕方ないとも思った。しかし、相手はちっちゃくて、ふわんと可愛らしく豊満な胸があった。

大喧嘩の末「もう、興味もなくなった。俺の前に顔を見せるな。」と、冷たく言い放たれて終わった―――

あの大騒ぎの後から当たり前だが「ホモ」だとか「俺、お前に食われたくない」だとか覚えきれない陰口と偏見の目で残りの数ヶ月を過ごした。しかも当人の彼女には「悪いんだけど、ヒデくんとは付き合ったことも、もちろん身体の関係もないからね。これは本当だから」と可愛い唇で衝撃の事実を知った。

やっぱりあんな又聞きの噂なんか信じるんじゃなかった。お陰で勘違いの勝手な妄想で突っ走って、本当のことを見失ってた。

あの頃、家賃の節約だと難癖つけてヒデが自分の住むアパートに無理矢理暮らすようになってからは毎日が幸せだった。

まだ好きだとも言えずに燻っていた時だってヒデが傍にいた。ひとつの布団で寝る幸せ。一緒にご飯が食べれる幸せ。何よりも好きな人がそばにいた幸せ。

思いきって想いを伝え、「仕方ねーな」とはにかみがちに笑った、ヒデの顔。全部、全部覚えている。

初めてキスをした時の幸せ。どうやって身体を繋げることが出来るのかと、笑いながらしたセックスも今もまだ同じ部屋に住む自分には、思い出が多すぎる。 ヒデはケンカした翌日に小さな荷物をひとつもっただけで出ていった。引き止める権利もない。ただ、胸が引き裂かれるような痛みと、自分からふっかけたケンカで結果、ヒデが出ていく。余裕ぶってソファーに寝転がっていたけど、実際にはケンが出ていくのを見ないようにした。迫りくる喪失感から逃げたかった。

涙が溢れて、きっとこの部屋の床は水浸しになるって思った。こんな時にばっかりヒデとのいい思い出しか浮かんでこなくて、陰口を言われて通う大学から帰る度に彼がよく座っていたテーブルの椅子に座って泣いていた。

後悔は死ぬほどした。

誰もいない部屋にごめんなさいと言ったってなにも伝わらない。


少しずつ季節は変わって、奇跡的に内定を貰えていた会社で働きだした。まだスーツに着られている感が強かった1年。

仕事をただただ覚えてこなしていった1年。

相変わらずな部屋の中ではコーヒーを美味そうに飲む彼はもう居なくて、ひとりで煮詰まった苦いコーヒーを飲む毎日。勝手に過ぎていく日々。

休日には窓の外を眺めながら1日が過ぎていった。 女々しいのは分かってる。それでもあんなに簡単に別れてしまう関係だとは思わなかった。

―――会いたい。会いたい。会いたい。

そしてあの時の事を許してもらいたい。また、大きかった手で頭を撫でられたら、物凄く幸せだと思う。 こんなに好きだった。

3年の月日が流れても好きだった気持ちは変わらないんだ。気持ち悪いかも知れないれど、大好きだった。今もまだ好きだと言ったら、最後に見せたあの冷たい目で嘲笑されるんだろう。それでも好きなんだ。ケン以上の人は見つからなかったし、見えなかった。 勝手に想っているのはいいよな?

勝手にずっと好きなのはいいよな?

許されることだよな?

勝手に振り回して、勝手に思い出しては彼の指定席に座り、また泣いてしまう。だってケンが傍にいないんだ。

こんな小さなアパートで、どれだけ好きだと叫んでもすぐに消えていく。伝えたい、今もまだ好きだと、愛しいと。

あの時の叫べば良かったんだ。

―――行かないで。ごめんなさい。好きなんだ。

なんで言えなかった?どうしてソファーにうずくまることしか出来なかった? もう、戻れない時間の苦しさだけが生きる糧だった。

今、どこにいるの?どこで、何してるの?

料理が下手で、家事もこなせなくて唯一、美味しく作れるのはコーヒーだけだった。

ご飯は上手く炊けるようになったかな?目玉焼きも焦がさずに作れるようになったかな?インスタントばかり食べてないかな?

相変わらずコーヒーは美味しそうに飲んでるのかな?

俺は何をしていてもあなたがいないのを辛く感じているし、ひとりのご飯にも未だに馴れなくて食事は作らなくなったよ。

何度も言うよ。

ごめんな。気持ちを疑ってごめんな。優しく受け止めてくれた想いをすごい事と思わなくなっていてごめんな。3年も経っているのに好きでごめんな。

でももう分かってるんだ。ヒデが傍にいた―――その事実が少しずつ薄れて来ていること。なぁ、今、なにしてるの?

カーテンを引き忘れた窓から灯る明かりにつぅと頬を流れた涙が光って消えた。


* * *

いつも遅くまで残業をして帰っていたヒナタは無駄に使わない時間をヒデがいない寂しさを仕事でまぎらわせていた。それが原因で働きすぎたと定時で上がる事になってしまった。

いつもなら終電ギリギリの時間に閑散とした駅を利用しているのに、人混みが半端ではない。朝も満員の電車に揺られると言うのに、しかも初夏のこの蒸し暑さ。

ヒナタのアパートまでは3駅は乗らなければならない。

空いていたベンチに腰かけたくさんの人が流れては止まる。

その流れをぼぅっと見ていた。この何百人のなかにケンはいるのだろうか。

偶然でも一目でも顔を見ることはできないだろうか……。

急にドスンと空いた隣のベンチに勢い良く座る青年がいた。疲れているのか頭を抱えていた。

綺麗な灰色に何故か見とれてしまった。これはどういう風に染めたらなるのだろう。それとも若者に見えて結構年配の方なのだろうか。

なんだか居心地が悪くなり、その場を立ち去ろうと立ち上がった瞬間―――

「ヒナタ……だろ?」

腕をひどく強い力で捕まれ、名前を呼ばれ、驚いた。誰なんだ。

顔が見えないままガシリと大きな手がヒナタの腕を掴んだまま離さない。

「だっ、誰ですか!……離してください!」

「もう……忘れたか?」

ゆっくりともたげていた首を上げ、はっきりと見えたその顔は―――

「ひ……ビデ?」

あの時より、3年前と同じ、すらりとした体型と少し大人になった顔。しかし忘れるわけがなかった顔。名前を確かめる声が震えた。本当に本物なのか?それとも、彼に逢いたくて逢いたくて幻をみてるのか?

でも、この腕を掴む痛みは幻じゃない。

「……そうだよ。」

顔をくしゃりと歪めて苦笑いをするヒデが懐かしかった。

「どう……して……?」

なぜここにいるのか。どうして?嫌われているはずなのだから、この掴まれている腕の意味もわからない。あの時の事をもっと文句を言いたいのかもしれない。罵倒しきれなかった心の燻りがヒナタを引き留めたのか。軽くパニックを起こし体温が下がるような気がしてきた。

そのヒナタの様子をみたヒデはゆっくり手を離して、またうつむいた。

「……俺に逢うのそんなに嫌だったか?」

「そ!そんなことない!」

ヒナタの反射的にでた言葉は思いの外、大きな声だったらしく、近くにいた人達が一斉にこちらを向いた。

その様子にヒデは「ちょっと出よう。」とヒナタの手を引き、改札へと逆戻りした。

人の流れと逆流してずんずんと歩いていくビデに引っ張られヒナタは理由も分からずついて行くしかなかった。どういうこと?逢いたくないのはヒデの方じゃなかったのか?

早足で改札を抜け、駅前にある古いビジネスホテルに入ろうとするビデにヒナタはたじろいだ。「話だけだ。」と口数も少なくツインの部屋を取り鍵をもって絨毯の上を歩く。

部屋に着くと押し込まれるように中に入れられ、ドアの鍵を閉められた。

ヒデの力によろけて床に思わず転げてしまった。足がふわふわと浮いているようで力が入らない。

「……悪い。」

「だ、大丈夫!なんだかびっくりして、足がもつれただけだから!」

慌てて言いわけをしながら、たったこれだけの事を喋るのも久しぶりだと思った。床に座り込んだまま、ヒデを見上げると、現実にそこにいるのだと実感した。圧倒的な存在感。これから何を言われようとも、捕まれた腕と手の痛みにまた生きていけると思った。

「…………」

ホテルについてから何も喋らないヒデについ見とれてしまうが、あの頃よりやはり顔の色が悪い。仕事が忙しいのだろうか?なんだか細くなった?

そうして10分ほど経った頃だろうか。ヒデがヒナタに近寄り小さな声で何か言った。そんな声でも低く色気のある声には違いないが本当に聞き取れなかったので「ごめん、なに?」と問いかけるといきなりベッドに投げ込まれ、ヒデはヒナタを抱え込むように抱いた。

「えっ、えっ?」

「悪かったって言ったんだよ!」

「な、なにが!?」

さっぱり意味が分からない。ヒデの行動も理解できない。今、ビデに抱きしめられている?どうして?頭の中はさらにこんからがり、バタバタと動ける足だけを動かした。

「そんなに嫌か? もう逢いたくなかったか?……俺はあの時のお前の顔が忘れられなくて、お前が作るのは飯の味も忘れられなくて!」

「……な……に……?」

「お前のことが、ずっと忘れられなかったんだよ!……すげぇ、好きなんだよ。今も……」

信じられない言葉が次々とヒデの口から告げられる。

「こんなん、気持ちわりぃかもしんねぇけど!……なんで傍にいねぇんだよ!お前はずっと昔から俺のもんだっただろ!」

かすれた声でヒデが叫ぶ言葉が信じられない。けれど嬉しくて鼓動が早くなるのもわかる。涙が後から後から流れる。

同じだったんだ。ヒデも僕と……。

「……泣くほど、嫌なのかよ。」

「ちがっ!……嬉かっ……んぅ!」

心臓が破れそうなほど高鳴っている。またこの口唇にヒデがキスをしている。さっきのヒナタの言葉を聞いた途端にヒデは遠慮なく身体に触れてきた。求めていたものは同じなんだとヒナタはやっと解放された腕でヒデの背中に手を回した。

「ふぁっ!……まっ……んっ、ん!」

「くそ、待てるか! 3年だぞ!」

キスが激しくて飲み込めなかった涎が頬を伝う。激流というのはこの事だろうか。キスの激しさについていくように次第に呼吸が合ってくる。気持ち良かった。覚えていた舌の感触。タバコを吸うせいでざらりと荒れた舌。それでもヒナタにはいつまでも味わっていたい感触。

ヒデの手が胸をまさぐりはじめた。

「待って!」

「なんだよ、やっぱり嫌なのかよ。」

「違う、違うよ、ヒデ。」

ぎゅうっと愛しいヒデの頭を抱きしめてヒナタは言葉を続けた。

「アパートね、変わってないんだ。」

「え……そうなのか?」

「うん。だから……また女の子みたいって言われるかもしれないけど!」

「けど?」

ヒナタは真っ赤になりながらヒデの耳のそばで、小さな声で囁いた。

「また、付き合ってくれるなら、あのアパートに……」

ああ、続きが言えない。恥ずかしすぎる。できるならヒデが出ていったままのアパートから始めたかった。でもきっとアパートに帰ったとて、ヒデは今から行おうとしていることを、続行するだろう。この場合ヒナタが誘う羽目になってしまっている。それに気がついたのかヒデは先程までの緊張はなくなり、ヒナタをニヤニヤと笑ってみている。 言わなければ始まらない「ああ、もう!」と叫んでおいてから

「帰ってから、続き!」

思いきって叫ぶとヒデはゲラゲラ笑いながらヒナタのよれよれになった服を整え、手をつないだ。

「よし!アパートに帰るぞ!」

行くではなく帰ると言ったヒデの言葉が嬉しくて幸せだった。

この手は2度と離したくない。

「ヒナタ、帰ってから続きな?」

「……ばか!」

ヒデの嬉しそうな顔がヒナタの頬を真っ赤に染めた。

どうだったでしょうか。読んでいただいてありがとうございました。きっと二人は喧嘩してはいちゃいちゃしていくとおもいます。

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