王様、成敗する
気付いたら昼になっていた。
迷子を送り届けたり、人の荷物を運んだり、店番の代わりを引き受けたり、食い逃げ犯を取り押さえたりしている内に。
こりゃまずいな。こんなこと知られたらゲランにうんと怒られるか、口もきいてもらえなくなる。
「さきほどはありがとう、少年」
ロマンスグレーの白髪で、灰色の衣服を着た70代ぐらいの男性が俺に頭を下げる。
「あ。さっきの飲食店の店員さんですか」
最近食い逃げで頭を悩ましていたんだよ、と男性はうつむく。それは大変でしたね、などと相槌を売っていると、男性は涙ぐむ。
「私は最下層の身分で、ここにも奴隷としてつれてこられて……君のような優しい人に会えてよかった……」
「そんな大げさな。俺は当然のことをしたまでです。……って奴隷!?く、詳しく教えていただけませんか」
それから、奴隷販売は俺たちを一度襲った十人組を中心として行われていて、活動拠点は主にドゥナルバーワの狭い小路であるという大きな手掛かりを手に入れた。
「ありがとうございました!!」
俺ははやる気持ちを抑え走り出した。
男性が教えてくれた場所の、人通りのない薄暗く入り組んだ小路に入ると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
痩せ細った人。絶望に満たされた瞳。つながれた鎖……なにもかもが、負のオーラをまき散らしている。
俺の怒りがこみ上げる。
あいつらのことなんかぜってー許さない……!!
小路の奥を見渡した、その時。漆黒の服を着た十人組が視界に入った。
「!前の王様じゃねーか」
前のことを思い出したのか、十人組は奴隷をおいて一目散に逃げる。
「逃さねえ!!」
俺は、疾風のごとく駆け、十人組を行き止まりに追い詰める。
「魔法を使う気か!?」
いや、違う。街中でやったら迷惑になるだろう。そう配慮をした俺は、ゆっくりと剣を腰から引き抜く。それを見て、十人組はうろたえさわいで、各々が太刀を取り出す。
「勝てると思ってんのか?」
カキン!!カキン!!
刀と刀が激しく打ち合わされ、盛んに音が鳴り響く。俺は一人で身をひるがえし、避けながら十人の相手をするが、あっという間に九人なぎ伏せる。
当然だろう。俺のRPGソードは、破壊的な攻撃力であり、リーチも長く、デザインも完璧。何てったってマ●ターソードとアルテマウェ●ン、それにラ●アスの剣を掛け合わせたものだからな。チートすぎるって?それは神様に言ってくれ。
「……ってあれ。二人どさくさに紛れて逃げやがった!!」
紛れるために大通りに行ったか。
予想は的中し、買い物客の中に紛れ込んでいる一人を見つける。ここで、剣を振り回したら危ない。俺がそろそろと近づくと、それに気づいた男は、近くにいた女性の首元に太刀をあてる。
「きゃあ!!」
「近づけばこの女の命はないぞ!俺を見逃して帰れ!!」
よく見ると、人質になっている女性はあのショートヘアーの女子だった。
「普通に考えてのこのこ帰るわけないだろ。ふざけんな」
怒りを通り越した俺は、足元にあった石ころを拾い上げ、男に力いっぱい投げる。
「!?」
ゴン!!
それは、男の額に的中した。男はのけぞりその場に倒れる。
よし。人質がいるのに避けるのはやっぱり不可能だったな。
女子は俺のとこに駆け寄ってくる。
「ありがとうございます!!!!」
その瞳は涙で潤んでいる。
「ケガはないか?」
「大丈夫です。怖かった……」
「無事でよかった」
俺は無意識に女子の頭を撫でると、女子は顔を真っ赤にして硬直した。
「あ。無神経だった。ごめん」
「いえ、ちょっとびっくりして」
女子の頬は安心そうに緩む。……俺は、そんな彼女にドキリとした。
それから二人で家に帰り、部屋に戻った俺はゲランに一通りのことを説明する。
「では、奴隷を解放しましょう」
ゲランは自分を納得させるようにうなずいてから、お疲れでしょうから私が一人で行きます、と建前なのか本心なのか分からないことを言って、去って行った。
「今日はよく頑張ったな、お主。」
姫はポンポンと俺の背中をたたく。なんか、ハンコの評価みたいだ。「よく頑張りました」のハナマルの。
その後、たちまち姫の表情が暗くなる。
「どうしたんだ?」
「……わらわは……何の役にも立ってないのじゃ……」
力なく姫は呟く。そんなこと思ってたのか。
「そんなこと無い。お前からは元気をもらってるんだ」
「ホントか?」
「ああ」
「お主、いい奴じゃな!!」
いい奴。その言葉に俺は引っ掛かった。俺は、本当にいい奴なんだろうか。体が勝手に動くのもあるが、結局は他人に称賛され感謝された自分に陶酔し、善行をしているような気がする。
でも、今日の奴隷販売の十人組を倒すときは、完全なる怒りや憎悪からくるものだった。
不思議そうに俺を見つめる姫の傍ら、俺は一つの結論に達した。
奴隷販売の件は、偽善ではない―――――
そんな一つの結論に。
今日はいつもの何倍も書くのに時間がかかりました。何でだろう。
本物の善を体験した主人公。それによって何が起こるのか?
次回をお楽しみに。