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善の王様  作者: 桜ちか
8/11

王様、成敗する

気付いたら昼になっていた。


迷子を送り届けたり、人の荷物を運んだり、店番の代わりを引き受けたり、食い逃げ犯を取り押さえたりしている内に。


こりゃまずいな。こんなこと知られたらゲランにうんと怒られるか、口もきいてもらえなくなる。



「さきほどはありがとう、少年」

ロマンスグレーの白髪で、灰色の衣服を着た70代ぐらいの男性が俺に頭を下げる。


「あ。さっきの飲食店の店員さんですか」

最近食い逃げで頭を悩ましていたんだよ、と男性はうつむく。それは大変でしたね、などと相槌を売っていると、男性は涙ぐむ。


「私は最下層の身分で、ここにも奴隷としてつれてこられて……君のような優しい人に会えてよかった……」

「そんな大げさな。俺は当然のことをしたまでです。……って奴隷!?く、詳しく教えていただけませんか」


それから、奴隷販売は俺たちを一度襲った十人組を中心として行われていて、活動拠点は主にドゥナルバーワの狭い小路であるという大きな手掛かりを手に入れた。


「ありがとうございました!!」

俺ははやる気持ちを抑え走り出した。



男性が教えてくれた場所の、人通りのない薄暗く入り組んだ小路に入ると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

痩せ細った人。絶望に満たされた瞳。つながれた鎖……なにもかもが、負のオーラをまき散らしている。


俺の怒りがこみ上げる。

あいつらのことなんかぜってー許さない……!!


小路の奥を見渡した、その時。漆黒の服を着た十人組が視界に入った。


「!前の王様じゃねーか」

前のことを思い出したのか、十人組は奴隷をおいて一目散に逃げる。


「逃さねえ!!」


俺は、疾風のごとく駆け、十人組を行き止まりに追い詰める。

「魔法を使う気か!?」

いや、違う。街中でやったら迷惑になるだろう。そう配慮をした俺は、ゆっくりと剣を腰から引き抜く。それを見て、十人組はうろたえさわいで、各々が太刀を取り出す。


「勝てると思ってんのか?」


カキン!!カキン!!


刀と刀が激しく打ち合わされ、盛んに音が鳴り響く。俺は一人で身をひるがえし、避けながら十人の相手をするが、あっという間に九人なぎ伏せる。


当然だろう。俺のRPGソードは、破壊的な攻撃力であり、リーチも長く、デザインも完璧。何てったってマ●ターソードとアルテマウェ●ン、それにラ●アスの剣を掛け合わせたものだからな。チートすぎるって?それは神様に言ってくれ。


「……ってあれ。二人どさくさに紛れて逃げやがった!!」


紛れるために大通りに行ったか。


予想は的中し、買い物客の中に紛れ込んでいる一人を見つける。ここで、剣を振り回したら危ない。俺がそろそろと近づくと、それに気づいた男は、近くにいた女性の首元に太刀をあてる。


「きゃあ!!」

「近づけばこの女の命はないぞ!俺を見逃して帰れ!!」

よく見ると、人質になっている女性はあのショートヘアーの女子だった。


「普通に考えてのこのこ帰るわけないだろ。ふざけんな」

怒りを通り越した俺は、足元にあった石ころを拾い上げ、男に力いっぱい投げる。


「!?」


ゴン!!


それは、男の額に的中した。男はのけぞりその場に倒れる。

よし。人質がいるのに避けるのはやっぱり不可能だったな。


女子は俺のとこに駆け寄ってくる。


「ありがとうございます!!!!」

その瞳は涙で潤んでいる。


「ケガはないか?」

「大丈夫です。怖かった……」

「無事でよかった」

俺は無意識に女子の頭を撫でると、女子は顔を真っ赤にして硬直した。


「あ。無神経だった。ごめん」

「いえ、ちょっとびっくりして」

女子の頬は安心そうに緩む。……俺は、そんな彼女にドキリとした。



それから二人で家に帰り、部屋に戻った俺はゲランに一通りのことを説明する。



「では、奴隷を解放しましょう」

ゲランは自分を納得させるようにうなずいてから、お疲れでしょうから私が一人で行きます、と建前なのか本心なのか分からないことを言って、去って行った。


「今日はよく頑張ったな、お主。」

姫はポンポンと俺の背中をたたく。なんか、ハンコの評価みたいだ。「よく頑張りました」のハナマルの。

その後、たちまち姫の表情が暗くなる。


「どうしたんだ?」

「……わらわは……何の役にも立ってないのじゃ……」

力なく姫は呟く。そんなこと思ってたのか。


「そんなこと無い。お前からは元気をもらってるんだ」

「ホントか?」

「ああ」

「お主、いい奴じゃな!!」


いい奴。その言葉に俺は引っ掛かった。俺は、本当にいい奴なんだろうか。体が勝手に動くのもあるが、結局は他人に称賛され感謝された自分に陶酔し、善行をしているような気がする。

でも、今日の奴隷販売の十人組を倒すときは、完全なる怒りや憎悪からくるものだった。



不思議そうに俺を見つめる姫の傍ら、俺は一つの結論に達した。



奴隷販売の件は、偽善ではない――――― 



そんな一つの結論に。




























今日はいつもの何倍も書くのに時間がかかりました。何でだろう。


本物の善を体験した主人公。それによって何が起こるのか?


次回をお楽しみに。

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