王様、朝食に興奮する
チュンチュン。小鳥のさえずる声が聞こえ、柔らかい朝日が窓から差し込む。
「んん゛……あぁ」
眩しさに耐えかねて起きると、ゲランは既に支度を整えているところだった。ゲランの髪には寝ぐせひとつなく、切れ長の目はぱっちりと開かれている。驚くほど抜け目がない。
隣を見ると、無邪気な寝顔をした姫が寝相よく布団から顔を出している。起こすのもかわいそうか。
「王様、朝食はいかがいたしましょう」
「……あ。そういや昨日から保存食しか食ってなかったな。何でもいいけど?」
そうだ。食品も魔法で出せるんじゃないか?なんて思ったがさすがにそこまで万能ではないらしい。顔を真っ赤にして念じたが無駄だった。
「……それくらい町で買う金はあります、王様」
ですよねー。ゲランはすっかりあきれた様子だ。俺が王様なの納得いってないだろうな。俺自身も納得いってないが。
それからゲランは、朝市で食材やフライパンなどを買ってくると、狭いキッチンで調理を始めた。
脂ののった魚のいい匂いが漂う。さっきからゲランは箸一膳とコンロひとつしか使っていないが、キュー●ーの三分クッキングのように、みるみるうちに料理が出来上がっていく。もう、「出来たものはここに……」と下から取り出しそうなくらいの勢いだ。
瞬く間に食卓に並んだのは、
白身魚の香ばしいバター焼きに、深い緑の野菜を塩コショウして炒めたもの、それに、鼻腔をくすぐるさわやかな香りを漂わせる果物の盛り合わせ。
どれも見たことも無い種類の食材だが、美味しそうなのに変わりはなかった。ゲラン、すげぇ。
匂いで自然と目を覚ました姫を加えて、三人で食卓を囲む。
「いっただきまーす」「いただくのじゃ!!」
食欲を抑えきれず身を乗り出す俺たちに構わずゲランははっきりとした口調で唱える。
「我今幸いに、仏祖の加護と衆性の恩恵によって、この清き食を受く。つつしんで食の来由をたずねて味の濃淡を問わず。其の功徳を念じて、品の多少をえらばじ。いただきます。」
畜生なんなんだよ、物凄くカッコいいぞ、それ。ゲラン、マジで何者なんだ。
内心羨ましいと思いながら、俺は魚を口に運ぶ。その瞬間、言葉に言い表せない旨みがぶわぁ、と口の中に広がった。
「うんめぇ――――――――――!!!」
俺は思わず立ち上がってしまった。行儀が悪いと姫にたしなめられる。悪い悪い、あんまりうまいもんで……
「……それは良かった」
ゲランは独り言のようにそう言うと、満足げに微笑んだ。
「……!お前、そんな風にも笑うんだな」
「?気のせいでは」
こいつ、重症だな。なぜ、感情を抑えているのか気になるところだ。
それから食事を終え、片づけをしたゲランは表情無く淡々と言う。
「では、ドゥナルバーワの中心街に向かいます。その路地裏などを探ってみましょう」
「ああ。……アレ?」
俺は、姫に目を向ける。
「こいつの面倒は?ついてきたら危ないし、一人にしちゃかわいそうだろ」
だから言ったんですよ……という風にゲランはため息をつく。
結局俺が一人で探索することになったのだが。
「そこのおばあさん!家まで荷物運びますよ!」
「あらまぁ~助かるわぁ」
こんな具合に、体が勝手に善行にはしるお蔭で、寄り道だらけの一日になるのである――――
ゲラン、凄すぎな回でした。
短い更新を重ねるのでよろしくお願いいたします。