王様、美少女に出会う
俺たちは町の一角に足を踏み入れた。
「ここが、ドゥナルバーワか。案外規模が小さいな。これならすぐに、奴隷販売なんて見つかるだろ」
ドゥナルバーワは、山に囲まれた小高い丘とその周辺に家が立ち並んでいる、円状ピラミッドのような町だ。夕暮れ時ということもあって、家々からもれる光が幻想的な雰囲気を作り出す。
道を行く人々は皆、緑に黄色の刺繍がしてある着物を着ている。俺たちも、魔法で出した同じ色の着物を着用し、うまくまぎれこむことができた。
全体的に、せわしなく速足で歩いている人が多い。どうやら家に帰る時刻のようだ。
ゲランはキョロキョロと周りを見渡す。
「いい時刻に到着しました。これで周囲にも怪しまれずに済みます」
「あとは、宿か」
姫はさっきから何度も疲れたと言っているので、早く休憩を取らなければならない。今は、ぐったりとしていかにも疲労困ぱいというかんじだ。
早くどうにかしてやりたいという俺を、ゲランはキッとした顔で睨む。
「宿なんて泊まったら旅する者だとばれます。奴隷販売の者たちは、宿の動きも見張っているでしょう。ここは、町の者と交渉するのが得策です」
「交渉って……どうやって!?」
ゲランは、俺の腰にぶら下がっている硬貨を指さす。ああ、金ね。って結局この世界でも金かよ!!
そんな中、前を走る女子が、何か光るものを落とす。金色の指輪だ。俺は急いでそれを拾い上げ、前を行く女子を追いかける。
俺は神から力をもらったおかげか、風を身で切りながら、あっという間に追いついた。
「あの、これ落としましたよ」
「!ありがとうございます」
振り返った女子にはっとする。ふわふわした茶色のショートヘアーに、ぱっちりとした二重の大きな瞳。鼻も口も主張しない感じに収まっている。
か、かわいい。まさに美少女。俺と同い年くらいだが、いつこの世界に来たのだろうか。
「これ、最近お給料で買った指輪なんです。よかったぁ」
女子の顔はぱぁ、と花が咲いたように明るくなる。この世界でも仕事というものがあるのか。俺は少々驚いていると、ゲランは俺に耳打ちする。
「この者と交渉しましょう。恩を売ったものへの交渉は成功率が高い。さぁ、早く」
こいつ、腹黒いな。でも、姫も早く早くとせかしてくるので、仕方ない。
「あの、君、一人暮らしかな?」
気味の悪いナンパかよ!と心の中でセルフツッコミを入れながら、女子の様子をうかがう。
「いえ、共同住宅です。今の言葉で言うと、シェアハウスってとこでしょうか。……でも、何でそんなこと聞くんですか」
女子は不審そうにこっちを見ている。しまった。慌てていると、ゲランが女子に歩み寄り、手を前に突き出して、手にした金をジャラジャラと鳴らした。
「私たちは怪しいものではありません。身分は明かせませんが、悪を正す仕事でこの町に来ております。秘密を守り、その住居に私たちを泊めるというならば、この金を渡しましょう」
いや十分怪しいものじゃねーか。でも、女子は口をポカンとあけてから、素直にこう言った。
「お仕事なんですね。ということは、しばらくここにいるということでしょうか。それなら、空き部屋があるので大家さんに聞いてみます」
それから、俺たちは金の力でいつ退居してもいいという契約を結び、そこに住むことになった。
人数にしては狭い部屋で、外気はもれこむし、かなりぼろいが、生活に必要なものはそろっているので問題ない。
「こんなはずでは……」
すすで汚れたような壁を見上げてゲランは想像以上に落ち込んでいる。
「いや、ゲラン、用が済んだらさっさとここから去ればいいんだし、少しの我慢だ」
すぴーすぴーと安心そうに寝息を立てる姫をしり目に、ゲランを励ます俺。ゲランは、王様らしくない、こんな王様は前代未聞です、と珍しく感情をあらわにする。
しかし、しばらくしてゲランも疲れが出たのか、無言で横になった。不本意だということが、背中で分かる。俺は、あの女子と同じ屋根の下か、というちょっと浮かれた雑念を抱えてるのにな。
そんなこんなで、ドゥナルバーワでの第一夜は明けるのだった。
この話、最初は王様がかっこよく活躍する話だったのですが、「チート能力もちなのにコツコツ善行を積む地味な主人公」がコンセプトなので、こんな話になりました。
たまに、地味じゃない動きのある回を挟む予定です。でも基本地味ですのでよろしくお願いいたします。