王様、敵襲にあう
「おんぶなのじゃ」
姫は俺の服の裾をキュッキュッとひっぱる。
「まだちょっとしか歩いてないぞ。歳とってるならもう少し頑張ったらどうだ」
「むむ。確かにここには長年いる。だが、子供の体は疲れやすいのじゃ」
「仕方ないな」
俺はひょいと姫を背負う。とても軽い。ゲランはそれを見てため息をつく。
「そんなことやっていらっしゃると、ますます到着が遅くなりますよ」
俺は片手でガッツポーズをつくる。
「大丈夫だ。困っているご老人を何度も背負ったこの俺だ。筋力には自信がある。早くも走れるぞ」
走ってみせると、姫は「……ひどいのじゃ、こわいのじゃ」と蚊の鳴くような声を出す。
「ごめんごめん」
ここのあたりは、山の一部分で、人が通るところには土が露出している。
この山をひと越えすると、ドゥナルバーワという発展した町に到着する。
俺たちは、そこへ向かっていた。
「奴隷販売は大きな町で密かに行われていることが多いです。何度摘発しても組織が大きいようで途絶えることがありません」
「そうか。この俺が組織の元を捕えて、奴隷販売なんて根絶して見せるッ!!」
「姫も町でお買い物をしていたところをさらわれたのじゃ」
背中から声がする。
「ったく一人で買い物なんかすんなよ。危ないだろ」
「うぅこの姿じゃなければ……」
その時だった。
「王様はっけーん!!」
茂みから十人組が姿を現す。皆、漆黒の着物を着た大男。手には太刀が握られている。
ゲランに耳打ちする。
「オイ。この世界に武器とかあるのかよ」
「ハイ。この世界では人は死にませんが、武器が処刑のために生み出されたのです。どんなに大きな傷を負っても1カ月で治るのでご安心を」
安心できねー。痛みとかあるんじゃ……。考えるとぞっとする。俺は姫を少し離れた木の本におく。
「ここで待ってろ」
姫は恐怖でカタカタと震えている。ここは俺が倒さなければ。でも、そんなことできるのか!?
「奴隷販売を禁じようといっても、そううまくいかないぜ。王様、あんたには痛い目に遭ってもらい、恐怖を植え付けてやる」
ひげを生やした大男の一人はわっはっはと笑い出す。それを見て、ゲランは腰から長剣を引き抜く。
あ。
俺。
腰のあたりを触る。丸腰だ。
「うわっはっは。王様、抵抗もできないようだな。ズタズタにしてやるよ」
俺は脳に冷や汗をかきながら思い出す。そうだ。俺は、魔法がつかえたはずだ。
燃え上がる火をイメージする。火……火……!!
ゴォォォォォォォ!!!
緋色の炎が、俺と敵の間に火の粉を散らしながら天に向かって燃え上がる。火の気は収まることを知らず、一帯に陽炎を生む。
「うわ、なんだ!?」
敵はおろおろし、逃げ惑っている。
「魔法だよ。なんならお前たちを真っ黒焦げにすることもできるぜ?」
「ひぃー!!すんませんでした」
敵はチリチリバラバラになって去ってゆく。
「チッ。逃げられたか」
「本当に火だるまにして真っ黒焦げにすればよかったのに」
ゲランは微笑を浮かべている。怖っ。コイツ、危ない奴だよ!
姫は、ぱちぱちと拍手しながら近寄ってくる。
「やるではないか。見直したぞ」
俺は、自慢げにザァーッと水の柱を出し、火を消火して見せる。姫は目をパチクリさせながら「おおー」と驚いている。かわいい。
ゲランは俺を真剣な顔でまっすぐに見る。
「王様。魔法は王の特権ですが、身分をあかさずに行動した方が、気付かれにくいかと思いますので、剣を使ってみては」
「そうなのか。」
俺は剣をイメージする。カッコいいRPGのソード……
ドスン!!
宙に浮かんで落ちる。思った通りのものが出てきた。
「……この剣はいささかこの世界に合わないような気がしますが」
「いいんだよ、カッコいいから」
俺は剣をふるってみせる。重たい剣のはずなのに、軽々と振り回すことができる。さすが、王様。武力もくれるっていってたもんな。RPGによくある無駄に美しい剣のしまい方をすると、ゲランはあきれたように、首を左右に振った。
「あんまり目立たないようにして下さいね」
「ハイハイ」
地味に生きてきた俺が、日の目を見たようで俺は嬉しさでいっぱいだった。
よかった。もうこの世界でいいんじゃないか、俺。
俺は、神が、自身を始終見ていることを忘れて、スキップで歩き出していた……
王様は、今まで頑張ってきた分チートですね。そろそろ神が出てきそうです。
更新予定より大幅に遅れてすみません。連載は不定期でも頑張っていこうと思っていますのでよろしくお願いいたします^^