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善の王様  作者: 桜ちか
3/11

王様、奴隷を仲間にする

ギ……ギ……


金銀の装飾の施された牛車に揺られながら目的地に向かう。

目的地は奴隷販売の温床になっている、治安の悪いらしい、トナンという場所だ。


俺は牛車なんてものに乗りたくはなかったが、ゲランが「高貴なる位の方は気安く外を歩いてはなりません」と言って許してくれなかったので、仕方なくだ。


簾を少し上げて、ちらっと外を見ると、高い山々が並び立ち、うっすらと霧がかかっている、どこの国ともいえないような広大な土地が広がっていた。

今は、木々に囲まれた緩やかな傾斜を進んでいる。


「トナンにはどれ程で着くんだ?」

「もうすぐです」

ゲランは涼しい顔をして言う。さっきももうすぐって言ってなかったか?信用ならない。っていうかこの狭い空間に野郎と居たくないんだが……


熱が籠って蒸し熱い。が、ゲランは全く気にしていないようだ。


額から噴き出す汗をせっせと拭いていると、牛車が止まる。


「ここです」


牛車から降りると、小さな集落が広がっていた。どの家も藁葺屋根に土壁で、みすぼらしい。王宮とは天と地ほどの差がある。


「ここに住んでいるのはどんな位の者なのか……?」

ゲランは間をおかずにサラッと答える。


「王様が上の一番上とすると、ここの者は下の、下から三番目ほどです」

そ、そんな細かく分かれているのか。これよりまだ下がいるなんて。


「驚かれているようですが、生前の行いによる位ですから同情する必要はありません」

「うぐ……とはいってもだな……」

ゲランはキッと睨む。怖いよ。ぜってー俺のこと格下に見てるだろ、内心は。


ここで俺は気付く。何だか人気ひとけがないぞ……?


試しに一つの家をノックしてみるが、返事はない。


ゲランはハッと口元に手をあてる。


「もしかしたら動向を知られたかもしれません。伝達係から情報を知り、一斉に逃げ出した恐れがあります。せいぜい次の集落あたりまでの移動でしょうが。」

「おいおい。やっぱり少人数で歩いてきた方がよかったんじゃ……」

「……」


すると、小さな子がトコトコと、こちらに歩いてくる。

女の子だ。歳は6歳くらいだろうか。

ひな人形のように小さな口と鼻、それに釣り合わないほど大きな黒い瞳。サラサラとした艶のある髪を二つに束ねている。

体は細く、小さくて茶色の着物がだぼだぼだ。



「どうしたのかな、キミ……」

「お主は何者じゃ。奴隷を買いに来たのか。残念だったな、もう皆は逃げたぞ。わらわしかおらぬ」


姿に似つかわしくない喋り方だ。もしかしたら、大昔に亡くなってここに来たのかもしれない。


「俺は、王様だ。どうして君だけが残ってるのか教えてくれるかな?」

すると女の子は頬を膨らませる。


「なんでなんじゃ!皆してわらわを子ども扱いしおって!!わらわはずーっと昔にここに来たのだぞ!!元は高貴なる姫じゃから、こんな着物もへんぴなところも釣り合わぬし。なにもかもぷんぷんなのじゃ!!」


俺はつい笑ってしまった。中身が子供から成長していないようで、おかしかった。


「何にやけておるのじゃ!!許さんぞ!!お主が、王様なんて信じぬぞ!!」


そんな俺たちのやりとりにあきあきしたのか、ゲランは首をすくめる。


「この子供は奴隷の一人のようですね……こんな小さな子供がこの集落の位、とはありえないことです。どこからかさらわれたのだと思います。しかし、なぜここにとりのこされているのでしょう」


「それはな、車にわらわ一人分乗り切れなかったのじゃ」

女の子は少し寂しそうに俯く。


「こんな子供を一人残すなんて……奴隷販売といいどうしようもないやつらなんだな。」

俺の同情していた気持ちは吹き飛び、悪を憎む気持ちが強まる。


ゲランは俺に近づきコソッという。


「……どうします?この子供。」


「それは……決まっているだろう。連れていく」

「こんな子供足手まといですよ。この世界では人は死にませんし、ほっとくのが一番かと」


ゲランはやはり冷徹な人間だ。この世界に来てからこうなったのかもしれないが。

そんな俺たちの様子を察したのか女の子は俺の着物を引っ張る。


「連れていくのじゃ!!わらわを。わらわのことは姫と呼ぶがいい。」


姫、か。自称、姫だな。まあかわいいからよしとするか。


俺は手をグーにして天に挙げる。


「じゃあ、姫、いくぞ!!奴隷販売を食い止めるぞ!!」

「うむ!!」


「やれやれ、ですね……」


牛車を乗り捨てて、俺たちの旅は始まった。

凸凹迷コンビですね。姫の身分はだんだん明らかになります。

お楽しみに!!

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