王様、奴隷を仲間にする
ギ……ギ……
金銀の装飾の施された牛車に揺られながら目的地に向かう。
目的地は奴隷販売の温床になっている、治安の悪いらしい、トナンという場所だ。
俺は牛車なんてものに乗りたくはなかったが、ゲランが「高貴なる位の方は気安く外を歩いてはなりません」と言って許してくれなかったので、仕方なくだ。
簾を少し上げて、ちらっと外を見ると、高い山々が並び立ち、うっすらと霧がかかっている、どこの国ともいえないような広大な土地が広がっていた。
今は、木々に囲まれた緩やかな傾斜を進んでいる。
「トナンにはどれ程で着くんだ?」
「もうすぐです」
ゲランは涼しい顔をして言う。さっきももうすぐって言ってなかったか?信用ならない。っていうかこの狭い空間に野郎と居たくないんだが……
熱が籠って蒸し熱い。が、ゲランは全く気にしていないようだ。
額から噴き出す汗をせっせと拭いていると、牛車が止まる。
「ここです」
牛車から降りると、小さな集落が広がっていた。どの家も藁葺屋根に土壁で、みすぼらしい。王宮とは天と地ほどの差がある。
「ここに住んでいるのはどんな位の者なのか……?」
ゲランは間をおかずにサラッと答える。
「王様が上の一番上とすると、ここの者は下の、下から三番目ほどです」
そ、そんな細かく分かれているのか。これよりまだ下がいるなんて。
「驚かれているようですが、生前の行いによる位ですから同情する必要はありません」
「うぐ……とはいってもだな……」
ゲランはキッと睨む。怖いよ。ぜってー俺のこと格下に見てるだろ、内心は。
ここで俺は気付く。何だか人気がないぞ……?
試しに一つの家をノックしてみるが、返事はない。
ゲランはハッと口元に手をあてる。
「もしかしたら動向を知られたかもしれません。伝達係から情報を知り、一斉に逃げ出した恐れがあります。せいぜい次の集落あたりまでの移動でしょうが。」
「おいおい。やっぱり少人数で歩いてきた方がよかったんじゃ……」
「……」
すると、小さな子がトコトコと、こちらに歩いてくる。
女の子だ。歳は6歳くらいだろうか。
ひな人形のように小さな口と鼻、それに釣り合わないほど大きな黒い瞳。サラサラとした艶のある髪を二つに束ねている。
体は細く、小さくて茶色の着物がだぼだぼだ。
「どうしたのかな、キミ……」
「お主は何者じゃ。奴隷を買いに来たのか。残念だったな、もう皆は逃げたぞ。わらわしかおらぬ」
姿に似つかわしくない喋り方だ。もしかしたら、大昔に亡くなってここに来たのかもしれない。
「俺は、王様だ。どうして君だけが残ってるのか教えてくれるかな?」
すると女の子は頬を膨らませる。
「なんでなんじゃ!皆してわらわを子ども扱いしおって!!わらわはずーっと昔にここに来たのだぞ!!元は高貴なる姫じゃから、こんな着物もへんぴなところも釣り合わぬし。なにもかもぷんぷんなのじゃ!!」
俺はつい笑ってしまった。中身が子供から成長していないようで、おかしかった。
「何にやけておるのじゃ!!許さんぞ!!お主が、王様なんて信じぬぞ!!」
そんな俺たちのやりとりにあきあきしたのか、ゲランは首をすくめる。
「この子供は奴隷の一人のようですね……こんな小さな子供がこの集落の位、とはありえないことです。どこからかさらわれたのだと思います。しかし、なぜここにとりのこされているのでしょう」
「それはな、車にわらわ一人分乗り切れなかったのじゃ」
女の子は少し寂しそうに俯く。
「こんな子供を一人残すなんて……奴隷販売といいどうしようもないやつらなんだな。」
俺の同情していた気持ちは吹き飛び、悪を憎む気持ちが強まる。
ゲランは俺に近づきコソッという。
「……どうします?この子供。」
「それは……決まっているだろう。連れていく」
「こんな子供足手まといですよ。この世界では人は死にませんし、ほっとくのが一番かと」
ゲランはやはり冷徹な人間だ。この世界に来てからこうなったのかもしれないが。
そんな俺たちの様子を察したのか女の子は俺の着物を引っ張る。
「連れていくのじゃ!!わらわを。わらわのことは姫と呼ぶがいい。」
姫、か。自称、姫だな。まあかわいいからよしとするか。
俺は手をグーにして天に挙げる。
「じゃあ、姫、いくぞ!!奴隷販売を食い止めるぞ!!」
「うむ!!」
「やれやれ、ですね……」
牛車を乗り捨てて、俺たちの旅は始まった。
凸凹迷コンビですね。姫の身分はだんだん明らかになります。
お楽しみに!!