王様、旅に出る
しばらく俺は唖然としていると、土下座をしている内の一人が顔を上げ、近寄ってきた。
和風の整った顔立ちの青年。長い黒髪を後ろで束ねている。服はエンジ色の着物に白の刺繍だ。
「王様。私は側近のゲラン・ハヴベル・ドゥーと申します。これからのことをご説明いたします。ご無礼がありましたらご遠慮なく処罰ください。」
「は、はぁ。」
処罰、て。そんな恐ろしいことが俺にできそうもない。ホントにいいのか、こんな俺が王で。
「質問いいですか」
ゲランは表情一つ変えない。冷静なんだな。
「どうぞ」
「神がなんですぐに消えたのか疑問なんですが。」
あんな少しの説明であとはここの人間にまかせるなんて不親切すぎやしないか。
ゲランはコホン、と咳払いをする。
「神は、あなた様が思っているよりも忙しい。生きているもの全員の善悪の行いを記録しなければならないのです。死んだ者の送り届けも神が監督しなければなりません。誤りのないように。」
「送り届け……?」
「地球の雲の上に天国が存在しないのはご存知でしょう。ですから、人は死んだら、魂が自動的に、ワームホールによって別の宇宙にある地球と瓜二つな惑星に送られます。そこにあるのが天国です」
「はぁ」
なんだかSFっぽくなってきたぞ。だが宗教を信じてなかった俺はすんなりと受け入れた。
「本題に戻りましょう。神はあなた様にチャンスをお与えになりました。このチャンスは、一世紀に一人いるかどうかの王だけのものです。これまでに王のうち半数の者が元の世界に帰ることができましたのでご安心を」
じゃあ、希望はあるのか。暗闇にさす一筋の光。しかし……
「残り半数は……?」
「ここに残りたがった者たちです。ここでは死んだ歳からは、歳をとりませんし、死ぬこともありません。秀でた能力を得た王のことですから、当然のことかもしれません。」
なんだって。
「じゃあ、前の王はどうなったんだ。俺のせいで……」
「ご心配なく。王を退いた後もこの王宮に住むことができます。」
なんだか魅力的な世界に見えてきた。いやまてまてこの理屈だと老人だらけの世界なんじゃ……俺はまだ恋もしたことがない。やはり帰らなくては。くだらない理由のようだが俺は真剣だった。
「じゃあ、どうすればいいんだ!?」
「ここでの成長は、神が判断することです。具体的にどうということではありません。私はとりあえず、公務をなされば宜しいのでは、とご提案させていただいております。成長が望めるでしょう」
公務……すると、考えただけで、ポン、とぶ厚い本のようなものが出てきた。
宙に浮かんでクルクルと回っている。俺は魔法も使えるのか。驚きながらその本を手に取り、めくる。
中には流麗な行書体で書かれた依頼が、びっしりと並んでいる。読める、読めるぞ……
大きなことから小さなことまで……この国はこんなにいざこざが起こっているのか。するとある四文字に目が留まる。奴隷販売、の文字だ。
「なんでこんなことが天国で!!」おれは憎悪を覚えた。
するとゲランは、眉をピクリとも動かさないで口を開いた。
「ここでの位は、神が言ったように生前の善行の数によるものです。その位は一生ここでは変わりません。それに絶望を感じ荒れる者もいるようなのです」
誰が考えたんだ。いくらなんでもシビアすぎる。
「そっそんな。そんな制度変えちまえばいいんじゃないか。俺が変えてやる。ここで善行をつめば、上の位に上がれるように……」
そう言うと、キッとゲランはこちらを睨む。
「甘い。甘いですよ。ここは生前の行いに反省するための場所。自分の位を受け入れないようでは、天国に来た意味がありません。」
「そうかな。ここで悪行に走っちゃ本末転倒だと思うけど。それに位を受け入れるってなかなかできないと思うよ。ゲランさんは自分の位が高いからそう思うんじゃない」
「あなたも王様でしょう。なぜそのようなお考えを……」
ゲランは目を見開いた。
俺は、奇異な存在なのかもしれない。俺のような考えを持った王は、今までいなかったのだろうか。
「決めた。ここに行くよ。奴隷販売……実際にこの目で見て行いを正してやる」
ゲランはため息をついた。
「そうですか。お供します」
俺は立ち上がった。
ついに旅が始まります。新たな仲間も加わる予定なので待て次号!!ですね 笑
ちなみに天国はいくつもあり、その中でアジア人が集められる天国に行ったようなイメージです。設定が小難しくてごめんなさい。