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デブ専の親友のデートを追跡してみた

作者: カルタ

 『デブ専』という言葉を知っているだろうか。

 まあ難しい意味なんてまったくなくて、ただ太った人が好きな人を指す言葉だ。


 俺の親友、中森雄一郎はデブ専だ。


 外見は悪くない。むしろ良い。上の中くらいのイケメンだ。

 成績も優秀。運動はそこそこ。性格はサッパリしていてクラスの人気者。だがデブ専だ。


 例えば、雄一郎の伝説にこんなものがある。


 ある日、雄一郎は校舎裏に呼び出された。

 そこに居たのは同じクラスの丸井原太子。体重約80キロの巨体を誇る女子だ。ちなみに通称『重戦車』。

 「わ、私と……つ、つつ付き合ってください!」

 脂肪で覆われたかのようにくぐもった声で言った太子に、雄一郎はこう言ったらしい。


 「……はっ!! 脂肪が足りねえよ」


 まあ、とりあえず雄一郎がデブ専だということを理解してくれればいい。今の太子の体重が90キロだってことなんかどうでもいいんだ。


 伝説の日から一年。雄一郎に彼女ができたらしい。

 先週の木曜日にやたら嬉しそうな顔で俺に報告してきた。後ろの席では重戦車がエンジンを温めていた。怖かった。

 そして今日。雄一郎はこれからデートだ。

 昨日やたら嬉しそうな顔で俺に報告してきた。後ろの席では重戦車が発車準備を完了していた。怖かった。

 90キロ(当時80キロ)の巨体をもってしても篭絡できなかったデブ専。はたしてその彼女は一体どんな女なのか。俺の頭の中には『追跡する』以外の選択肢はなかった。


 そうして迎えた夏休み目前の蒸し暑い日。

 雄一郎を追跡すること20分。雄一郎はある一軒家の前で立ち止まった。彼女の家だろう。

 彼女の運動量を減らし、体重を維持させるために迎えにいくなんて流石は雄一郎だ。


 ドアチャイムを鳴らして待つこと5分。遅いなぁ、と思いながらドアに注目していると、視界の端で何かが動いた。

 ドアの横。おそらく庭に通じているであろう通路から出てきたそれは、重戦車すら生ぬるい。まさしく移動要塞だった。……なるほど。ドアから出れないから庭から出たのか。


 おっと! 雄一郎と彼女(とりあえずデブ子と呼ぶ)が移動を開始した。追跡を続行する。


○・○・○


 しばらく綺麗な映像を見てお待ちください。


○・○・○


 おぞましい光景だった。

 ショッピングモールに着いたまではよかった。昼食に入ったラーメン屋さんで替え玉8玉食べたのもいい。予想の範囲内だ。


 ただ水着の試着だけはやめてほしかった!


 これから太る分を考えてわざわざ昼食後に行ったのだろう。

 二人が売り場に入った途端に客が逃げ出したのは笑えた。逃げられない店員の顔が引きつってたのは超笑えた。試着を見た瞬間、笑えなくなった。


 そんなこんなで、ショッピングモールの売り上げにマイナスの意味で貢献した二人は、帰るために一階のロビーに降り立った。

 そして、今日最大の事件が起こる。


 幸せそうに歩く二人の前に、『重戦車』丸井原太子が立ちふさがったのだ。

 太子はデブ子を指差して喚いている。彼女に絡まれイラッとしたのか雄一郎が一歩前に踏み出す。しかし、デブ子がそれを手で制した。

 デブ子と太子は向かい合い、にらみ合い、そして四股しこを踏んだ。……四股?


 次の瞬間、ロビーに衝撃がはしる。


 ぶつかりあう巨体と巨体。四股を踏んでいたが、相撲のルールなんてガン無視だ。

 ほとばしる汗。揺れる大地。それを恍惚とした表情で見つめる雄一郎。まさしく変態である。


 勝ったのはデブ子だ。渾身の張り手が太子の分厚い脂肪を突き破り、意識を刈り取った。

 緊張の糸が切れたのか、その場にへたり込むデブ子。全然可愛くない。

 腰が抜けて立てないデブ子を見た雄一郎は近くを通った業者から台車を借り、それにデブ子を乗せて帰っていった。


 こうして、我が親友の初デートが終わったんだ。


 次の日、雄一郎は喜々として俺にデートの経過を報告した。

 後ろの席では重戦車が修理中の身体で戦闘準備を整えていた。怖かった。

一年ぶりの投稿になります。カルタです。

またも終始ノリだけで突っ走ってしまいました。後悔はしていない、反省はしている。でも直らない!


さて、今回もまたくだらない小説を最後まで読んでくれた方に感謝を。少しでも笑ってくれた方には最大級の感謝を。

以上、カルタでしたー。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 観察役の主人公が、冷静に二人のデートを解説していく描写が笑いを誘う。 主人公とヒロインという立場ではなく第三者の目線からのラブコメというのが斬新。 [一言] 二人の行く末がどうなるのか気…
2015/01/05 10:53 退会済み
管理
[一言] そういう人も広い世の中にはいますよね~ 想像をふくらませてこういう話まで書けるのが羨ましいです。
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